2017年2月21日火曜日

「話がわかりやすい」人は一体何が違うのか 理系作家がそのナゾを解き明かす

 相手にわかるように話したつもりなのに、意図が伝わらなかったり、誤解されたり……。仕事上でのコミュニケーションの悩みは尽きないものです。特に、自分と違う業界や職種の人とのやり取りは知識のベースが違うだけに、すれ違いも多くなります。いったい、どうすればよいのでしょうか。

 「数学」「宇宙」「脳科学」……あらゆる理系の専門知識を、わかりやすく多くの人に伝える——。サイエンスライターとして、またTVのコメンテーターとして日々それに取り組んできた竹内薫氏は、「伝えること」のプロでもあります。その竹内氏に、「わかりやすく伝えるコツ」について聞きました。

知識が豊富でも、話がわかりにくいと生き残れない
 「話がわかりやすい人」と「話がわかりにくい人」。あなたの周りには、どちらが多いですか?

 話がわかりにくい人を相手にすると大変です。

 「結局何が言いたいの?」とやきもきしたり、意思疎通がうまくいかずミスが生じたり、いらぬトラブルを引き起こします。わかりやすさが求められるのは仕事の場面だけではありません。家族や友達との会話も同じ。

 たとえば、昨日見た映画のあらすじ。

 「ヤバい! マジで面白かった!」

 「どこが?」

 「え、えーと……」

 これでは、本当に面白かったのかどうか、疑われてしまいます。

 今日の出来事、駅から待ち合わせ場所への行き方、部下への仕事の指示……相手に伝えなければならない情報は日々たくさんあります。それがいちいちわかりにくかったら、相手にストレスを与えてしまいます。

 ここでは、私がサイエンス作家として、理系のエピソードを文系の方にもわかってもらうために意識してきた、「わかりやすく説明する」技術を紹介します。

 そもそも、わかりやすさとはいったいなんでしょうか。あなたは、考えたことはありますか? あなたが人の話を聞いたり、本やウェブサイトを読んでいて「わかった!」と思うのはどんな瞬間でしょうか。

 「わかった!」と感じる瞬間、脳の中では何かが起きているはずですよね。

 さまざまな研究結果があり、とらえ方や考え方も人それぞれでしょう。
しかし、サイエンス作家として、文系・理系の話に触れ、多数のわかりやすい人たちと接してきた、私の解釈はこうです。

 「頭の中に『絵』が浮かび上がった瞬間に、人はわかった!と感じる」

 「ん? 意味がわからない……」

 「?」マークが浮かんだかもしれません。順を追って説明しますね。

「なぜ、簡単な話が通じないんだ!」が起こる理由
 人間は記号を扱う生き物です。記号には、ひらがなや漢字、アルファベットなどの文字はもちろん、数字や音符も含まれます。地球上の生き物の中で、記号を駆使してコミュニケーションできるのは人間だけ。記号は、長い年月をかけて改良してきた便利な道具なのです。

 数字を使えば、「数」を正確に伝えられますし、音符を使えばメロディも共有できます。言葉を使えば、目の前にない「イメージ」も相手に伝わります。

 では、人間は、記号をどのように処理しているのでしょうか。

 実は、記号は、それだけでは伝わりません。記号が人に届くと、脳は記憶を検索し始めます。そして、人の脳内でこれまでの知識や経験と、記号とが見事にマッチングできたときに、初めて「わかった!」となるのです。

 つまり、こうです。

 外から来た「記号」=内にある「記憶」

 この処理の途中で、脳内で「絵」を描き上げます。「絵」が鮮明に描けたときに初めて「わかった!」と感じるのです。

 たとえば、友達との会話で「昨日、海で犬と遊んだ」という言葉が出てきたとします。すると、自分の脳内に、海と犬の「絵」が浮かびますよね。そして、波打ち際で人間と犬が遊ぶ「映像」になると思います。

