2017年8月4日金曜日

外国人を呼ぶのは「カネのため」と割り切ろう 「鎖国」のままでは地方から崩壊する

 『新・観光立国論』が6万部のベストセラーとなり、山本七平賞も受賞したデービッド・アトキンソン氏。

 安倍晋三首相肝いりの「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」委員や「日本政府観光局」特別顧問としても活躍している彼が、渾身のデータ分析と現場での実践とを基に著した『世界一訪れたい日本のつくりかた』は、発売1カ月で2万部超のベストセラーとなっている。

 本連載では、訪日観光客が2400万人を超え、新たなフェーズに入りつつある日本の観光をさらに発展させ、「本当の観光大国」の仲間入りを果たすために必要な取り組みをご紹介していく。

 ここまで4回にわたって、日本が「観光」という分野で大きなポテンシャルを秘めており、さらなる高度な外国人観光客対応を行えば、「世界有数の観光大国」の座も夢ではないことを説明させていただきました。

 しかし、なかなかご理解いただけない方も多くいらっしゃるようで、「観光など進めても治安が悪くなる」とか「むこうが勝手にやってくるのだから、今の日本のやり方に従うべきだ」というコメントが多く寄せられています。

 外国人観光客に来てほしくないという人の気持ちはわかります。どの国の人も、自国民だけが同じようなルールのもとで楽しく暮らせればいいという気持ちをもっています。

 ただ、辛辣なことを言うようですが、客観的にみると、今の日本にはそのような吞気なことを言っている余裕はないのです。

 今回はそのあたりのお話から始めさせていただきましょう。

 これからの日本は、労働人口が激減するというのはすでにご存じのとおりです。それを乗り切るためには生産性を向上させるしかありませんが、日本の生産性は過去25年間、ずっと低迷を続けています。

 「そこはロボットやバイオテクノロジーなど日本が誇る技術力でカバーする」と楽観視する人もいますが、世界中の国がITを活用して生産性を向上させてきた中、日本はそれができていません。なぜ今度はうまくいくと確信がもてるのか、私にはわかりません。

 残念ながら、このままでは日本経済が大打撃を受けるのはもはや時間の問題という、厳しい現実があるのです。

「鎖国」をやめないと「地方」がもたない
 すでにその兆候は「地方」にあらわれてきています。

 東京や大阪という都市部にお住まいの方はなかなかピンとこないでしょうが、労働人口も減って、大企業の工場もないような地方の小さな町などは、すでに壊滅的なダメージを受けています。

 そのような地方をかつて救っていたのが「観光」でした。とはいえ、それは「国内観光」ですので、日本人の数が減ってきている今、かなりの悪影響を受けています。

 そうなると、残された道は「外国人観光客」を招くしかありません。日本人にかわって外国人に消費してもらうしかないのです。

 これこそが、「外国人なんかにたくさん来てもらっても迷惑なだけ」「日本人のやり方に従う外国人だけが来ればいい」という主張が、日本の現実を直視していない感情論だというゆえんです。

 数年前まで日本の観光産業はほぼ「鎖国状態」でしたが、それでも観光産業はそれなりに元気でした。それを可能にしたのは1億2000万人を超える人口以外の何物でもありません。

 そんな人口規模、戦後の人口激増という「強み」がなくなっていくわけですから、衰退していく道か、「開国」する道かを選ばなくてはいけないというのは、ご理解いただけるのではないでしょうか。

 こういう厳しい現実があるので、私はかねて日本のインバウンド戦略は「稼ぐ」ということに主眼を置くべきだと主張してきました。

 さまざまな方から、「文化や心を大切にする日本人と違って、欧米人はすぐにカネ、カネと騒ぐ」などと批判されてきましたが、「稼ぐ」ことができなければ地方を潤わすこともできません。それはつまり、財源不足でボロボロのまま放置されている地方の貴重な文化財や、美しい自然の保護・継承ができないということです。

 だからこそ、日本政府も2020年に4000万人という「国際観光客数」目標だけではなく、8兆円という「国際観光収入」目標も設定しているのです。これは「1人当たり20万円」ということです。

