2018年7月30日月曜日

MRで完成図を容易に想像可能に――建設業界で進むICT活用で現場はどう変わっているのか?

 「VR」(Virtual Reality:仮想現実)や「MR」(Mixed Reality:複合現実)、AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)など、多くのICTが登場し、さまざまな企業で活用されている。例えば、VRを活用することで従業員を効率良く訓練させたり、IoTを使うことで遠隔から機械の状態が分かったりする。ICTの活用が進んでいるのは、建設業界も例外ではない。
 ソリトンシステムズは、2018年6月26日、建設業に携わる顧客を対象に「業務効率化とセキュリティ対策 ~建設業界での課題と事例を中心に~」と題したセミナーを開催した。本稿では、日本建設業連合会 IT推進部会先端ICT活用専門部会 主査兼大林組 グローバルICT推進室 担当部長の堀内英行氏による基調講演「建設現場における先端ICT活用の最新動向」の内容をお伝えする。

建設業でのスマートデバイス導入率は96%

 「スマートデバイス導入済みの企業は、2016年度の81.6%に対して、2017年度には96.0%に達した。そして、その半数は直近3年間に導入していた。利用用途については、『図面閲覧』『写真管理』『コミュニケーション』『検査』などの用途で、利用率や導入効果が高かった。導入成果としては、『生産性』『業務精度・スピード向上』『コミュニケーション向上』『働き方・業務改革意識の向上』の4つの項目で、成果が挙がっている」 堀内氏はまず、日本建設業連合会(以下、日建連)の会員を対象に2017年12月に実施したスマートデバイスの導入、展開に関するアンケート結果を用いて、建設業界でスマートデバイスの導入、利活用が急速に拡大していることを紹介した。
左:スマートデバイスの導入状況、右:スマートデバイスの利用用途
 こうした背景を踏まえて堀内氏は、建設現場のさまざまな課題を解決するICTサービスの最新動向について、具体的な事例を挙げながら紹介した。その中で、特に注目を集めているのが、VRとMRを活用したICTサービスの事例だ。

VR、MR、AI……最新ICTが活用される建設業界

 VR技術は、現場訓練、研修システムへの活用が進んでいるという。今まで実地訓練が必要だった特殊技術や現場での経験を、VRを通じて習得可能となるため、効率的な人材育成や現場の職人不足解消につながると期待されている。
 「例えば、施工管理者向けの教育システムでは、配筋のモックアップをVRで再現し、配筋の不具合を検知する訓練を行う。これにより、実際にモックアップを製作することなく、低コストかつ手軽に、現場さながらの環境で訓練ができる。また、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)データを活用できるため、さまざまな内容の訓練を容易に作成可能になる」
 この他、現場での類似体験が難しい墜落、転落、火災などの災害を、リアルに体感できる教育VRの事例を挙げ、「現場作業員の安全に対する意識を向上させるための教育に役立つ」とした。
 
VRを使った訓練の様子
 MR技術については、家庭用昇降機の実測、設計でヘッドマウントディスプレイを活用した事例を紹介。具体的には、ヘッドマウントディスプレイを使うことで、家庭で階段に設置する昇降機の製作や設置施工時に使う図面を現地で作製して、図面を基にした3Dモデルと現実の階段の映像を重ね合わせて見ながら確認する。ダイレクトに製作工程につなげることで、工数やコストを大幅に削減したという。
 また、1分の1スケールの図面実寸投影を実現するMRソリューションについて、デモを交えながら紹介した。
 「まずCADデータを取り込み、ARマーカーとCADデータの相対的な表示位置を定義する。次に変換サーバで3Dデータへの変換処理を行い、ヘッドマウントディスプレイのビュワーからダウンロードすると、CADデータが1分の1スケールで現実世界に重畳表示される」
 このMRソリューションは、建設現場における干渉検討や出来形確認、墨出しチェック、メンテナンスなどの活用に期待されており、実証実験では、「インサートなどの墨出し工数を3分の1に削減」「施工ミスの軽減、施工品質の向上」「BIMデータと連携して隠蔽(いんぺい)部の構造、設備を透視」「完成後の保守、メンテナンス作業の軽減」といった導入効果があったという。
 堀内氏は、VR/MRの他にも、建設現場の課題解決につながるさまざまな先端ICTサービスを紹介。例えば、ソフトウェアとコンテンツ、ハードウェアをセットにしたオールインワンの「サイネージソリューション」を活用することで、ホワイドボードによる手書きの作業予定表を、迅速かつ容易にデジタルサイネージへ移行できる。
 また、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックを組み合わせた2次元カラーバーコード「カメレオンコード」とスマートデバイスを利用した車両入退場管理システムでは、車両入退場の記録を写真とともに管理でき、オリンピック関連施設など大規模な建設現場における、より厳重な車両管理を実現する。
 左右2つのレンズを内蔵するカメラを使った「3D画像解析システム」では、距離、高さ、体積を認識して、3Dで解析、検知を行う。人の目と同じように動くものを立体として認識できるため、建設現場での入退監視や不審者の検知、通報、ゲート通過時の人数カウントなどに活用できるという。
 建設現場では、工事写真関連業務が現場スタッフの大きな負担になっているケースが多く、これらの業務をアウトソーシングするニーズも高まっている。このニーズに応えるのが、アプリと連携して電子黒板や写真帳の作成業務を請け負うBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスだ。これにより、建設現場のスタッフは、工事写真の撮影準備から写真整理までの業務負荷を大幅に軽減可能だ。
 この他、IoT、AI関連では、給電不要なEH(エネルギーハーベスト)型環境センサーと仮設Wi-Fiを組み合わせることで、現場の作業環境をモニタリングして熱中症を予防するシステムや、打音検査時の「音」をスマホで取得するだけで熟練工の五感に頼らずに良否判断ができるAI搭載アプリを紹介。さらに、ドローンの活用例として、ドローンによる建設現場のデータ分析および進捗(しんちょく)管理ソリューションをピックアップ。構造物の壁面を自律飛行するドローンを活用することで、より高精度なモデルの生成と進捗管理が可能になるとした。

 多くのところでICT化が進む建設業界。今後はIoTやAIなどによって、熟練工の技術やノウハウの多くが数値化され、若手の従業員でも熟練工の技術が使えるようになるかもしれない。さらにロボティクスが発展することによって、危険な建設業務は全て機械化されるかもしれない。そのときに、必要な能力をしっかりと見極めて、ICTと向き合っていくことが大切になるだろう。

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