2018年7月23日月曜日

中国に貿易戦争を仕掛けた、トランプを待つブーメラン

<中国への強硬路線は大統領再選への道を開くどころか、自らの重要な支持層を痛めつける結果を招く>

貿易戦争が本格的に始まった。トランプ政権は7月6日、中国からの輸入品340億ドル相当に25%の追加関税を発動。中国も直ちに同規模の報復関税を導入した。両国はこれに加えて160億ドル相当の輸入品に対する関税措置を互いに計画している。

米政府は10日、対中制裁としてさらに2000億ドル相当の輸入品に10%の追加関税を課す計画も明らかにした。これらの措置が全て実施されれば、中国からの輸入品の約50%が関税引き上げの対象になる。

トランプ大統領の貿易戦争に対する識者の反応は、おおむね批判的だ。有力エコノミストたちもほぼそろって、無謀で見当違いな政策だと非難している。

レーガン政権で行政管理予算局長を務めたデービッド・ストックマンによれば、トランプは「自分がやっていることの意味を理解していない」。経済の複雑性と相互依存性が高まっている今日、アメリカが中国と貿易戦争を始めれば、世界経済が壊滅的な打撃を受けかねないと、ストックマンは指摘する。

トランプの対中強硬姿勢は、16年米大統領選での過激な発言の延長線上にある。トランプは中国との貿易不均衡に終止符を打つと心に決め、20年大統領選での再選に向けて「アメリカ・ファースト」の政策に突き進んでいる。

中国政府に有利な戦い?
しかし、トランプにとって、これほど危うい行動はないかもしれない。中国に対する制裁関税の影響がブーメランのように戻ってきかねないからだ。

中国との貿易戦争は、もっと経済規模の小さな民主主義国を相手にするより格段にリスクが大きい。中国は巨大な経済を擁している上に、国を統治する指導部は選挙の心配をせずに済むからだ。

制裁関税は中国経済にかすり傷くらいは負わせられるかもしれないが、選挙の洗礼を受けない中国指導部は長期戦に持ち込む余裕がある。それに対し、アメリカでは、来年の今頃には次の大統領選のテレビCMが流れ始めるだろう。もし貿易戦争により株式相場が下落したり、物価が目に見えて上昇したりすれば、トランプは有権者の厳しい目にさらされることになる。

経済への影響次第では、自由貿易志向の強い与党・共和党内でもトランプに挑む候補者が登場するかもしれない。それでも、トランプが共和党予備選を勝ち抜けない可能性は小さい。共和党支持層での支持率は87%に達している。それでも、共和党支持者の投票率が前回より下がれば、本選挙で民主党候補に勝つことは難しくなる。

問題は、対中貿易戦争により、トランプをホワイトハウスの主に押し上げた主要支持層である農家が大打撃を受けかねないことだ。「トランプは自らの支持層を狙い撃ちにしているかのようだ」と、ある共和党の選挙戦略家はため息をつく。

特に大豆農家のダメージが大きい。下院には、大豆生産が主要産業の選挙区が30ある。16年大統領選ではこの全てをトランプが制し、現在の下院ではこのうち25議席を共和党が押さえている。しかし、今後の選挙で共和党がこれらの議席を失うことがあれば、議会がトランプの弾劾手続きに着手する可能性も高まりかねない。

トランプは特定のイデオロギーを持たず、衝動性と負けず嫌いな性格のせいで混乱を来している、とよく言われる。この見方には賛成しかねる。

ブルッキングズ研究所のトーマス・ライト研究員が大統領選前に指摘していたことが的を射ている。「過去30年間のトランプの発言を注意深く検討すると、常に一貫した世界観を持っていたことが分かる。大統領に当選したとしても、それはあまり変わらないだろう」

トランプは、今後もゼロサムゲーム的な世界観の下、商取引と同様の姿勢で外交に臨むに違いない。そうなれば、さらなる波乱は避け難い。シートベルトを締め直す時だ。

0 件のコメント:

コメントを投稿