2017年8月30日水曜日

「有事の円買い」って? =北朝鮮リスクで進行

 金融危機や紛争など異変が起きた際、投資家がドルなどの外貨やリスクの高い新興国の金融商品を売って、「安全な資産」とされる円を買うことだよ。リスク回避の流れが強まり、円高が進んでいる。

 —例えばどんなとき。

 1993年の北朝鮮のミサイル発射や2008年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災、昨年6月に英国の欧州連合離脱が決まった際などに急速に円が買われた。今月29日早朝の北朝鮮のミサイル発射後は、一時1ドル=108円30銭近辺まで上昇、前日比1円近い円高となった。

 —なぜ円は安全資産なの? 
 円は貿易などの決済に使われる主要通貨の一つで、取引量が多い。また経済大国の日本は経常黒字国で、世界最大の対外資産を抱える債権国としての信用力もある。かつては「有事のドル買い」という言葉があったが、01年の同時多発テロや08年の金融危機などを経て、ドルは安全資産と言われなくなったそうだ。

 —危機にさらされている日本の通貨が安全? 
 外国為替市場はさまざまな思惑で動く。ミサイルで被害が出て損害を埋めなければならない事態になれば、日本は海外に保有するドル建て資産などを売って円に替えようとするだろうとの観測から、外国人勢を中心に円が買われているとの解説がある。

 また、ここ数年の外為相場の動きから「有事なら円買い」という行動が染み付いていて、条件反射的に円が買われているようだ。これまで円を売っていた人が買い戻しており、そうした流れに乗じて利益を得ようとする投機的な円買いもある。

 —円相場はどうなるの。

 外為市場で、北朝鮮の挑発が戦争に発展すると本気で思っている人はまだ少ない。大きな情勢変化がなければ、当面は円高傾向が続きそうだ。ただミサイルが日本国内に着弾して本当に被害が出たら、急激な円安に転じるだろうと話すディーラーもいる。

 —外為市場は観測に流されやすいのね。

 東日本大震災直後にも、大規模な海外資産売却があるとの観測で円高が進んだ。事実というよりも臆測の面が強かったが、バスに乗り遅れるなとばかりに市場では円買いが加速。円高が輸出企業の業績を悪化させ、日本経済を冷やした苦い経験がある。

2017年8月22日火曜日

海外進出本格化の中国モバイル決済 アリペイは米「Yelp」と提携

先日、シンガポールのタクシーに乗車した際、運転席の後ろに掲示してある文言に目をとめた。そこには中国語と英語で「アリペイが使えます」と書かれていた。

中国のアリババが運営するアリペイとテンセントが運営するWeChatペイの2つは、現代の中国人にとって必須の決済手段となった。調査企業のIpsosとテンセントのデータによると、14%の中国人はもはや現金を持ち歩かなくなった。また、26%の中国人は財布の中に100人民元(16ドル以下)を下回るキャッシュしか持っていない。

iResearchのデータによると、2016年の中国のモバイル決済市場は5.5兆ドル(約600兆円)に達したという。これは米国のモバイル決済市場の1120億ドルの50倍近い規模だ。中国の消費者らはインフラさえ整えば、世界のどこに行ってもモバイルでの決済を行えるのだ。

中国人の海外旅行件数はここ20年にわたり上昇が続き、昨年は1億2200万人が合計で1100億ドル(約12兆円)を海外で支払った。世界中の企業が今、中国人旅行者の需要をつかむため、モバイル決済への対応を進めている。アリペイやWeChatペイに対応するためにはさほどのコストはかからない。旅行者らにQRコードを読み取らせるだけでいいのだ。

アリペイは既にホテルチェーンのマリオットやウーバーとグローバル契約を締結した。アリペイはまた、グルメサイトのYelpとニュヨークやロサンゼルス、ラスベガスやサンフランシスコでパートナーシップを結んでいる。WeChatペイもラスベガスのカジノホテルの「シーザーズ・パレス」と契約を結んだ。

世界の小売店やホテルは中国のモバイル決済への対応で新たな需要をつかむことが可能だ。モバイル決済の導入は次の3つのステップで行える。まずは、アリペイやWeChatペイへ店舗の登録を行うこと。次に中国語版のウェブサイトを立ち上げること。翻訳のコストはかかるが、それに見合う十分な収入を得られる可能性は大きい。

