あらゆるモノづくり企業にとって、生産設備の安定稼働は大きな課題だ。どれだけ画期的な製品を開発しても、あるいはどれだけ効率的なサプライチェーンを実現したとしても、計画通りに製品を製造できなければ、その価値の大半は失われてしまう。
日本の製造業は伝統的に、いわゆる「カイゼン活動」を通じて、現場主導による生産品質の向上に長年取り組んできた。定期的に熟練技術者が生産設備を詳しく点検し、ちょっとした異音や、ほんのわずかな臭いなどから、不具合や故障をいち早く察知するといった具合だ。
こうした熟練工による優れた設備保全が、日本の製造業の国際競争力を支えてきたのだが、近年では熟練工の減少によって、そのアドバンテージが薄れつつある。生産設備をメンテナンスする人材を確保することが難しくなり、設備の稼働状況や保全状態の正確な把握も、以前と比べ困難になった。国内外に構える生産拠点の設備をいかに停止させることなく計画通りに動かせるかが、競合他社との大きな差別化要因になってきている。
製造業の将来の競争力を担う「予知保全」の実現に向けて
そこで近年脚光を浴びているのが、「予知保全」という考え方だ。故障が起きてから対応を行うのではなく、故障やトラブルが起きる前に先回りして予防策を講じることで、生産設備の稼働率を最大化しようというものだ。
現在、IoTやAI(人工知能)を応用した予知保全の技術開発が進められているが、その多くはまだ実用段階にはない。ただし、今からでも、"できるところから"予知保全の実現に向けた段階的な取り組みを始めることが、今後の競争優位性に直結するだろう。具体的には、予知保全の第1ステップである「事後保全」、そして「予防保全」と進み、その次に第2ステップである予知保全が実現する。
事後保全とは、その名の通り、故障や障害が起きた後に対応を行う取り組みであり、予防保全とは、定期的に点検を行う取り組みである。ほとんどの企業はまだこの段階だが、まずはこの事後保全や予防保全を効率化することが、予知保全へ向けた第一歩といえる。
生産設備の点検業務に潜むさまざまな問題
しかし、多くのモノづくり企業における設備点検作業の実態はというと、昔ながらの非効率なやり方が日々繰り返されている。その多くは紙の手順書を基に行われており、内容を「覚えたつもり」で行った作業に抜け漏れが生じたり、内容を改訂した手順書が現場にきちんと行き渡らず、古い手順のまま作業が行われることも珍しくない。
点検結果を記録する点検表も、その多くが紙で運用されており、書き漏らしや作業そのものの漏れが後を絶たない。さらには、そうして現地で行った作業結果を管理者に報告するために、現場からわざわざ事務所に戻り、点検表の内容を報告書に転記するような作業が行われているのだ。
作業を管理する側にとっても、そうやって提出された大量の紙の報告書から、"いつ誰がどんな作業を行ったか"を即座に把握するのは難しい。その内容を基にレポートを作成したり、業務改善のための施策を考えるとなると、大量の報告書の内容を読み解くために、とてつもない労力を要することになる。
また、作業の細かなノウハウが熟練者の頭の中にしかなく、その内容が後に続く世代にうまく引き継がれないという問題についても、多くの企業が頭を悩ませている。細かな作業ノウハウの属人化が進めば進むほど、知識や経験が浅い点検担当者による点検漏れに起因するトラブルが増えていく。
こうした点検作業に関する課題を、ITの力を使って何とか解決できないか。そしてひいては、日本の製造業全体の成長に大きく寄与できるソリューションを実現できないか——。こうした考えから生まれたのが、日立製作所(以下、日立)が提供する「JP1/Navigation Platform」(以下、JP1/NP)と日立ソリューションズ・クリエイトが提供する「快作レポート+」を組み合わせたソリューションだ。
「JP1/NP」で誰でも同じ品質で効率よく作業できる仕組みを
JP1/NPは、業務現場で行われる作業フローを、タブレット端末やPCのブラウザ上で見やすく可視化するツールだ。単にフローそのものを表示するだけでなく、個々の作業の詳細な内容やノウハウなどを記したコンテンツも同時に示すのがポイントだ。
このコンテンツに、これまで熟練者の頭の中にしかなかった細かな作業ノウハウを盛り込むことによって、技術を広く可視化し、後に続く世代に継承していくとともに、作業の属人化を排して作業品質の均一化を図ることができる。コンテンツの内容に従って忠実に作業を行うだけで、たとえ新人の作業者であっても、熟練者に匹敵する品質で作業が行えるようになるのだ。
