2017年6月7日水曜日

1万人の脳画像でわかった 40歳からの脳の鍛え方

何もしないと脳の老化は50代に加速する。

マンネリ脳、省エネ脳にならないためにはどうすればいいのか。

 私はMRI(磁気共鳴画像法)を通じて、胎児から100歳を超えるお年寄りまで、1万人以上の脳を診(み)てきました。

 その経験から見えてきたのは、「脳の使い方を脳画像から読み取れば、その人の生き方がわかる」ということです。

 たとえば、意思決定を常に行わなければならない経営者の脳を見ると、意思決定をする脳の部位が発達していることがわかります。

© 文春オンライン 写真1 MRIによる脳の断面図(加藤俊徳『ゆがみをなおせば、毎日のワクワクを取り戻せる! 脳コンディショニング』〔かんき出版〕より)

 写真1MRI画像を見てください。これは脳の断面図で、黒く太い木の枝のように見えるのが、発達した神経細胞から伸びる神経線維の集まりで「白質(」はくしつ)と呼ばれます。この神経細胞同士を結び付ける「枝ぶり」こそ脳の個性です。

脳は死ぬまで成長する

 もう一つわかったことは、「脳は死ぬまで成長する」ということです。かつて脳科学は「脳は3歳で決まる」といっていました。しかし、それは間違いでした。確かに1歳頃から脳の神経細胞は減っていきますが、いくつになっても脳には使われていない未発達な神経細胞が山ほど眠っています。使い方次第で、脳は一生、変化し、成長します。

 たとえば、80歳でドラムを始めた男性の社長さんがいらっしゃいます。写真2の右の枝ぶり画像は、80歳のときの脳ですが、ドラムを始めて1年後の左の脳画像と比べてみてください。薄く表出されていた手足の動きを担う部位が、黒くなり生き生きと成長しています。これは小学生の脳の一年の成長に匹敵します。

© 文春オンライン 写真2 80歳男性の脳(右)とドラムを始めて1年後の脳(左)(加藤俊徳監修『老けない脳をつくる生活習慣』〔宝島社〕より)

 でも、使わないと脳は衰えます。特に50代からは脳の老化力がアップするので、何もしないと急速に老化していきます。ですから、40代になったら、現在の脳の状態を知り、自覚的に脳を鍛えてほしいのです。それが50代以降の脳の老化を防ぎ、脳の持続的成長を促します。40代が運命の分かれ道なのです。

 では、どのように脳を鍛えればいいのか。最も重要なことは、使っていない脳の部位を使うことです。

© 文春オンライン 1 8つの脳番地の位置

 私は機能別に脳を「思考系」「運動系」「視覚系」「感情系」「理解系」「聴覚系」「伝達系」「記憶系」の8つに分け、それぞれを「○○系脳番地」と呼んでいます(それぞれが脳のどの部分にあたるのかは、図1を見てください)。

 あなたがいつも使っている脳番地は、これからも使われる可能性が高い。しかし、脳は同じ使い方を続けると、楽をしようとして、省エネを覚えます。1時間かかったことが、30分でできるようになります。若いころは、これは「進歩」でしたが、50代に入ると、この脳の省エネ化は「退化」を招きます。

 一方、使っていない脳番地は、あなたがこれまでの人生で、あまり使ってこなかった脳番地ですから、50代からは急速に老化していくでしょう。だからこそ、先ほども述べたように40代のうちから、自分が使っていない脳番地を鍛える習慣を身につけることが大切なのです。

 しかし、40代の特に男性は、脳を鍛えるどころか、脳の使い方がマンネリ化し、著しい省エネ脳になりがちです。

 40代の女性は、仕事をしながら、家事や育児をし、地域社会でも様々な関係を築いていきます。だから、様々な脳番地が開発されて、マンネリ脳になりにくい。

 その間、男性は何をしているかといえば、机に座って、パソコンに向かっているだけ。給料が上がり、地位が上がると、現場を離れて、現状に満足してしまい、脳が衰える。この悪循環にはまってはいけません。