さらに、中国でデジタル広告を出稿すること。もちろんこれにもコストはかかるが、何もやらなければ何も得られない。海外旅行に出かける前の中国人に、あなたの店でモバイル決済が利用可能なことを知らせる必要がある。半年ほどの時間をかけて様子を見れば、目に見える成果が現れるはずだ。

これまで世界の小売店の現場では「現金ですか、クレジットカードですか?」と尋ねるのが当り前だった。しかし、これからは「アリペイにしますか、WeChatペイですか?」と聞くのが普通になる。

2017年8月10日木曜日

低コスト・短期開発の人工衛星公開 「アスナロ—2」

 経済産業省とNECは9日、小型衛星「ASNARO(アスナロ)—2」の機体を、東京都府中市のNEC府中事業場で公開した。地表に電波を照射し、反射波を画像化する「合成開口レーダー」を搭載しており、災害の状況などを観測する。年内に打ち上げられる予定で、NECが運用するという。

 アスナロ—2は本体の全長約3・5メートル、重さ約540キロ。合成開口レーダーにより、夜間や雲があっても火山活動や土砂崩れなど地表の様子を撮影できる。鉱山などの資源探査や船舶の安全航行にも活用できるという。

 経産省は衛星開発を新興国などへの輸出産業の候補として位置づけており、アスナロ—2の開発では約160億円を補助した。NECは、2014年に打ち上げたアスナロ—1と共通のシステムや部品を活用するなどして低コスト、短期開発に取り組んだ。民間からの受注を目指しており、NECの担当者は「日本の宇宙産業の競争力強化に貢献したい」と話した

2017年8月7日月曜日

中国:スマホ決済が浸透 偽札横行、背景に

 中国でスマートフォンアプリを使って支払いを済ませる「モバイル決済」が急速に普及し、ユニークな新サービスが続々と誕生している。偽札の多さなど現金への信頼感が元々低い事情を背景にした中国社会の「キャッシュレス化」は、日本をしのぐほど猛スピードで進行中だ。

露店、コンビニ…バーコードで

 ビールで有名な中国東部の沿岸都市、青島。早朝からおかゆや、クレープに似た「煎餅」などを売る露店が建ち並ぶ。昔ながらの光景だが、数年前から店先に二次元コードやバーコードのプレートが掲げられるようになった。

 プレートは中国ネット大手、阿里巴巴(アリババ)のモバイル決済システム「支付宝(アリペイ)」と、同じく騰訊(テンセント)系「微信支付(ウィーチャット・ペイ)」のもの。どちらも客がスマホで二次元コードなどを読み込み、商品の金額を打ち込むと決済が終了する。ともに数億人規模の利用者を抱え、地元メディアによると、都市部の普及率は9割を超えるという。

 露店の店主は「大抵がスマホ払い。現金を使う人はほとんどいなくなった」。レストラン、タクシー、映画館--。今や中国では、田舎の商店に至るまで決済はスマホで事足りるため、現金を持ち歩かない人が増えている。モバイル決済を使えない店は、店頭に「現金払いしかできません」と注意書きを出すほどだ。

 一方、モバイル決済は新たなビジネスを生んでいる。日本のコンビニ大手、ローソンは7月から上海の3店舗で「キャッシュレス店」の実験を始めた。商品のバーコードをスマホで読み込むとモバイル決済を介し、その場で支払いが完了する仕組み。日本では「セルフレジ」を実用化しているが、中国ではレジに並ぶ必要すらない。「このシステムの導入で支払いに要する時間が3分の1に短縮できる」とローソンの担当者は話す。

 シェアリング自転車も爆発的に普及している。スマホで二次元コードを読み込んで鍵を開け、利用後、好きな場所で施錠して乗り捨てれば自動的に決済は完了する。便利さから自転車の利用者は急増し、新規参入する事業者が後を絶たない。

 中国では取引履歴を政府が個人監視に利用しているのでないかと指摘されるなど情報流出の懸念はつきまとう。だが、北京市内の会社員、郭婧さん(33)は「個人情報を見られても気にしない」と意に介さない。中国では偽札が珍しくなく、小さな商店でも紙幣判定機がレジの横にある。「モバイル決済は現金を持ち歩く必要がなく、便利で安心」(郭さん)というわけだ。

