2017年2月7日火曜日

宿泊業界大混乱、中国の団体旅行客はどこへ消えた?

 2年前の春節(1月末〜2月初頭の時期の中国の旧正月)を思い出してほしい。中国から訪日客が大挙して押し寄せ、各地で「ホテルの予約が取れない」という悲鳴が飛び交ったのはご記憶のことと思う。

 内外の旅行客はもとより、出張者や受験生までもが「宿の確保」に奔走させられた。都心のビジネスホテルの中には、素泊まりで1泊3万円台の値段を設定するところも現れた。ホテル難民の足元を見るホテル側の姿勢に辟易させられたものである。

 だが、あれから2年の月日を経て、今年はちょっと様子が違った。

■ 春節でもホテル投げ売り? 

 例えば、1月半ばに舞い込んできた新聞の折り込みチラシ。目を引いたのはその価格だ。静岡県の温泉宿が1泊2食付きで7980円、山梨県の宿は8800円と「お得な宿」が満載である。食事も「カニの食べ放題」や「活アワビ踊り焼き」など大盤振る舞いだ。かきいれどきの春節直前なのに、こんなに安くていいのだろうか。

 同じ時期にテレビでも「お得な宿」のCMが流れた。あるホテルチェーンが、1泊2食付きで1万円以下という安さを大々的にアピールしていた。

 西日本でホテル業を営む経営者は、そのテレビCMについて「中国の旅行社が春節の団体客を当て込んで大量に発注したものの、キャンセルが相次いだのではないか」と推測する。ホテル側はその穴を埋めるために、急きょこの時期に日本人向けにCMを流しているのではないかという見方だ。

■ 富士山麓のホテルにも異変

 東京〜富士山〜大阪を結ぶ「ゴールデンルート」といえば、訪日客が最も集中する行程だ。ここでも異変が起きていた。

 中国人にとって、富士山を見ることは日本旅行の目玉の1つである。2年前ならば、この時期に富士山周辺の宿を取ることはできなかった。だが今年、春節期間に泊まれる御殿場・富士エリアの宿泊施設をネットで検索すると、57件もヒットした。素泊まりならば5000円以下で泊まれるところもある。

 現地のホテルに問い合わせてみたところ、次のような回答が返ってきた。「今年の春節は、中国の個人客は何組かいらっしゃいますが、団体のお客様はいないのです」 過去には30〜40名ほどの中国からの団体客を扱ったこともあると言うが、「なぜか今年の春節は来ない」のだという。

■ 静岡空港は中国路線を縮小

 富士山に最も近い静岡空港(愛称は「富士山静岡空港」)は、東京と関西を結ぶゴールデンルートの入り口だ。2009年に開港し、中国人の利用客に支えられて大きく発展してきた。

 2014年7月末に3路線13便だった中国路線は、2015年7月末には13路線47便にまで拡大した。静岡空港における国際線の搭乗者数は40万人目前に迫った。ところが2016年は一転して減少し、約28万人にとどまった。減少の理由はほかでもない、中国からの団体客が減ったためである。

 静岡県文化・観光部が行った調査によれば、2015年に静岡空港を利用した中国人客は97%が団体ツアーの客だったという。だが、そうした団体ツアーの利用客がめっきり減ってしまった。

 その結果、2016年は中国からの旅客機の運休が相次いだ。結局、静岡空港では、13あった中国路線が上海経由武漢、寧波、杭州、南京の4路線だけに縮小してしまっている。

■ まさかこんな変化が起きるとは

 中国からの訪日旅行客は、今やガイドの旗についていく団体客ではなく、スマートフォン片手に自由気ままに歩き回る個人旅行客だ。

 在上海日本国総領事館によれば、2012年は、訪日客に占める団体旅行客の割合が80%弱だった。ところが、2015年になると団体旅行客は50%弱まで減り、代わりに個人旅行客が50%強にまで増えた。

 こうした団体旅行から個人旅行への変化のスピードに、日本の宿泊施設はついていけない。「多くの宿泊施設は目算が狂い、泣きの涙だ」(静岡県のホテル経営者)という。

 爆買いのあった2015年は、ホテルや飲食など観光産業に従事する施設はどこも「深刻な受け入れキャパの不足」を経験した。そこで、キャパ拡大に着手する。

 富士山静岡空港もその1つで、「急激に増えた中国人客により、手荷物検査や税関などで対応に苦慮した」(同観光部)という。そこで昨年11月より、ターミナルビルの増改築に乗り出している。ホテルの中には、中国から団体客を受け入れるために駐車場を拡大したり、店舗面積を広げたりといった"追加投資"を試みたところも少なくない。

 しかし、その目論見は早くも頓挫している。中国人の団体客が姿を消した今、「投資を回収できるのかという深刻な問題に直面している」(前出のホテル経営者)。

0 件のコメント:

コメントを投稿