 さて、40代で使っていない脳番地を使いはじめるとどうなるか。その脳番地は急速に成長します。つまり、これまで使っていない脳番地は、あなたの脳の「伸び代」なのです。

 では、使っていない脳番地を使うにはどうすればいいのか。その答えはあなたにとって、できるだけ「新しい」ことをすることです。それは、これまで使っていた脳番地の省エネ化を防止するのにも役立ちます。

 使っていない脳番地に「新しい」刺激を与える。それが脳を鍛える最良の方法です。

 それでは、脳番地ごとに、どんな人がその番地を使っていないのか、使っていないとどんな症状が出るのか、そして、その番地に「新しい」刺激を与えるにはどうすればいいのか、を順番に説明していきましょう。

理解系は右脳を使おう

 まず、最初は「理解系脳番地」です。この脳番地は私たちが目で見たり、耳で聴いたりした情報を統合し、理解する役割を果たしています。

© 文春オンライン 写真3 現代人の典型的な脳(加藤俊徳『日本人が最強の脳を持っている』〔幻冬舎〕より)

「理解系脳番地」は脳の後ろの方に位置しているのですが、写真3を見てください。右の後ろ部分の枝ぶりがほとんどありません。これは現代人によく見られる脳です。「理解系脳番地」は右脳、左脳両方にまたがっているのですが、右脳で「非言語情報」、左脳で「言語情報」を扱っています。ですから、写真3が物語るのは、現代人は「言語情報」ばかり処理していて、「非言語情報」をほとんど扱っていない、ということです。

 具体的にいえば、新聞、雑誌、スマホなどで大量の文字情報に触れているけれども、生の現実を見ていない。かつては風が吹いてきて、暗くなってきたら、右脳の「理解系脳番地」が「非言語情報」を統合して、「雨が近いぞ」と気づけましたが、現代人は天気予報を見ていなかったら、雨が降ることに気づけない。

 このような脳の使い方をしていると現実感が希薄になります。また、人の表情を読んだり、場の空気を感じるのが、下手になります。どれも言葉では表されないからです。空間認識能力も下がるので、街で人とぶつかったり、つまずいたりすることが多くなります。整理整頓ができなくなるのも、典型的な症状です。

 ですから、ここでは特に右脳の「理解系脳番地」を鍛える方法を紹介しておきましょう。

 まず、部屋の整理整頓と模様替えです。空間に対する理解力を高めるためです。電車内の見知らぬ人の表情から、その人の気持ちや背景を想像するのもいいでしょう。とにかく文字情報から離れる時間を作って、自然を眺めることです。

料理、楽器でも運動系は伸びる

 次は「運動系脳番地」です。文字通り、体を動かすときに使う脳番地です。ほとんどの現代人はデスクワークが多く、運動不足ですから、この脳番地もあまり使われていません。

 食事中に食べ物をこぼす、外出先ですぐに腰を下ろしたくなる、服を脱いだら脱ぎっぱなし、といった症状が出たら、要注意です。

「運動系脳番地」を鍛えるには、スポーツももちろんいいのですが、手軽なのは、歩くことです。40代なら、11万歩は歩きましょう。

 料理やカラオケ、楽器演奏、日記や絵をかくこともいい方法です。手や口を使うと、この脳番地がよくはたらくからです。歌いながら料理をする、など2つのことを組み合せて、同時にするとより効果的です。

 楽器演奏は「運動系」「視覚系」「聴覚系」と複数の脳番地を同時に使い、脳番地同士の連携が深まるので、特におすすめです。

 このように「運動系脳番地」は、他の脳番地と連携して使われることが多いので、あらゆる脳番地を統合的に成長させたいときには、まず「運動系脳番地」を鍛えてください。

視覚系には自然からの刺激を

 3番目は「視覚系脳番地」です。目から入った視覚情報を処理する脳番地です。ほとんどが後頭部にあり、右脳部分が「非言語情報」を、左脳部分が「言語情報」を処理しています。「理解系脳番地」と同様、現代人の「視覚系脳番地」は左脳部分ばかりが使われる傾向があります。