 「現金に対する警戒感が強い中国に、アリババなど実績のあるネット大手が信頼を担保した新たな決済システムを持ち込んだ。それが中国社会のキャッシュレス化を加速させる起爆剤となった」。対外経済貿易大学(北京)の西村友作副教授はこう指摘する。モバイル決済が中国を席巻した背景には、中国特有の社会環境も影響しているようだ。

日本、利用6%のみ

 日本のモバイル決済は、中国に大きく差を付けられている。日銀が昨年11~12月に実施した「生活意識に関するアンケート調査」によると、支払時にモバイル決済を利用している人はわずか6%にとどまり、中国とは違って日本はいまだ現金決済が優勢だ。

 アンケートではモバイル決済を利用しない理由について「安全性に不安がある」との回答が最も多かった。クレジットカードなど既に他の決済手段が浸透していることに加え、個人情報流出に対する警戒感がモバイル決済の普及を妨げるハードルになっているようだ。

2017年8月4日金曜日

6月の実質賃金0.8%減=下落幅2年ぶり

 厚生労働省が4日発表した6月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、現金給与総額(名目賃金)の伸びから物価変動の影響を差し引いた実質賃金は前年同月比0.8%減と3カ月ぶりのマイナスになった。夏のボーナスが前年割れした影響で、下落幅は2015年6月以来、2年ぶりの大きさとなった。

 基本給が伸びているため、厚労省は「賃金は基調として増加傾向にある」(雇用・賃金福祉統計室)と分析している。

 基本給に残業代、ボーナスなどを合わせた現金給与総額は0.4%減の42万9686円と13カ月ぶりのマイナス。このうち基本給に当たる所定内給与は0.4%増の24万2582円。残業代など所定外給与は0.2%減の1万9001円、ボーナスなど特別に支払われた給与は1.5%減の16万8103円と落ち込んだ。 

外国人を呼ぶのは「カネのため」と割り切ろう 「鎖国」のままでは地方から崩壊する

 『新・観光立国論』が6万部のベストセラーとなり、山本七平賞も受賞したデービッド・アトキンソン氏。

 安倍晋三首相肝いりの「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」委員や「日本政府観光局」特別顧問としても活躍している彼が、渾身のデータ分析と現場での実践とを基に著した『世界一訪れたい日本のつくりかた』は、発売1カ月で2万部超のベストセラーとなっている。

 本連載では、訪日観光客が2400万人を超え、新たなフェーズに入りつつある日本の観光をさらに発展させ、「本当の観光大国」の仲間入りを果たすために必要な取り組みをご紹介していく。

 ここまで4回にわたって、日本が「観光」という分野で大きなポテンシャルを秘めており、さらなる高度な外国人観光客対応を行えば、「世界有数の観光大国」の座も夢ではないことを説明させていただきました。

 しかし、なかなかご理解いただけない方も多くいらっしゃるようで、「観光など進めても治安が悪くなる」とか「むこうが勝手にやってくるのだから、今の日本のやり方に従うべきだ」というコメントが多く寄せられています。

 外国人観光客に来てほしくないという人の気持ちはわかります。どの国の人も、自国民だけが同じようなルールのもとで楽しく暮らせればいいという気持ちをもっています。

 ただ、辛辣なことを言うようですが、客観的にみると、今の日本にはそのような吞気なことを言っている余裕はないのです。

 今回はそのあたりのお話から始めさせていただきましょう。

 これからの日本は、労働人口が激減するというのはすでにご存じのとおりです。それを乗り切るためには生産性を向上させるしかありませんが、日本の生産性は過去25年間、ずっと低迷を続けています。

 「そこはロボットやバイオテクノロジーなど日本が誇る技術力でカバーする」と楽観視する人もいますが、世界中の国がITを活用して生産性を向上させてきた中、日本はそれができていません。なぜ今度はうまくいくと確信がもてるのか、私にはわかりません。

 残念ながら、このままでは日本経済が大打撃を受けるのはもはや時間の問題という、厳しい現実があるのです。

「鎖国」をやめないと「地方」がもたない
 すでにその兆候は「地方」にあらわれてきています。

 東京や大阪という都市部にお住まいの方はなかなかピンとこないでしょうが、労働人口も減って、大企業の工場もないような地方の小さな町などは、すでに壊滅的なダメージを受けています。

