「経営の中核を担う人材が育ってきた。私は毎日、午後3時すぎに帰っているが、業績は好調だ」(柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長)
約10カ月後の70歳をめどに社長職を後継者に譲り、自らは会長として経営の監督に専念すると公言する柳井氏にとって、足元の決算は満足のいく結果だっただろう。
ファーストリテイリング(以下、ファストリ)は2018年8月期の中間決算を発表した。売上高は前年同期比17%増の約1兆2000億円、営業利益は同30%増の約1700億円となり、共に中間期で過去最高。通期の連結売上高は2兆1100億円と、初めて2兆円の大台に到達する見込みだ。
好業績の最大の要因は海外事業にある。国内の店舗数が頭打ちになる中で海外出店に注力。海外ユニクロ事業の売上高は5074億円となり、国内ユニクロ事業の同4936億円を初めて上回った。
「デフレの勝ち組」は苦戦
片や苦戦を強いられているのが業界2位のしまむらだ。18年2月期の連結売上高は前期比0.1%減の5651億円、連結純利益は同9.6%減の297億円と、9年ぶりの減収、3年ぶりの減益。ファストリと明暗を分けた。
顧客の回遊性を高めるために全店の売り場のレイアウトを一新し、品ぞろえを絞り込んだ結果、魅力の一つである「雑多感のある売り場での宝探し」の要素が低下。売上高の約8割を占める「ファッションセンターしまむら」の既存店の売上高が前期比3%減となるなど、苦戦を強いられた。
しかしファストリとて楽観できる状況では決してない。立ちふさがるのが国内外の新興勢力だ。
アパレル通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイは昨年11月、伸縮センサーを内蔵して身体サイズを測定する「ゾゾスーツ」で一人一人にフィットするプライベートブランド「ゾゾ」を立ち上げると発表。また、アマゾンは今年3月、東京・品川に7500平方メートル以上の巨大な撮影スタジオを建設。写真や動画を充実させ、ゾゾの牙城を狙う。
「新たな勝ち組企業が互いの得意分野に攻め込む動きが今後、ますます激しくなるだろう」(流通コンサルタントの月泉博・シーズ社長)
こうした中、ファストリが注力するのが従来の事業モデルからの脱却だ。そのために始めた「有明プロジェクト」では、あらゆる情報をITで一元管理し、商品の企画、生産、物流、販売までの事業プロセスを変革。無駄なものは作らない、運ばない、売らない「情報製造小売業」を目指す。
だが、柳井氏が「アパレルの製造小売業から情報製造小売業に変わる」と宣言してから1年がたつが、その成果はいまだ見えない。社長退任のカウントダウンが始まる中、成功体験を自ら破壊して新たな成長モデルを示せるか。模索が続きそうだ。
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