2017年2月16日木曜日

寝不足がもたらす膨大な経済損失、頭痛だけでなく生産性の低下も

睡眠不足は翌日に頭痛や倦怠(けんたい)感を引き起こし、日常生活に支障を来すだけではない。労働者の生産性を低下させ、死亡リスクを高めることにより、日本経済に多大な損失をもたらしている。睡眠不足の原因の1つとなっている長時間労働の抑制に向けて企業も動き出している。

非営利研究機関 ランド・ヨーロップの調査研究によると、睡眠不足による経済損失額を国内総生産(GDP)比で見た場合、日本は2.92%となり、調査対象5カ国のうちで最大となった。損失額で比べると、最大は米国で、年間で最高4110億ドル(約47兆円)、日本は1380億ドルで2番目となる。

睡眠不足は、職務遂行能力の低下などを通して生産性を下げる。同調査によると、日本は社会全体で年60万日を超える労働時間を損失しているという。1日の睡眠時間が平均6時間を下回る人は、7〜9時間の人に比べて、死亡リスクが13%高くなると指摘。6時間未満を6〜7時間に増やすことで日本経済には7570億ドルのプラス効果があると試算している。

長時間労働の文化

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の男女で1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は2015年に39.5%となり、比較可能な05年以降で最高となった。また、同省の「過労死等防止対策白書」によると、フルタイムの正社員調査で睡眠時間が「足りていない」、「どちらかと言えば足りていない」と回答した人の割合は4割を超え、理由としては、「残業時間が長いため」が最も多かった。

第一生命経済研究所の柵山順子主任エコノミストは「長時間労働をしなくてはいけないような雰囲気や長時間労働をすることで求められている以上のものを返すことを良しとするような文化が、結局は睡眠時間の不足や生産性の上がりにくい状況を作ってきている」と指摘。「もう少し時間を意識したような働き方に変えることが大切」だとし、それが長時間労働の是正につながると述べた。

勤務間インターバル制度

長時間労働の見直しに向けて注目されているのが、勤務終了後、一定時間以上の休息期間を設けることを義務付ける「勤務間インターバル制度」だ。休息時間を確保することにより労働の質を高め生産性を高めることが狙いで、同制度を導入する企業が増えている。

おむつメーカーのユニ・チャームは、1月からインターバル制度を導入し、全社員に対して、勤務終了から翌日の勤務開始まで8時間以上の休息を義務化した。また、同社では午後10時以降の勤務を原則禁止した。三井住友信託銀行では、12月に、退社から出社まで9時間以上空ける対象を、嘱託を含む全行員に広げた。

同制度については、すでに欧州連合(EU)では加盟国に最低連続11時間の休息を確保するよう義務付けているが、日本では法制化されていない。厚生労働省によると、同制度を導入している企業は調査した約1700社のうち2%にとどまる。

政府は勤務間インターバル制度の導入を後押しするため中小企業を対象にした助成金制度を始める。17年度予算で約4億円を計上し、50万円を上限に対象経費の4分の3を補助する方針。就業規則等の作成・変更費用、研修費用、労務管理用のソフトウェアや機器等の導入・更新費用などが対象となる。

柵山氏は、過労死を減らすために長時間労働を是正しなくてはいけないのは大前提だとした上で、人口が減少する中で長時間労働をできない人も増加するとし、「長時間労働をしなくても回るような仕組み作りに真剣に取り組まなくてはいけない時期にきていると思う」と述べた。

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