 そのような地方をかつて救っていたのが「観光」でした。とはいえ、それは「国内観光」ですので、日本人の数が減ってきている今、かなりの悪影響を受けています。

 そうなると、残された道は「外国人観光客」を招くしかありません。日本人にかわって外国人に消費してもらうしかないのです。

 これこそが、「外国人なんかにたくさん来てもらっても迷惑なだけ」「日本人のやり方に従う外国人だけが来ればいい」という主張が、日本の現実を直視していない感情論だというゆえんです。

 数年前まで日本の観光産業はほぼ「鎖国状態」でしたが、それでも観光産業はそれなりに元気でした。それを可能にしたのは1億2000万人を超える人口以外の何物でもありません。

 そんな人口規模、戦後の人口激増という「強み」がなくなっていくわけですから、衰退していく道か、「開国」する道かを選ばなくてはいけないというのは、ご理解いただけるのではないでしょうか。

 こういう厳しい現実があるので、私はかねて日本のインバウンド戦略は「稼ぐ」ということに主眼を置くべきだと主張してきました。

 さまざまな方から、「文化や心を大切にする日本人と違って、欧米人はすぐにカネ、カネと騒ぐ」などと批判されてきましたが、「稼ぐ」ことができなければ地方を潤わすこともできません。それはつまり、財源不足でボロボロのまま放置されている地方の貴重な文化財や、美しい自然の保護・継承ができないということです。

 だからこそ、日本政府も2020年に4000万人という「国際観光客数」目標だけではなく、8兆円という「国際観光収入」目標も設定しているのです。これは「1人当たり20万円」ということです。

 観光庁によると、2016年の訪日外国人の平均支出金額は15万5896円ですから、20万円という目標を達成するために、政府は中国や韓国など「アジア諸国以外」の外国人観光客の誘致に力を入れています。これは、「稼ぐ」ということでいえば理にかなった戦略といえます。

 アジアからの訪日外国人の平均支出額は15万0020円ですが、「アジア以外」からの訪日外国人の平均支出額をみると18万6840円と跳ね上がっています。「稼ぐ」ということに主眼をおけば、このような「上客」の比率を上げて、全体の客単価を上げていこうというのは、ごくごく合理的な判断なのです。

 しかも、もっと言えば、この戦略は非常に「いいところ」を突いています。日本には「上客」がまだほとんど訪れていないと言ってもさしつかえない状況だからです。

 アジアからの訪日客のうち、「観光目的」でやってくる人は76.6%に上りますが、アジア以外の国から「観光目的」でやってくる訪日外国人は53.0%にとどまっています。また、アジアからやってくる訪日外国人のうち女性の比率は54.2%となっていますが、アジア以外になると33.0%にとどまっています。

 これらのデータから導き出される答えはひとつしかありません。それは、アジア以外から来ている訪日外国人は、「ビジネス目的」が多いということです。

 これは裏を返せば、アジア以外からの「観光目的」の外国人は、まだまだ大きな「伸び代」があるということです。

 しかも、そこが伸びるということは、日本にとっても非常に大きな「効果」が期待できるということです。アジアの「観光目的」の訪日外国人の平均滞在期間が5.2日なのに比べて、アジア以外の「観光目的」の訪日外国人は11.6日と2倍以上長く滞在するのです。そうなると、日本に落とすおカネも増えていくのは当然です。

 アジアから「観光目的」で来た訪日外国人の平均支出額が14万6968円なのに対し、アジア以外から「観光目的」できた訪日外国人の平均支出額が21万3751円ということをふまえても、この層が伸びることで、観光収入的には非常に大きな成長が期待できるのです。

客単価を上げるための「高級ホテル」と「自然観光」
 ただ、アジア以外の「観光目的」の訪日外国人を大きく増やすことができても、それだけでは先ほど紹介した8兆円、1人あたり20万円という政府目標は達成できません。

 そこで必要になってくるのが、本連載でこれまでふれてきた「高級ホテル」や「自然観光」の整備です。

 「高級ホテル」が客単価を上げるのは言うまでもありませんが、「自然観光」も大自然の中に身を置くので、滞在期間を延ばすことができます。つまり、「自然観光」は自然を整備する費用を捻出するという社会メリットがあるだけではなく、客単価を引き上げるというビジネス上のメリットもある、非常に「効果」の高い観光戦略なのです。

 日本の「観光客1人あたり支出額」は現在、世界で第46位となっています。タイの第26位、アメリカの第6位、インドの第7位、中国の第13位と比較すると、「低い」ということは一目瞭然ですが、これは非常に大きな「伸び代」が期待できるということです。

