2018年4月11日水曜日

中国鉄鋼輸出の抜け穴、米国は東南アジアにも照準

 貿易をめぐる米中対立の裏でどういう力学が働いているかを知るには、ベトナムの港湾都市ブンタウを訪れるといいだろう。

 中国国境から約1600キロ南に位置するブンタウでは、数十の工場がシンプルなビジネスモデルを実践している。中国から鉄鋼を輸入し、亜鉛めっき加工し、強化した上で輸出するのだ。米鉄鋼メーカーの製品より安い価格で米国に輸出することも多い。

 過去20年足らずの間に、ベトナムはこのビジネスモデルを使う企業数社によって対米鉄鋼輸出で有数の急成長を遂げる国になった。現在では米国の鉄鋼輸入の約2%を占めている。

 そうした企業の主張はベトナムや中国の政府と同じだ。つまり、世界貿易の規則を守りながら、最も安い素材を購入し、より洗練された製品に変え、最も高い金額を提示した相手に売っているという主張だ。

 しかし、米国の貿易当局者らは、そうした企業やその中国サプライヤーは原産地を不法に偽装するために第三国を迂回(うかい)させる積み替えの罪を犯していると話す。

 ドナルド・トランプ米大統領は3月、輸入鉄鋼に対する25%の関税を発表した際、「積み替えは、率直に言って、大きな問題だ」と述べている。

 米政府の主張によれば、アジアの企業が安価な中国製品輸出の抜け穴と化したために、中国の鉄鋼メーカーは米国がかつて国内産業保護のために設けた関税を回避できる。

 この抜け穴をふさぐのは重要だとトランプ政権は話している。でなければ、米国に入る鉄鋼のうち中国からの直接輸入品はわずか2%という事実にもかかわらず、中国は今後も米鉄鋼業界の勢いをそぎ続けるからだ。

米当局は東南アジアにも照準

 米貿易当局は、タイとマレーシアを含む東南アジア諸国にも照準を合わせている。中国鉄鋼メーカーが貿易の制限を避ける動きに組み込まれているとの理由からだ。

 ベトナム、マレーシア、タイは昨年、合わせて120万トンの鉄鋼を米国に輸出した。韓国とインド(やはり大量の積み替えをしていると米国に名指しされたが、韓国は3月に暫定的な関税適用除外で合意した)はそれぞれ340万トン、74万3000トンを輸出した。これら5カ国で米鉄鋼輸入の約15%を占める。

 中国の業界幹部は米国の新たな関税を非難し、独自の報復的な制限を提案した。一方、ベトナム企業はトランプ政権が積み替えに関する国際法を誤解していると話す。

 ベトナムの鉄鋼大手ホアセン・グループの幹部らは、国際法では金属製品の原産国は粗鋼の生産国ではなく、強度を加える亜鉛めっき加工をしている場所だと話す。ある幹部は「『積み替え』という言葉は当社のケースに全く合わないと信じている」と述べた。同社の従業員は近年22人から約7000人に増えている。

 鉄鋼の亜鉛めっき加工は重要なステップであり、当初の鉄鋼製品に対する作業の量次第で新たな原産地を名乗るに値する、との見解は一部のアナリストも同じだ。

 金属コンサルティング会社カラニシュ・コモディティーズのアナリスト、トマス・グティエレス氏は「反ダンピング(不当廉売)の規則は今や、さまざまな国で何度か加工された製品までターゲットにするために使われている」と述べた。こうした動きは積み替えの定義を巡る混乱に拍車をかけるため、「泥沼化するだろう」としている。

中国からベトナムへの鉄鋼流入

 ベトナムの鉄鋼ブームは2000年代初頭に開花。ホーチミン市に近いブンタウ周辺に小さな鉄鋼工場が相次ぎ誕生した。

 だが異常なアンバランスもあった。昨年まで、ベトナムでは基本的な圧延鋼板をほとんど生産していなかった。生産に必要な高炉は1基当たりのコストが20億ドルに達するため、中国から安い素材を調達できるメーカーが投資を嫌ったのだ。

 代わりにベトナム企業は圧延鋼板をより強く薄い製品にする工場を設置した。設置費用はわずか7000万ドルだ。

 そうした生産をけん引したのが、ホーチミン市に隣接するビンズオン省を拠点とするホアセンだった。

 生産が急増するにつれ、ベトナムの鉄鋼生産量は国内需要を大幅に上回った。ホアセンは早くも02年に、中国から鉄鋼を調達し始めたと米当局に伝え、14年頃に米国への輸出を開始した。

 15年には、中国の対米鉄鋼輸出が急減した。だが米商務省によると、中国からベトナムへの鉄鋼輸出は3倍以上に増え、ベトナムから米国への耐食鋼輸出は11倍に増えた。

 この傾向は16年も続き、ベトナムの鉄鋼輸出は15年の4倍に増加した。17年には、米国がベトナムから輸入した鉄鋼は約70万トンと、11年の6倍になっていた。

米商務省の判断

 東南アジアからの鉄鋼輸入の急増は米鉄鋼業界の注意を引いた。ニューコアやUSスチールをはじめとする企業は、中国の鉄鋼メーカーが米国の関税を迂回していると商務省に訴えた。

 同省は昨年12月、ベトナムの輸出には「かなりの量の」中国製鉄鋼が含まれており、中国製として扱うべきだと判断。マレーシアやタイなども同じことをしているとした。

 判断の根拠は、ベトナムの鉄鋼メーカーが追加加工やさび防止のコーティングで鉄鋼の価値を高めるための費用は、中国で発生する工場操業や鉄鋼生産の費用に比べれば「小さく、重要ではない」との結論だ。

 商務省は、製品の価値の大半はコーティングではなく鉄鋼そのものにあるため、関税を適用すべきだと述べた。米国はかつて、第三国で大幅な変更を加えられた輸入鉄鋼を最初の原産国に対する関税の対象から除外していた。

 今回の件で鉄鋼輸入業者の代理を務める弁護士は「私たちはここに新たな道を切り開いている。耐食鉄鋼は常に別の製品として扱われてきた」と述べた。

 ホアセンは米国の調査に協力していると述べた。だが中国鉄鋼に対する作業の価値について、米国の計算方法には異議を唱えた。

 商務省の最終決定は月内に下される見通し。ベトナムの鉄鋼協会は、現在のような米国の判断は自国の鉄鋼輸出に問題を引き起こすとして、世界貿易機関(WTO)に訴えるよう政府に働きかけている。

 ベトナムや東南アジアの他の輸出国にとって、トランプ関税は輸出ルートの大幅な変更を意味する。米国から積み替えを非難されたベトナム企業トンドンアは、販売量の約15%が米国向けだと述べた。同社は新たな市場の開拓を迫られそうだ。

 一方、ベトナムでは高炉が新たに建設されている。台湾のフォルモサ・ハティン・スチールは昨年ベトナムに大型高炉を設置し、同国内の工場で加工できる鉄鋼の生産を始めた。そうした製品はベトナム製品として輸出できる。

0 件のコメント:

コメントを投稿