2018年7月4日水曜日

シンガポール「水問題」が再燃、マレーシアの債務削減で

 島国のシンガポールは半世紀以上、自国で消費する水の半分を隣国マレーシアから輸入してきた。しかし、膨れ上がる債務の削減を目指すマレーシアの新首相によって水供給契約は見直される可能性が出てきた。

 シンガポールはかつてマレーシアの一部だったが、1965年に分離独立。その後、何年にもわたって両国の経済・外交取引に影を落とした。その関係はいまだに不安定なままだ。

 マレーシア首相に返り咲いたマハティール氏は、最初の数週間で数々のプロジェクトにブレーキをかけ、閣僚の給与をカットした。過去の政権による汚職のせいだと同首相が非難する、約1兆リンギ(約27兆円)に上る同国債務を削減するためだ。

 マハティール首相は、シンガポールに売る水の価格に狙いを定めている。

「全くばかげていると思う」と、マハティール首相は25日、シンガポールとの水供給契約について、シンガポールの国営テレビ局チャンネルニュース・アジアとのインタビューで語った。

「1990年代、あるいは1930年代であれば問題なかった」と述べ、契約の再交渉を求める意向を示した。

 同日行われた記者会見で水問題について聞かれると、マハティール首相は「急を要する問題ではない」と一蹴した。

 シンガポール外務省は同日、電子メールで「両国とも全ての合意条件を完全に順守しなければならない」との声明を発表した。

 シンガポールとマレーシアの緊張は、マハティール氏が最初に首相を務めた1981─2003年に高まった。水を巡る対立も難しい両国関係の一因となった。今年の5月に首相復帰してから、92歳のマハティール氏は、首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画を中止すると表明。また、領有権問題の対象となっている沖合の岩礁を開発する意向を示している。

 マハティール首相が水供給問題を蒸し返しているのは、見せかけだとみる専門家もいる。首相が表明したように、マレーシアが高速鉄道計画から手を引けば、同国はシンガポールに違約金を支払わなくてはならない。

「カネだけの問題ではない。彼(マハティール氏)は非常に抜け目ない政治家だ」と、シンガポール国際問題研究所で安全保障問題などを担当するニコラス・ファン氏は言う。「異なるレバーを用意して、それを引くことで特定の結果を得る術を熟知している」

 1962年に締結された合意の下、シンガポールは、マレーシアのジョホール川から1日当たり最大2億5000万ガロン(9億4600万リットル)の水を輸入することができる。これはシンガポールが1日に必要とする水の約58%に相当する。

 価格は1000ガロンにつき0.03リンギ。そのうち、少量の処理水は特別価格でマレーシアに売ることが義務付けられている。

 シンガポールが最大量の水を輸入する場合、その額は年間約270万リンギ(約7400万円)となる。

 水供給契約は、1965年に両国が分離した際に、両政府によって保証された。シンガポールは、同契約を尊重することは、国民国家としての自国が存続することと同じであると明言している。

「水供給を巡る問題は他のどの政策よりも優先されなくてはならなかった」と、シンガポール建国の父、リー・クアンユー元首相はかつてこう述べた。2015年に死去したが、現在は息子のリー・シェンロン氏が首相を務めている。

 マハティール首相とリー・クアンユー氏の関係が険悪だったことは有名な話だ。マハティール氏はかつて、不当な契約である証拠として、香港と中国が結んだ契約を指摘したことがある。

 公式データによると、香港は昨年、必要な真水の3分の2以上(1日当たり4億8000万ガロン)を中国から買うのに定額47億8000万香港ドル(約670億円)を支払った。

 一方、シンガポールは、マレーシアから輸入する水の価格が比較的低く抑えられているのは、処理費用だけでなく、ポンプやマレーシアからのパイプラインの建設、稼動、維持にかかるコストも全額負担しなければならないからだと主張している。

 マレーシアは2000年に価格改定を求めたが、シンガポールは2061年以降も価格を固定する案を提示してこれに対抗した。

 一連のやりとりを経て、協議は平行線に終わった。マレーシアは、シンガポールが理不尽で、過度に法律を尊重していると非難した。

 一方、シンガポールは、話し合いが失敗に終わったのはマレーシアに責任があると主張。マレーシアが、価格を現在の200倍に引き上げるよう要求し、「2061年以降の水供給に関して合意する意思がない」ことが明らかだったとしている。

 2011年には、マレーシアの他の場所から水を供給する別の契約が失効した。

 シンガポールは自国の水資源を活用するため、雨水の貯留や海水淡水化などの設備を強化している。また、2061年に現在の契約が切れるまでに自給力を高められるよう、水の再生利用戦略を推進している。

 だが、マレーシアとの水問題の再燃は、シンガポールにとっては間の悪いタイミングで起きた。

 シンガポールで最大4分の1の水を供給する淡水化プラントの建設を手掛けた水処理大手ハイフラックスは、深刻な経営難に陥っており、西部チュアス海水淡水化プラントの売却を検討している。

 シンガポール公益事業庁(PUB)は、「状況を注視し、チュアス工場が稼動を継続できるよう措置を講じている」としている。

 2021年までに選挙が予定されているシンガポールでは、水の価格は神経質な問題となっている。国民の強い支持を受ける同国政府だが、昨年約20年ぶりの値上げに踏みきると、異例の抗議デモに直面した。

0 件のコメント:

コメントを投稿