 この脳番地が衰えると、本を読むのが億劫になった、車窓から風景を見ていると疲れる、雑踏で人とよくぶつかる、といった症状が出てきます。また、「視覚系脳番地」で「非言語情報」を処理する右脳部分が衰えることは、周囲の状況の変化が察知できない、ということですから、感情の起伏が乏しくなり、生活が無味乾燥になったり、危機的状況を感じられなくなります。

 ですから、「視覚系脳番地」を鍛えるために、都市で生活していても、ぜひ朝日や夕日、月の満ち欠け、星の位置、天候、風景など、自然の変化を意識的に見てください。

 旅行に出て、新しい風景に出合うのも効果的です。特定の文字や数字など、何かテーマを決めて、車窓からの風景を見るのもいいでしょう。

 また、美術館で芸術作品を見ることも、「非言語情報」を扱う視覚系の右脳部分を刺激します。

聴覚系はラジオを聴こう

 4番目は「聴覚系脳番地」です。耳から入った聴覚情報を処理する脳番地です。

 技術者や職人など、人と会話しなくとも一人で仕事が進められる人は、この脳番地が弱くなりがちです。

 聞き間違いが増えた、話をよく訊き返す、気がつくと一方的に話をしている、人が話しているときに自分の話をかぶせる、といった症状が出てきたら、この脳番地が衰えている可能性があります。

「聴覚系脳番地」を鍛えるには、とにかく意識的に注意深く耳を使うことです。ラジオを聴きながら寝る。会議の速記録を作成する。自然の音に耳を澄ませる。といった方法が有効です。ラジオを聴きながら、書き取る。本を音読しながら、手書きで写す。いずれも「運動系脳番地」や「視覚系脳番地」との連携が強化されるので、おすすめです。

新しい回路が思考系を変える

 5番目は「思考系脳番地」です。この脳番地は前頭葉にあり、思考、意欲、創造、計画といった高度な機能を担っています。また、五感を司る脳番地とも密接な関係を持ち、感情や欲望のコントロールもここで行っています。まさに「脳の司令塔」といえます。

 自発的に何かを計画し、実行に移し、様々な判断や決断を下しながら、新たな何かを創造していく。そのような機会が少ない人は、この脳番地をあまり使っていない可能性があります。決められたルーチンワークを黙々とこなしている人や指示待ち族で仕事の計画を自分で立て、自分の判断で進めることが少ない人は、要注意です。

 この脳番地が衰えると、判断力が低下します。買い物に行くと優柔不断で決めるのに時間がかかったり、2つのことが同時にこなせなかったりします。

 また、集中力が衰えるので、計画を立てたり、新しいことに挑戦する意欲が減退します。何をするにも「面倒くさい」と思いはじめたら、危険信号です。

「思考系脳番地」を鍛えるには、脳に負荷をかける方法が有効です。たとえば、じゃんけんなどのゲームにわざと負けるようにする。「絶対ノー残業デー」を作る。休日の行動計画を他人に決めてもらう。自分の好きな定番メニューを10日間やめてみる、などです。

 これらの方法の共通点は、自分の従来の思考や行動に何らかの「拘束」や「枠組」を課すことで、新しい思考や行動を促すことです。

 わざとゲームに負けるという「枠組」を与えるだけで、新しい思考回路を使わなければならなくなります。「絶対ノー残業デー」も仕事の効率を上げるためにいつもと異なる工夫を要求します。他人が決めた「休日の行動計画」は、予想外の場所や行動へとあなたを誘ってくれるでしょう。定番メニューを断てば、今まで頼まなかったメニューとの出合いが待っています。

