オンラインでクレジットカードの発行を申請する際、最後の「本人確認書類のコピーを送付」という作業に煩わしさを感じる人は多いだろう。オンラインで完結させたいのに、わざわざ有休を取って店舗に出向いて銀行口座を開設——そんな経験をした人もいるかもしれない。
こうした面倒な作業が発生するのは、金融系サービスにとって「顧客確認」(KYC:Know Your Customer)が必須とされているからだ。
最近になってようやくオンラインで完結する手続きも出てきたが、多くのサービスは出遅れている。それはオンラインでの本人確認技術がかなり高額で、大企業でないと導入が難しいからだという。
そんな業界の需要にいち早く目をつけ、世界中の中小企業を相手にビックビジネスに挑もうとしているのがエストニアのスタートアップだ。そのサービス「Veriff」とは一体どのようなものなのだろうか。
●AIが顔認識とIDカードで本人確認
エストニアの首都・タリンを拠点とするスタートアップが開発したVeriffは、オンラインでの本人確認をより正確に、簡単に、そしてリアルタイムに行えるSaas(Software as a Service)型サービス。
顧客がスマートフォンやPCのカメラで顔とIDカード(パスポートや運転免許証など顔写真付きのもの)を写すことにより、顔を分析し、本人であると認証する仕組みだ。銀行やフィンテックなどKYCが必須とされている企業はもちろん、オンライン詐欺に悩まされている企業も活用できる。
Veriffで活用されているテクノロジーは顔認識技術と機械学習。顧客とIDカードの映像だけでなく、デバイスやネットワーク情報から何百ものデータポイントが収集され分析される。分析には機械学習を用いるので、人間では見過ごす可能性のあるパターンや例外も判断してくれる。
顧客がアクセスに使用するデバイスは、瞬時にブラックリストのデータと比較され、過去のアクセス情報も含めて分析される。他にも、提示されたIDカードが法的に有効であるか、偽造されたものでないかなど判断することも可能だ。こうしたテクノロジーにより、Veriffの認証技術が担保されているという。
Veriffを活用することによって得られるメリットは、個人としては、誰もが経験したことがあるように、本人確認書類の送付や窓口への訪問といった面倒が省けるようになること。
一方、企業側のメリットも大きい。本人確認が正確に行えるので、詐欺を防止できるのはもちろん、店舗の維持費や人件費などのコスト削減も期待できるだろう。
Veriffの導入方法はこうだ。まずWebサイトで申し込みをし、完了したらログインして必要なコードをコピー。あとは自社のサイトやアプリ内にペーストするだけ。
コストはプレミアムプランの場合、月々の支払いが49ユーロ(約6300円)。これに加えて、1回の認証ごとに2ユーロ(約260円)かかる。このほかに認証件数が多い企業向けにはエンタープライズプランを用意。こちらはVeriffの営業と要相談。
●中小企業をターゲットに、本人確認版「Stripe」を目指す
Veriffは15年に、当時20歳だったカーレル・コトカ(Kaarel Kotkas)CEOによって創業。そのカーレルCEOは、なんとその歳にしてVeriffが3つ目のスタートアップの創業という根っからの起業家だ。
カーレルCEOはVeriffの創業前に海外送金サービス「TransferWise」に在籍していた経験があり、その際にVeriffを着想したという。
カーレルCEOによると、開発した目的は「本人確認の最新技術を中小企業も導入できるようにすること」という。ソフトウェアの開発や導入に掛かる巨額の費用を賄えない中小企業に向けたサービスで、将来カード決済「Stripe」の本人確認版になることを目指しているという。
16年6月にローンチされたVeriffは、それと同時にエストニアで展開される金融サービス「Inbank」と同国のECサイト「Hansapost」に導入された。現在はエストニア国内だけでなく、世界中で40を超える企業がVeriffを利用しており、業界も金融サービス、EC、マーケットプレース、シェアリングエコノミーなど広がりつつある。
今年初めには、米国・カリフォルニア州に拠点を置くベンチャーキャピタル Y Combinatorが開催する、選ばれたスタートアップだけが投資を受けて参加できる3カ月間のスクール「Y Combinator Winter Class 2018」を卒業。
そして、このほど770万米ドルの資金調達に成功。この資金で、VeriffのSaas型サービスに改良を加える他、米国への進出を予定している。まずはセールスとマーケティングのオペレーション部門を、現在拠点としているタリンから米国へと移すのだという。
●活況のFintech市場 ID盗難被害も問題に
米国の金融コンサルタント企業Javelin Strategy & Researchが今年2月に発表した「2018 Identity Fraud Study」によると、同国では17年に1670万人がIDの盗難被害に遭った。また、IDカードの偽造技術が高度化し、人間の目では偽物と判断が到底つかないまでになっているという。
こうした背景から、「本人確認」はテクノロジーが進歩した現在でも大きな課題の1つとなっている。オンライン化が進む現在では、より信頼できる本人確認手段が求められているといえる。
Veriffが中小企業をターゲットとして開発された理由は、前述の通り、オンラインでの本人確認技術の導入が高額でハードルが高いことが挙げられる。しかし、その根底にはスタートアップの数の増加があるだろう。
近年では金融サービスを扱うFintechスタートアップが数多く登場し、Veriffのような小規模の企業が手軽に導入できるオンラインでの本人確認技術の需要は今後高まっていくのではないだろうか。
ID盗難被害の増加と偽造技術の高度化、そしてスタートアップの増加。時代の流れとそれに伴う需要をうまく見いだしたVeriff。いつか日本企業にも導入され、私たちの生活がさらに便利になるのではないだろうか。今後のビジネス拡大に期待したい。
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