 これまで日本社会は、日本人がつくった日本人のためのルールで、日本人だけが快適に暮らせる社会でした。もちろん、そうありたいと思うのはどの国の人々も同じですが、それを許さない厳しい現実があります。日本はこれまでそのような現実とは無縁でしたが、子供の減少と高齢者の増加によって、いよいよ「開国」を余儀なくされてきたということなのです。

 外国人による「国際観光収入」によって地方のマイナスをカバーするというのは、世界的な常識です。インバウンドで地方都市がよみがえり、雇用にもつながったというケースは枚挙にいとまがありません。

 「外国人観光客など来ても迷惑だ」と主張する方たちは、私に言わせれば、まだ危機的状況に追いやられていない「恵まれた方たち」です。東京や大阪にいると、なかなかインバウンドの重要さは実感できないでしょうが、せめて確実に迫ってきている「危機」に気づいていただきたいと思います。

 日本の明るい未来を築くため、ひとりでも多くの方が「観光」がもつポテンシャルの高さと、それを生かす道しかないということに目覚めていただきたい、と心から願っています。

2017年8月3日木曜日

アップル、販売回復へ中国政府に「服従」

米アップル<AAPL.O>が中国での収益回復を狙い、悪名高い中国政府の規制にも従順に従う姿勢を示している。スマートフォンのシェアが落ち、政府の承認を必要とするサービス事業を拡大する必要があるためだ。

アップルは先週末、中国のインターネット検閲をすり抜ける「VPN(仮想私設網)」アプリの一部について、中国市場での配信を停止した。また政治的に重要な貴州省に中国初のデータセンターを置くと発表し、グレーターチャイナ(広域中華圏)担当のマネジングディレクターというポストを新設した。

貴州省は中国政府がハイテク拠点化を目指している場所で、習近平国家主席にゆかりの深い土地でもある。

アップルが1日発表した第3・四半期決算(7月1日まで)は、グレーターチャイナの売上高が9.5%減の80億ドルとなった。アナリストによると、かつて中国で人気を集めたスマホ「iPhone(アイフォーン)」は今、華為技術(ファーウェイ)、Oppo、Vivo、小米科技(シャオミ)といった国内勢の後塵を拝し、シェアが5位に落ちている。

コンサルタント会社カウンターポイントによると、アップルの中国でのスマホ出荷シェアは2015年に14%で天井を打ち、今年1─6月は9%に縮小した。

中国政府を味方に付ければ有利なのは間違いない。

北京のハイテクアナリスト、リー・シェンドン氏は「中国では他社にシェアを食われたため、今後は政府の規制にもっと注意を払う必要がある。中国はアップルにとって主要な市場であり、耳を傾けざるを得ない」と話す。

苦戦する中国事業の中で、アプリ販売の「アップルストア」やモバイル決済の「アップルペイ」などのサービス事業は数少ない明るい分野だ。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は四半期決算の説明で、中国でこれら事業が「極めて力強く伸びた」と述べた。

年内に予想されている新型アイフォーンの発表まで、端末の売上高は低迷を続ける可能性があるため、サービス事業の勢いを保つことは決定的に重要だ。

中国政府に秋波を送るアップル

しかし、こうした戦略にはリスクも付きまとう。

中国はオンラインメディアやストリーミングなど「サイバースペース」の規制を強化しており、6月1日に導入した新法では、企業がユーザーのデータを中国国内に蓄積するよう促している。

この規制について、海外企業の間では曖昧過ぎるとの懸念が強いが、アップルは即座に新法に従い、データセンターの設置を発表した。

DCCIインターネット・リサーチ・インスティテュートのリュー・シンリアン所長は「データセンターの設立とVPNアプリの配信停止により、アップルは中国政府に秋波を送っている」と語る。

一部には、アップルが昨年、銃乱射事件に絡んで米連邦捜査局(FBI)からアイフォーンのロック解除を求められて拒否したことと、中国政府への姿勢は矛盾する、との指摘もある。

クックCEOは1日、この問題について「意見が異なる場合でも政府と対話していく」姿勢を明示。「米国のケースでは米国法が当社を支持していた。これは極めて明確だ。中国の場合には中国に明確な法律がある」とし、「2つのケースは大きく異なる」と話した。