 とにかく「新しい」ことに挑戦することが、「思考系脳番地」を目覚めさせます。だから、40代の特に男性には、料理や新しい趣味にチャレンジしてほしい。それが新しい思考回路を生み出し、「思考系脳番地」をその最も重要な仕事である、新しい意欲と創造へと向かわせます。

感情系を満たす「ご褒美デー」

 6番目は「感情系脳番地」です。喜怒哀楽を担い、「思考系脳番地」と密接に関係しています。

「感情系脳番地」は歳を重ねても衰えにくいのが特徴なのですが、人と会わないでいい仕事、IT系エンジニアなど、パソコンと一日中向き合っているような仕事の人は、この脳番地が衰えている可能性が高い。

 最近、ドキドキ、ワクワクすることがないな、人が話すことに共感しないな、と思ったら、要注意です。

「感情系脳番地」を鍛えたかったら、とにかく人に会うことです。人と会って、コミュニケーションを取り、感情を共有する機会を増やしましょう。平坦になってしまった感情に起伏を与えるのです。

 しかし、逆に感情に起伏がありすぎて、感情を暴走させてしまうのも、「感情系脳番地」が衰えている証拠です。そこで40代男性には、何か目標を設定し、それを達成できたら、自分にプレゼントをする「ご褒美(ほうび)デー」を提案します。自分の欲求を明確にして、満たしてあげることは、感情を豊かに経験することにつながり、感情が暴走するのを防ぎます。

伝達系は日記を書こう

 7番目は「伝達系脳番地」です。誰かに何かを伝えるときにはたらく脳番地です。

 当然ですが、人と喋らない人は、この脳番地を使っていません。ですから、農業や漁業に従事していて、朝から晩まで一人で黙々と作業をやっているような人は、この脳番地が弱りやすい。

 人と会話するのが面倒になり、手紙やメールを書くのが億劫になったら、危ない。自分の気持ちをうまく表現できない、怒っていないのに、「なぜ怒ってるの?」と訊かれる人も、この脳番地が劣化している可能性があります。

「伝達系脳番地」を鍛えるいい方法は、日記を書くことです。その際には、ちゃんとした日記を書こうと気負わないでください。何でもいいから、その日あったことを記録するだけで十分です。

記憶系にいいのは思い出すこと

 最後は「記憶系脳番地」です。文字通り、記憶する脳番地です。

 この脳番地が衰える人は、せきたてられるように仕事をして、過去を振り返って、思い出すことをしない人です。最も典型的な職業は、週刊誌記者です。先週何を取材して、何を書いたか思い返さないし、憶えていない。

 この脳番地が衰えたときの症状は、ずばり記憶力の低下です。

 では、「記憶系脳番地」を鍛えるにはどうすればいいのか。それは日記や手帳を一週間に一度ぐらいは見直して、自分が何をやったのか思い出すことです。要らないものを捨てる「断捨離」も有効です。ものを見ながら、過去を思い出し、それが必要か不要か判断しなければならないからです。

自分の時間を作ろう

 最後に40代男性向けにとっておきのアドバイスを送りましょう。

 それは110分でも1人になる時間を持つこと。会社に着く前でも、家に帰る前でもかまいません。

 40代にもなると、家に帰れば、妻と子供がいて、家事や育児をしなければならず、会社では責任ある仕事が待っています。自分の意思とは別に環境が脳の使い方を常に決めてしまいます。その要求に24時間応えていると、マンネリ脳、省エネ脳になっていくのは目に見えています。

 まず、自由な時間を10分でもいいから作ってください。そして、その時間を使って、自分の脳の状態をチェックし、マンネリ脳にならないためにはどうすればいいのかを考えてください。そして、新しい脳の使い方を発見してください。その時間を新しい脳の使い方に充てるのもいいでしょう。健闘を祈っています。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