 一方で、「砂浜に穴があってさ、その穴から変なのが出てきて……」と言われたらどうでしょう。

 確かにこの会話からも、砂浜に穴があいている「絵」は思い浮かびます。
しかし、次の「変なの」は難しい。

 「変なの」といわれても、絵を描くことができません。気になるあなたは
「変なのってなに?」「なに色?」「大きさは?」と自分の脳内で「絵」を描くために相手に質問を投げかけるでしょう。記号が補足され、詳しい「絵」が描けたところで「へー、わかった!」となるのです。

 つまり、「わかりやすい人」とは……相手の脳内に素早く「絵」を描かせてくれる人です。

 逆に、なかなかうまく「絵」を描かせてくれない人が、「わかりにくい人」ということ。その意味では、書店で見掛ける「よくわかる」「マンガでわかる」というタイトルの本は、脳内に素早く「絵」を描く手助けをしてくれるのだといえそうです。

「わかりやすい伝え方」は、ソシュールの言語学に学べ
 私に「わかりやすさとは、脳内に絵を描かせることだ」と気づかせてくれた人がいます。フェルディナン・ド・ソシュールというスイスの言語学者です。彼は「近代言語学の父」といわれ、「シニフィエ」と「シニフィアン」という言語学用語を定義しました。

 たとえば、あなたが海について話しているとします。

 あなたの頭にぼんやり浮かんでいる海のイメージや概念が「シニフィエ」。「海」「うみ」「Sea」という具体的な文字や音は「シニフィアン」です。

 1つ例を出しましょう。

 あなたの目の前にいる「犬」そのものは物理的な存在ですよね。で、あなたが思い浮かべている犬の映像や鳴き声、つまり頭の中の犬のイメージが「シニフィエ」です。これが「犬」「dog」といった言葉(文字・音声)になると「シニフィアン」と呼ばれます。「犬」のイメージは変わらなくても、犬を見る人によってその呼び名は、「犬」「dog」「ワンワン」と変わりますよね。

 言葉というのは便利です。現実の海や犬が存在しない場所でも、言葉を使えば、「昨日、海で犬と遊んだ」という思い出話ができます。それだけ、言葉というのは重要なのです。

 しかし、ここで注意しなければならないのは、あなたが頭の中で描いた犬と、相手の頭の中での犬は、同じとはかぎらないということです。

 あなたが伝える立場になったら、相手にどのような「絵」を描かせるでしょうか? あなたはチワワを描いているのに、相手がブルドッグを描いていたら、通じるわけはありません。

 自分の脳内の「絵」と、相手の「絵」を近づけることこそ、わかりやすさのコツ。具体的で描きやすい言葉で説明することが大切なのです。

簡単な言葉を使えばいいわけではない
 では、相手に上手に絵を描いてもらうには、どうすればよいでしょうか。
まずは相手の頭の中にある言葉、つまり知っている言葉で伝えることです。相手の頭の中にない言葉を使う時点で、わかりやすさの視点で見ると、アウトなのです。

 小学校で習う言葉、平易な言葉を「コドモ言葉」と名付けましょう。コドモ言葉は、知っている人が多い分、わかりやすくなるのは確かです。しかし、すべてをコドモ言葉にして伝えればいいのかといえば、そうともいえません。

 目的は相手の頭の中に「絵」を描かせることですよね。そのためには、コドモ言葉よりも、難しい専門用語のほうが理解が早い人もいるかもしれません。相手が普段使う言葉=相手の頭の中にある言葉なので千差万別、十人十色。人によって違うのです。ある人は専門用語かもしれません。ある人ははやり言葉かもしれません。ある人はアニメのセリフかもしれません。