「だからと言って、適切な方法でわれわれの見解を述べないというわけではない」とも述べた。

とはいえ、中国の検閲に従うような動きは国外で批判を呼ぶ可能性があり、アップルが賭けに出たのは明らか。ただ、中国の消費者は意に介さないでいてくれそうだ。

アイフォーンを使い続けてきたという27歳の女性は「アップルが中国政府と仲良くしようとするのは普通のこと。次世代(アイフォーン)が出れば買うわ。いつもそうしてきたから」と語った。VPNアプリはあまり使わないので、配信停止によって購入判断を変えることはないとも付け加えた。

分裂ビットコイン、合議のツケ

 代表的な仮想通貨、ビットコインが1日夜に分裂し、新しい通貨「ビットコインキャッシュ(BCC)」が誕生した。BCCは時間の経過につれ取引が増え始め、新旧2つの規格が並立する状態に。共同体の不平分子がたもとを分かち、騒動はひとまず収まった形だが本家のビットコインには分裂の火だねがなおくすぶる。2009年の誕生から8年。ビットコインは覇権を争う大競争時代を迎えた。

■ニューノーマル、受け入れられる

 システムの分裂が起こったのは日本時間で1日午後9時20分。当初、BCCはそれほど支持を伸ばせず、すぐに本家のビットコインのシステムに吸収され、再統一すると思われていた。

 だがBCCはインターネット上の公開台帳の書き換えが2日夕方までに12回行われた。「独立したコインとして市場に受け入れられた」と、大手仮想通貨取引所ビットバンク(東京・品川)の広末紀之最高経営責任者(CEO)は指摘する。

 2日夕時点で本家のビットコインは1個30万円前後(時価総額約5兆円)と分裂騒動前の水準で推移。分裂を嫌気した価格下落は限定的だ。

 一方、BCCも1個5万円前後(時価総額約8000億円)で取引され、新旧2種のコインは別々に取引されている。国内の一部取引所もBCCの取り扱いを始めた。市場は新しい事態を「ニューノーマル(新常態)」として受け入れ始めているようだ。

 分裂騒動の背景にあるのは「コアデベロッパー」と呼ばれる技術者集団と、ビットコインの取引検証作業に従事する「マイナー(採掘者)」と呼ばれる事業者集団の対立だ。

 利用者の増大でビットコインネットワークは取引量が処理能力の限界を上回るようになり、取引が完了するまでの待機時間が長引いたりマイナーに支払う手数料が高騰したりするなどの弊害が出てきた。そこで処理方法の変更をコア開発者が提案したが、中国の大手マイナーが反発し今回の分裂に至った。

 国や中央銀行という絶対的な管理者がいないビットコインネットワークは、コア開発者やマイナーを中心に参加者による合議制で一つの規格(プロトコル)を守ってきた。参加者が共通のプロトコルを使うことで世界規模の分散型通貨が成立する。分裂とは、プロトコルが乱立し互換性がなくなることを意味する。

 これまでマイナーはコア開発者の示す方針に基本的に従ってきた。マイナーが反発し始めたのには「このままでは自分たちの取り分が薄くなる」という危機感が強まったことが大きい。

 現在の規定ではマイナーは計算競争に勝つと10分ごとに12.5個のコインが報酬としてもらえ、取引を処理するごとに手数料収入も入る。ところが4年ごとにこの報酬は半減し、2033年には総発行量2100万個の99%のコインが出回り、新規発行は事実上打ち止めになる。

 新規供給が断たれたマイナーは手数料収入に依存するしかなくなる。そうなるとマイナーの利益を確保するために手数料を大幅に引き上げねばならず銀行送金よりも割安という魅力が失われる。

 この「2033年問題」をにらみ、コア開発者の陣営はビットコインのシステムの外部で少額の取引を処理し、システムの負荷を減らす技術開発を急いでいる。この「ライトイングネットワーク」という仕組みが広がれば、ビットコインの決済システムは最後に収支尻を合わせるだけの交換の場に成り下がる。

 マイナーにとっては虎の子の食いぶちが消失しかねない。この危機感がBCCという新種を産み落としたのだ。

11月、次の騒動か

 経済学者の野口悠紀雄氏は分裂騒動を「分散ネットワークにおいて民主的に規格変更についての合意形成をしようとしている」と肯定的に見る。

 ビットコインの理念が「管理者不在の通貨システム」の実現なのだから民主的な話し合いの過程で対立が生じてもむしろ自然、というわけだ。だがそのたびに利用者や市場は右往左往する。

