映画『マトリックス』でネオとして目覚めたアンダーソンや、ドラマ『オルタード・カーボン』のタケシ・コヴァッチなど、壁の向こうにいる敵を透視して、攻撃を予見する力ってありますよね。
驚くなかれ。マサチューセッツ工科大学 コンピュータ科学・人工知能研究所(MIT CSAIL)は、そんな能力を可能にする研究を進めているんです。しかも、部屋の中に飛び交っている無線電波(RF電波)を利用して。
この技術は「RF-Pose」と名付けられました。人を透視する手順は、まず室内で人間に反射する電波を検知します。そして、システムは縦と横に飛ぶ電波からRFヒートマップを作り出し、2軸の情報から人の位置や動きを突き止めます。最後に、人間の動きを学習したニューラル・ネットワークが人型を作り、それをもとに棒人間のアニメーションを生成します。
ヒートマップから人間の形を特定するのに、ニューラル・ネットワークが使われるというのは先ほどのとおり。しかし、そのニューラル・ネットワークに学習させるには、あらかじめ人の手でラベル付けをしたデータセットを用意しなければなりません(「教師あり学習」を行なう場合)。しかし、無線電波から人の手でラベルをつけるのは難しいため、研究チームはカメラを使って人が日常で行なう、歩く、座る、話すなどの動作を記録。取得した数千ものサンプルを、 ニューラル・ネットワークに学習させました。
壁を透視するだけじゃない
この技術は何も、壁の向こうに居る人を透視するためだけに研究されたわけではなく、研究チームによると、RF-Poseでパーキンソン病、多発性硬化症(MS)、筋ジストロフィーなどの病気を観察し、病気の進行を理解するのにも活用できるとのこと。映像ではなく、データで記録できるから活用もしやすいというわけですね。しかも患者は一切センサーを身につける必要がないメリットもあります。
加えてこの無線電波は障害物を透過する性質があるので、壁の向こうにいる人間を見つけられるというメリットもあるわけです。室内の光量は関係なく、真っ暗な中でも人間の動きを読むことができます。これまで物体を透視するのはX線と相場が決まっていましたが、ラジオ波なら無害です。
RF-Poseが検知できるのはひとりだけではなく、複数の人間でもOK。今後はもっと小さなマイクロ波を利用して、棒人間から立体的な3D人間を生成させたいとのこと。
さらにこのニューラル・ネットワークは83%の正解率で個人を特定できるところまで賢くなっています。街中で犯罪者を見つけ出すこともゆくゆくは可能になるんでしょうね。動体検知で個人を特定する技術も、近未来SF映画で見かける技術です。マスクを被っただけでは、強盗犯はスグ誰だか判明してしまう世の中がやってくるのです。
しかし無線電波なんてどこでも飛んでいるので、これが身近に使えるようになれば、たとえばハイテク浮気調査で真っ最中の旦那さんの現場をおさえる……なんてことも起こるでしょうね。なにごとも、棒人間のように真っ直ぐ生きるのがイチバンのようです。
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