中国でスマートフォンアプリを使って支払いを済ませる「モバイル決済」が急速に普及し、ユニークな新サービスが続々と誕生している。偽札の多さなど現金への信頼感が元々低い事情を背景にした中国社会の「キャッシュレス化」は、日本をしのぐほど猛スピードで進行中だ。
露店、コンビニ…バーコードで
ビールで有名な中国東部の沿岸都市、青島。早朝からおかゆや、クレープに似た「煎餅」などを売る露店が建ち並ぶ。昔ながらの光景だが、数年前から店先に二次元コードやバーコードのプレートが掲げられるようになった。
プレートは中国ネット大手、阿里巴巴(アリババ)のモバイル決済システム「支付宝(アリペイ)」と、同じく騰訊(テンセント)系「微信支付(ウィーチャット・ペイ)」のもの。どちらも客がスマホで二次元コードなどを読み込み、商品の金額を打ち込むと決済が終了する。ともに数億人規模の利用者を抱え、地元メディアによると、都市部の普及率は9割を超えるという。
露店の店主は「大抵がスマホ払い。現金を使う人はほとんどいなくなった」。レストラン、タクシー、映画館--。今や中国では、田舎の商店に至るまで決済はスマホで事足りるため、現金を持ち歩かない人が増えている。モバイル決済を使えない店は、店頭に「現金払いしかできません」と注意書きを出すほどだ。
一方、モバイル決済は新たなビジネスを生んでいる。日本のコンビニ大手、ローソンは7月から上海の3店舗で「キャッシュレス店」の実験を始めた。商品のバーコードをスマホで読み込むとモバイル決済を介し、その場で支払いが完了する仕組み。日本では「セルフレジ」を実用化しているが、中国ではレジに並ぶ必要すらない。「このシステムの導入で支払いに要する時間が3分の1に短縮できる」とローソンの担当者は話す。
シェアリング自転車も爆発的に普及している。スマホで二次元コードを読み込んで鍵を開け、利用後、好きな場所で施錠して乗り捨てれば自動的に決済は完了する。便利さから自転車の利用者は急増し、新規参入する事業者が後を絶たない。
中国では取引履歴を政府が個人監視に利用しているのでないかと指摘されるなど情報流出の懸念はつきまとう。だが、北京市内の会社員、郭婧さん(33)は「個人情報を見られても気にしない」と意に介さない。中国では偽札が珍しくなく、小さな商店でも紙幣判定機がレジの横にある。「モバイル決済は現金を持ち歩く必要がなく、便利で安心」(郭さん)というわけだ。
「現金に対する警戒感が強い中国に、アリババなど実績のあるネット大手が信頼を担保した新たな決済システムを持ち込んだ。それが中国社会のキャッシュレス化を加速させる起爆剤となった」。対外経済貿易大学(北京)の西村友作副教授はこう指摘する。モバイル決済が中国を席巻した背景には、中国特有の社会環境も影響しているようだ。
日本、利用6%のみ
日本のモバイル決済は、中国に大きく差を付けられている。日銀が昨年11~12月に実施した「生活意識に関するアンケート調査」によると、支払時にモバイル決済を利用している人はわずか6%にとどまり、中国とは違って日本はいまだ現金決済が優勢だ。
アンケートではモバイル決済を利用しない理由について「安全性に不安がある」との回答が最も多かった。クレジットカードなど既に他の決済手段が浸透していることに加え、個人情報流出に対する警戒感がモバイル決済の普及を妨げるハードルになっているようだ。
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