2017年2月10日金曜日

対トランプ外交、安倍総理の楽観姿勢が危険な理由

その過激な政治手法に、アメリカ国内はもちろん、世界各国の首脳から早くも非難の声が上がっているトランプ大統領。一方、日本政府は妄信的とも思えるほどの楽観論を崩していない。しかし、ジャーナリストの鈴木哲夫氏によると、現在の日本外交の置かれている状況は、かなり厳しいものであるという。

安倍総理のブレーンが明かした危機感
 1月20日に第45代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ。政権発足まもない1月27日には、イラクなど7ヵ国からのアメリカ国内への入国を一時停止する大統領令を発令。さらに、その大統領令に反発したイエーツ司法長官代行を解任するなど、就任早々、過激な言動が話題となっている。

 世界各国の首脳が非難の声を上げるなか、日本政府は、トランプ政権を批判するメッセージを発することもなく、静観を決め込んだまま。従来のアメリカ追随の外交姿勢を変えていない。鈴木哲夫氏が語る。

「安倍総理の周辺では、トランプ大統領に対して非常に楽観的というか期待感というか、そういう見方をしている人も多い。例えば、ビジネスマンだから政治を理解してくれば、そう過激なことはやらないはずだと考えたり、他国には厳しくても、日本との同盟関係を大事にして、実際に大統領になったら、選挙で主張していたような極端なことはしないはずだ、と思い込んでいるようなんです」

 さらにこうした楽観論は、総理の周辺だけでなく、安倍総理自身も持っているというのだ。

「安倍首相周辺から聞いた話では、安倍首相は、トランプ大統領に会って一対一で胸襟を開いて会談すれば、活路を見出せると思っていたようなんです」

 しかし、総理周辺にも危機感を抱く人物もいたという。

対アメリカの外交交渉で過去全敗してきた日本
「昨年末、私が取材した安倍総理の外交面でのブレーンの議員は、トランプへの楽観論を非常に甘い見方であると言い切っていました。当時は、安倍総理がトランプと初会談した直後でしたが、彼がその会談を『会うのも地獄、会わないのも地獄』と評していたのが非常に印象的でした。またそれだけでなく彼は『トランプは、本当に何をやるかわからない。いくらビジネスマンだからといっても、いまは権力を手にした大統領。ビジネスマンだから話がわかるだろうなんていう発想は、絶対に間違いだ』と警鐘を鳴らしていましたね」

 では今後、日本とアメリカの外交交渉はどのような局面を迎えることになるのか。

「これからの外交交渉は、アメリカとの二国間(バイラテラル)での交渉になることは間違いありません。実は、日本は過去の歴史を振り返ってみても、対アメリカの外交交渉で、勝ったことは一度もありません。全敗の歴史なんです。アメリカ外交の強みは、なんといっても、一つの視点だけでなく、安全保障など様々な要素を絡めて、自らの要望を強引に押し通そうとするところです」

 今までアメリカは、自動車貿易に関する交渉においても、安全保障やコメの輸入、保険や金融業界の規制緩和などあらゆる要素を交渉材料にして、自国にとって最も有利な条件を引き出そうとしてきた。

「あらゆる取引材料のなかでも日本に対して効果的なものは、安全保障です。アメリカ軍の一部撤退や、在日米軍駐留経費の日本側負担分の増額に言及されると、日本は強く出られません。総理ブレーンの議員は、今後の首脳会談のポイントとして、日本の利害をはっきりと主張し、平気で喧嘩ができるような環境整備が重要だと語っていました」

 要するに、時にはアメリカ政府が乗りにくいような強気な提案もして、交渉決裂も辞さないような姿勢も見せていかないと、交渉上手なアメリカに簡単に舐められてしまうということなのだ。

ヒラリー落選で外務省が失墜対トランプ外交は経産省主導に
 トランプ政権の誕生という外部要因だけでなく、日本政府内部における問題点についても鈴木氏は語る。

「現在の安倍政権の対アメリカ外交のイニシアチブは、本来主導するはずの外務省ではなく、経済産業省が持っています。これには、昨年のアメリカ大統領選での外務省の失態が関係しています。このとき、外務省はトランプの大統領就任を想定せず、ヒラリー・クリントンの大統領就任を確信していたため、安倍総理の信頼を失ってしまいました。そのため、11月の総理とトランプとの会談も、経産省ルートでトランプタワーに入っている企業を通じて、会談の実現にこぎつけたと経産省OBが話していました」

 元々、外務省と経産省との関係はあまり良くないが、外交の主導権を巡り、非常にギクシャクしているのは、当面の不安要素の1つだろう。また、トランプ大統領が以前から言及している在日米軍の費用の日本負担の増額や、在日米軍の撤退をめぐり、日本国内の安全保障をめぐる議論も変容する可能性があるという。

「アメリカ軍が撤退するならば、日本独自の防衛力を強化しなければいけないという発想から、憲法改正し、自衛隊を増強しようという議論が右寄りの保守層を中心にして、活発化する可能性はあります。実際に、自民党内では、日本単独で北朝鮮に先制攻撃できる法律を整備しようという動きも起きているほどですから」

 その一方で鈴木氏は、トランプ政権の発足が日本にとって従来の外交から抜け出すチャンスになりうるとも指摘する。

「アメリカ外交は、今後、TPPのような多国間的な交渉ではなく、バイラテラルな一対一での外交になります。これは日本にとっても、これまでの外交ではなく、アメリカに遠慮せずに、他国とバイラテラルの外交を展開するチャンスにもなります。日本独自の外交力を発揮することができれば、これまでと異なる日本の姿勢を国際的にアピールすることもできます」

 トランプ政権の発足により、安倍政権も正念場を迎えることになりそうである。舵取りを間違えれば、安定しているかのように見える安倍政権の足元が揺らぐ可能性も、充分にあると言えるだろう。

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