 しかも今回のBCC誕生によりマイナー陣営の不満が全て解消したわけではない。本家のビットコインでは、時間当たりの処理量を2倍に増やす新規格の稼働が11月に予定されているが反対意見もある。分裂騒動が再燃する見込みだ。

 11月に不満を募らせたマイナーがBCC陣営に走ったり別の規格を作ったりすれば、本家ビットコインにはさらなる打撃だ。最後はどの規格がマイナーや利用者から最も多くの支持を集めるかの勝負になるだろう。

 ノーベル経済学者のフリードリヒ・ハイエクは貨幣の質を巡って競争を繰り広げる「貨幣の脱国営化論」を唱えた。ハイエクのご託宣通りに、ビットコインはより使い勝手のよい決済手段を目指して進化の大競争が始まったとも言える。

 民主的な合意形成は時間と手間がかかり、時には「衆愚政治」を招くことがある。民主政が始まった古代ギリシャではこうした危機の時代に多数の僭主(せんしゅ)が出現した。僭主は門地門閥が勢力を失うなか、共同体の構成員の不満や自らの富を利用し、共同体での支配権を奪い取った。

 ビットコインにあてはめれば創始者の「サトシ・ナカモト」の薫陶を受けたコア開発者が率いた従来の仕組みは、サトシの権威に基づく「貴族制」にあたる。そこに財力を蓄えたマイナー=僭主が反旗を翻した構図だ。

 だが歴史を振り返れば、僭主はいずれも悲しい結末を迎えて消えていった。ルネサンスが花開いた中世のフィレンツェでは金融資本のメディチ家が「無冠の帝王」として君臨し、名目上の民主政の下における実質的な独裁者として振る舞った。だが有産市民の不満を招き、最後にはフィレンツェを追われた。

 ビットコイン共同体も同じような道をたどっている。今もなおコア開発者の陣営は一目置かれているが、いつか財力で勝るマイナーが合意形成の主導権を握り、マイナーの間でも「支配者」は幾度も入れ替わるだろう。

 僭主制が倒れるのは政策が財政的に行き詰まる時だ。このひそみに倣えばマイナーがどこまで自らのエゴを抑えて抑制的に振る舞い、参加者の支持をつなぎ留められるかが、「通貨」として勝ち残る条件になる。

 

首都直下“M7級”警戒 関東地方で震度4続発、専門家「首都圏は地震の巣のようなもの」

 関東地方で2日未明から早朝にかけ、広範囲にわたり震度4を記録する地震が立て続けに起きた。気象庁は緊急地震速報を発表して警戒を呼び掛けるなど緊張が走った。専門家は「首都圏は地震の巣のようなもので、今回以上に大きな揺れが発生しても全くおかしくない」と警鐘を鳴らしている。

 一発目の揺れは多くの人が寝静まる真夜中だった。2日午前2時2分ごろ、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉の6県で震度4、東京都内で同3を記録。震源地は茨城県北部で震源の深さは約10キロ。地震の規模はマグニチュード(M)5・5と推定される。

 その約5時間後、同じ茨城県の南部の深さ約50キロを震源に、M4・6と推定される地震が発生。茨城、栃木、埼玉、千葉の4県で再び震度4を計測した。

 夕刊フジで「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」(木曜)を連載する武蔵野学院大学特任教授の島村英紀氏は「震源地となった茨城県を含む首都圏は太平洋プレート、北米プレートそしてフィリピン海プレートがぶつかり合い、直下型の地震が発生する世界でもまれな『地震の巣』といえる。今回の地震は3・11の余震ではない。これまで、たまたまこの地域で落ち着いていた地震活動が通常に戻ったとみるべきだろう」と話す。

 今後、どのような地震が首都圏で発生する恐れがあるのか。

 「この周辺では昔から、3つのプレートに起因する大きな震災が発生している。大きなものでは、死者1万人近くを出したマグニチュード7・1の安政江戸地震。ここ100年の間では大正年間にマグニチュード7・0を記録した竜ヶ崎地震などがある。首都の真下で大規模な直下型地震が起こる恐れも十二分に考えられる」

 茨城、栃木をはじめ、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川の1都6県でM7級の大地震がいつ起きてもおかしくないという。備えだけは万全にしておきたい