2017年6月7日水曜日

不動産ブームに陰り、銀座の価格上昇「もう限界」−緩和マネー変調も

日本銀行の超金融緩和策で余剰資金が流入し、活況を呈してきた不動産市場に陰りが見えている。投資用不動産の取引やマンション販売は頭打ち。金融当局が不動産への過剰融資を警戒する姿勢を示し始め、銀行が融資に慎重になるとの見方も浮上している。大都市圏の不動産ブームは終わりに近づきつつある。

  訪日観光客の急増や2020年東京五輪を控えて、高級専門店やホテルの出店が相次ぐ銀座。4丁目の地価は今年、バブル期を3割超え過去最高となった。ただ、当地で創業100年の不動産会社、小寺商店の児玉裕社長は「もういいところ限界だなというところには来ている」と話す。不動産業界では「五輪まではもたない」との見立てだとし、「19年には潮目が変わり、緩やかに下降曲線になるだろう」と予想する。

  児玉社長は、その背景について「採算が取れないくらいの価格になっている」ことがあり、価格の上昇ペースは既に鈍化しつつあるという。森トラスト総合リート投資法人は約2年間、新規の不動産投資をしていない。運用する森トラストアセット・マネジメントの堀野郷社長は、「賃料伸び悩みなどファンダメンタルズの向上が望みにくい」として、「今から注意していた方が崖が低くなって良い」と話す。

  安倍晋三政権の下で、日銀が13年に導入した異次元緩和政策は国内外から資金を呼び込み、不動産価格を押し上げたものの、賃料収入の伸びは緩やかにとどまり、投資収益率は低下している。米総合不動産サービスJLLの調査によると1−3月の東京のオフィスビル投資利回りは2.9%と07年10−12月以来最低。ニューヨークの3.6%やシンガポールとロンドンの3.5%などをも下回る。16年の日本の商業用不動産投資額は3兆6700億円と2年連続で減少した。

  教職員共済生活協同組合の資産運用部長の樋口徹氏は、現状を「デフレの中での局地的バブル」とみる。日銀の金融緩和や財政出動を通じても十分な需要創出を実現できていない中、「不動産価格の上昇という副作用が生まれた。この値上がりは長続きはしないだろう」と述べた。

大量供給

  デフレから脱却したとは言えない中で、都心のオフィスビルは今後、大量供給時代を迎える。安倍政権が本格始動した13年以降、地価や景気の回復を期待してデベロッパーが大規模な投資計画に動いたためで、来年以降、次々とビルが竣工する予定だ。

  オフィス仲介や調査を行う三幸エステートの調べによると、18−20年に予定される都心3区(千代田、中央、港)に大規模ビル(1フロア200坪以上)のオフィス用貸し付け面積は約54万坪に拡大し、15ー17年の約37万坪を上回る見通し。

  三幸エステートの今関豊和チーフアナリストは、既存ビルに対して新規供給の割合が高く、ビル自体も大型化すると指摘。特に18年後半には新築ビルへのテナントの移動で、既存ビルは「二次空室が増加して空室率が上昇、賃料が低下に転じる可能性がある」との見方を示す。一方、しんきんアセットマネジメントの藤原直樹運用部長は、今後の新規オフィスの需要はあるとみており、「18年は問題ない」と語る。

融資変調の兆し

  不動産市場の活況は、異次元緩和に支えられてきた。産業界への融資が伸び悩む中、不動産向け融資は昨年、過去最高の約12兆円を記録。こうした事態に対し、金融庁は昨年9月のリポートで、「今後の動向は注視が必要」と警戒を示した。日銀も金融システムリポートで、相続税対策のアパート向けローンに積極的な地域金融機関について、融資規模が「経済実勢で説明できる水準からかい離している」と懸念をにじませる。

  五味廣文・元金融庁長官(現ボストンコンサルティンググループのシニア・アドバイザー)は取材に対し、現状について「実体経済を離れてリスクが膨張しているのとは違う」としながらも、超低金利や貸し出し難の中で金融機関が「無茶なことをしてしまうことが起こりやすい環境だ」と指摘。「警鐘を発する必要がある」と述べた。

  1−3月の国内銀行の「個人による貸し家業」向けの新規貸し出しは前年同期比0.2%減の1兆508億円と、14年10−12月以来初めて減少に転じた。アパートは不動産全体の1分野に過ぎないが、三菱商事UBSリアルティの辻徹社長は「金融が弱含むきっかけが出てきた」と話す。当局の意向を反映して融資が抑制される可能性も出てきた。

住宅

  16年の新設住宅着工は約97万戸。中でも賃貸アパートなど貸家は約42万戸と8年ぶり高水準となり、全体をけん引した。しかし、少子高齢化にもかかわらず増え続ける賃貸アパートには需給ギャップが発生。大家は当初、予定されていた家賃収入が得られず、建設を斡旋したサブリース業者との間で、トラブルも表面化している。

  好調だった首都圏マンション発売も息切れしている。消費増税の影響で落ち込んだ14年以降も回復せず、16年まで3年連続で前年割れ。東京カンテイの最新調査では、新築マンション価格と消費者の年収を比較した年収倍率(15年)は全国平均7.66倍と、92年当時を上回った。首都圏は10.99倍。

日銀

  日銀は、金融システムリポートで「金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かい、資産価格などへの影響が行き過ぎる過熱方向のリスク」を指摘。異次元緩和でアクセルを踏みながら、不動産向け融資の過熱化にも警戒さざるを得ない状況にある。

  そこには、金融政策の限界も垣間見える。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、異次元緩和が「資産価格を押し上げても実体経済は追い付かなかった」として、黒田東彦総裁の戦略をこう表現する。「マネー増加=景気浮揚というのは神話にすぎなかった」。

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