 つまり、言葉の選び方は相手次第。伝える相手にとっての「わかりやすい言葉」を使うことこそ、わかりやすさの基本ルールと覚えてください。

 ここでは、具体的に私が相手の脳に「わかった!」をつくるために使っている技術をいくつか紹介しましょう。どれも私が実際に使ってきたものです。

 (1)一瞬でロジカルになる! つなぎの言葉

 「たとえば」「だから」「つまり」「しかし」。相手にわかりやすく伝える手段として「つなぎの言葉」、いわゆる接続詞はとても大切です。

 なぜか。接続詞は次にくる話や文がどんな内容かの合図、前振りになるからです。

 「たとえば」の後は例文、たとえ話がくる。「だから」の後は結果や結論がくる。「そして」「しかも」の後は、前の内容と似たような話がくる。「つまり」は前の内容を要約した話がくる。「しかし」「反対に」は前の内容と逆の話がくる……。

 会話や文章の中でつなぎの言葉(接続詞)を強調すると、伝える相手への合図になり、相手が、次の展開を予測することができます。絵を描いてもらうときには、相手に先を予測してもらうことがとても大切なのです。

 人の話を聞いているとき、頭の中は論理モードになっています。これは内容を理解したり、つじつまが合っているか確認したりするためです。「つなぎの言葉」は、脳への合図となり、次の話を予測させます。すると、脳は「受け入れ万全の態勢」になり、話をちゃんと聞けるようになるのです。

 さらに、つなぎの言葉から、次の言葉を話し始めるまでの「間(ま)」を空けるのも効果的です。ほんの少しの間(3秒ほど)をとると、相手が思考を切り替える準備の時間になるからです。

相手に興味を持ち続けてもらうには
 (2)相手を前のめりに! 脳内にハテナをつくる

 つなぎの言葉で、相手が頭の中に絵を描くための準備をさせることをお伝えしました。ここから話を進めるにあたって、話に興味を持ち続けてもらわなければなりません。そのための技術として使えるのが、「脳内にハテナをつくる」。相手が、耳慣れないキーワードを、あえて話の中に入れ込むのです。

 「えっ? なにそれ?」

 相手が驚きとともに、前のめりになったら成功です。

 脳内に「ハテナ」が生まれたら、それを解消したくなるのが人間の性(さが)。相手の頭にハテナができれば、後は簡単です。それを解消する話を展開すればよいのです。

 ただ、ハテナに対しては、きちんとした答えを提示しないと相手は納得してくれません。よくできた物語は伏線をきちんと回収してくれるから気持ちいいのです。

 ハテナ展開で気をつけなければいけないのは、相手に浮かばせるハテナの数です。ハテナは1つ。2つ目のハテナを出すときは、前のハテナを解消してからにしましょう。相手の頭の中がハテナ×ハテナ×ハテナになってしまうと、こちらの説明が大変です。張りすぎた伏線はすべて回収しないと消化不良に。最終的に「こいつは何言っているんだ?」と思われたら最悪です。

ワンランク上の聞き方
 最後に自分が聞き手の立場での技術を紹介します。相手がわかりやすく伝えてくれるに越したことはないですが、そうではない場合も多いもの。こちらから合いの手を入れて、相手の言いたいことを引き出し、まとめてあげましょう。

 私が番組やイベントでMC(司会者)を務めるときも、話がダラダラと長い人がいます。そんなときは、話し終わった後に、

 「つまり、こういうことですか?」

 と要約するようにしています。これには、2つの目的があります。1つは、視聴者や客席のみなさんに話の目的を再提示すること。人間は、新しい情報は、1回聞くだけで理解できないことがあります。そこで、ポイントとなるキーワードをもう一度押さえてあげると、「そういうことか!」と理解が進むのです。

 もう1つはペースをコントロールするためです。聞いたことを理解するには頭を整理する時間が必要なのです。「間」を空けることでそのための時間が稼げます。要約が間違っていなければ、「そうそう」とリアクションしてくれますし、ニュアンスが違う場合は相手が修正してくれます。

 注意事項が1つ。「つまり、こういうことですか?」は疑問形にしてください。「つまり、こういうことですよね」という言い方は、上から目線で角が立つ場合があります。

 ぜひ今日から、「わかりやすさ」を意識しながら目の前の人との会話に臨んでみてください。きっと新たな発見があるはずです。

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