 観光庁によると、2016年の訪日外国人の平均支出金額は15万5896円ですから、20万円という目標を達成するために、政府は中国や韓国など「アジア諸国以外」の外国人観光客の誘致に力を入れています。これは、「稼ぐ」ということでいえば理にかなった戦略といえます。

 アジアからの訪日外国人の平均支出額は15万0020円ですが、「アジア以外」からの訪日外国人の平均支出額をみると18万6840円と跳ね上がっています。「稼ぐ」ということに主眼をおけば、このような「上客」の比率を上げて、全体の客単価を上げていこうというのは、ごくごく合理的な判断なのです。

 しかも、もっと言えば、この戦略は非常に「いいところ」を突いています。日本には「上客」がまだほとんど訪れていないと言ってもさしつかえない状況だからです。

 アジアからの訪日客のうち、「観光目的」でやってくる人は76.6%に上りますが、アジア以外の国から「観光目的」でやってくる訪日外国人は53.0%にとどまっています。また、アジアからやってくる訪日外国人のうち女性の比率は54.2%となっていますが、アジア以外になると33.0%にとどまっています。

 これらのデータから導き出される答えはひとつしかありません。それは、アジア以外から来ている訪日外国人は、「ビジネス目的」が多いということです。

 これは裏を返せば、アジア以外からの「観光目的」の外国人は、まだまだ大きな「伸び代」があるということです。

 しかも、そこが伸びるということは、日本にとっても非常に大きな「効果」が期待できるということです。アジアの「観光目的」の訪日外国人の平均滞在期間が5.2日なのに比べて、アジア以外の「観光目的」の訪日外国人は11.6日と2倍以上長く滞在するのです。そうなると、日本に落とすおカネも増えていくのは当然です。

 アジアから「観光目的」で来た訪日外国人の平均支出額が14万6968円なのに対し、アジア以外から「観光目的」できた訪日外国人の平均支出額が21万3751円ということをふまえても、この層が伸びることで、観光収入的には非常に大きな成長が期待できるのです。

客単価を上げるための「高級ホテル」と「自然観光」
 ただ、アジア以外の「観光目的」の訪日外国人を大きく増やすことができても、それだけでは先ほど紹介した8兆円、1人あたり20万円という政府目標は達成できません。

 そこで必要になってくるのが、本連載でこれまでふれてきた「高級ホテル」や「自然観光」の整備です。

 「高級ホテル」が客単価を上げるのは言うまでもありませんが、「自然観光」も大自然の中に身を置くので、滞在期間を延ばすことができます。つまり、「自然観光」は自然を整備する費用を捻出するという社会メリットがあるだけではなく、客単価を引き上げるというビジネス上のメリットもある、非常に「効果」の高い観光戦略なのです。

 日本の「観光客1人あたり支出額」は現在、世界で第46位となっています。タイの第26位、アメリカの第6位、インドの第7位、中国の第13位と比較すると、「低い」ということは一目瞭然ですが、これは非常に大きな「伸び代」が期待できるということです。

 これまで日本社会は、日本人がつくった日本人のためのルールで、日本人だけが快適に暮らせる社会でした。もちろん、そうありたいと思うのはどの国の人々も同じですが、それを許さない厳しい現実があります。日本はこれまでそのような現実とは無縁でしたが、子供の減少と高齢者の増加によって、いよいよ「開国」を余儀なくされてきたということなのです。

 外国人による「国際観光収入」によって地方のマイナスをカバーするというのは、世界的な常識です。インバウンドで地方都市がよみがえり、雇用にもつながったというケースは枚挙にいとまがありません。

 「外国人観光客など来ても迷惑だ」と主張する方たちは、私に言わせれば、まだ危機的状況に追いやられていない「恵まれた方たち」です。東京や大阪にいると、なかなかインバウンドの重要さは実感できないでしょうが、せめて確実に迫ってきている「危機」に気づいていただきたいと思います。

 日本の明るい未来を築くため、ひとりでも多くの方が「観光」がもつポテンシャルの高さと、それを生かす道しかないということに目覚めていただきたい、と心から願っています。

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