このJP1/NPの作業フローやコンテンツは、管理者が個々の作業手順ごとに作成した上で、サーバで集中管理する。現場の作業者は、タブレット端末やPC上のブラウザからネットワークを通じてこれらにアクセスし、自身が行う作業のフローやコンテンツを参照すればいい。作業時に参照する点検マニュアルや、その他のドキュメント類へのリンクもコンテンツ中に含めておけば、作業者全員が常にサーバ上にある最新の作業手順書や点検マニュアルに沿って作業できるようになる。
またコンテンツには、単に作業内容を記すだけでなく、作業結果(作業日時や点検者の名前、測定結果の値など)を入力するフォームも配置可能だ。作業者が入力した値が正しいかどうかを自動的にチェックし、項目を正しく埋めないと次の作業ステップに進めないようにも設定できるため、作業の抜け漏れや報告漏れを防ぐことができるのだ。
現場での迅速な報告書作成、提出を可能にする「快作レポート+」
JP1/NPで点検作業の手順通り入力を終えたら、次は作業結果を報告書にまとめる必要がある。ここで大いに役立つのが、報告書作成ツール「快作レポート+」だ。JP1/NPの画面上で作業終了の操作を行うと、快作レポート+が自動的に起動し、報告書を作成するためのフォームが表示される。
点検作業中にJP1/NP上で入力した作業結果のデータは、そのまま快作レポート+の報告書フォームに反映されているため、作業者は足りない項目だけを端末から入力し、送信ボタンを押せば、報告書がすぐに管理者宛に送付される。作業者はレポートを紙に印刷したり、事務所に戻ったりすることなく、現場で必要最小限の端末操作を行うだけで済むのだ。
また、快作レポート+の報告書フォームは、Microsoft Excelで作られた報告書フォーマットがあれば、簡単に作成できる。快作レポート+のツールでフォーマットを読み込み、入力項目ごとにドラッグ&ドロップでコントロールを割り当てるだけで、キーボードや手書きサイン、音声入力、写真取り込みといった、さまざまな入力インタフェースを備えた報告書フォームを作成可能だ。
さらに、快作レポート+は主要なスマートデバイス用OS(iOS、Android、Windows)全てに対応しており、端末選択の自由度が極めて高い点も、他の類似製品との大きな違いの1つといえる。
「快作レポート+」の画面例。Microsoft Excelで作られた報告書フォーマットがあれば、さまざまな入力インタフェースを備えたフォームを簡単に作成できる
現場作業の見える化から「データの分析」へ
こうして現場から管理者に提出された報告書は、自動的にサーバ上で蓄積、集中管理される。電子データであるため、紙と比較して任意の報告内容を素早く検索し、参照できるのは大きなメリットだ。
作業管理者は誰がいつ、どの点検作業を行ったかを素早く確認できるようになり、設備の故障や、障害が発生した際の迅速な対応が可能になる。システムを通じて、全体の作業状況を素早く把握できるようになるため、月次報告や監査対応のためのレポート作成作業も紙の報告書と比べればはるかに効率化されるだろう。
加えて、JP1/NPのログ管理機能も管理者にとっては極めて有用だ。JP1/NPは、単に作業フローを制御するだけでなく、個々の作業が実行された履歴をログデータに残し、後にその内容を参照できるようにしている。
このログを定期的にチェックすることで、単に「作業が行われたかどうか」の確認だけでなく、「どの作業にどれだけの時間がかかっているのか」「どの担当者、どの部門で作業に時間がかかっているのか」といったような、細かな業務分析が可能になる。業務全体のどの部分にボトルネックが潜んでいるかを突き止め、改善への施策を打つ体制が確立できるのだ。
このように、JP1/NPと快作レポート+を効果的に連携させることで、点検業務の現場はもちろんのこと、作業管理者の実務も大幅に効率化できるため、空いた時間をさらなる生産性向上の取り組みに振り分けられるようになる。
そして、現場側と管理側の双方で既存業務の効率化を進め、さらなる生産性向上に取り組むことにより、冒頭で紹介した設備保全の次のステップ「予知保全」へと歩を進めていけるようになるわけだ。JP1/NPと快作レポート+によって蓄積されたナレッジを基に作業手順を整備しておけば、障害発生の検知と同時に適切な作業手順を自動的に提示できるようなことが可能になる。
将来的には、長期間にわたって蓄積した設備稼働ログを人工知能に学習させ、あらかじめ故障や障害の発生を予測した上で、事前メンテナンスを先回りして行う予知保全の実現も現実味を帯びてくる。先進的な生産設備メンテナンスを他社に先駆けて実現するためにも、JP1/NPと快作レポート+で第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
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