2017年7月18日火曜日

グーグルが認めた「花まる学習会」アプリの力 子ども向け教育アプリで世界トップ5に選出

 設立から3年、社員数わずか14人。小さなベンチャー企業の作ったスマホアプリが、子ども向け教育アプリで世界トップ5に入る快挙を成し遂げた。

 東京大学本郷キャンパスの近くにオフィスを構えるベンチャー「花まるラボ」が作ったのが、「Think!Think!(シンクシンク)」というアプリだ。

 米グーグルがアンドロイドスマホ向けアプリを対象に表彰を行う「グーグルプレイアワード」のキッズ部門で今年5月、世界中の候補の中からファイナリストの5つに選ばれた。ユーザーからの評価の高さやダウンロード数の伸び、さらに教育に対する理念などを含めて評価されたという。

・大人でも難しい思考力育成ゲーム

 シンクシンクは5〜10歳の子どもを対象に、1問3分の迷路やパズルといったゲームを解いていくことで、思考力育成を目指す教材だ。アプリ内には40種類・5000題以上が収録されている。

 ユーザー数は現在12万人。2016年3月に配信が始まり、最初の1年は月額1600円だったが、今年3月から一律無料化された。

 たとえば、「はこになる?」という問題は、画面に表示された展開図が直方体になるかどうかを○か×かで答えるというもの。頭の中で自在に展開図を組み立てられる空間認識力を養う。子どもだけでなく、大人でも思わず考え込んでしまう問題も少なくない。親子で楽しめるアプリといえる。

 実は開発元の花まるラボは、学習塾「花まる学習会」の運営企業、こうゆうの子会社だ。塾では「メシが食える大人にする」という教育理念を掲げ、単なる受験のための勉強ではなく、思考力を鍛える教材や授業を展開してきた。創業者の高濱正伸氏が開発した独自教材「なぞぺー」で知られる。

 花まるラボの川島慶代表は、東京大学在籍時からアルバイトで学習会にかかわり、2011年にこうゆうに入社。以後、教室での指導と並行してなぞぺーなどの教材改良にも取り組んできた。また、社外の活動として「算数オリンピック」の問題作成・解説にかかわっている。

 だが、川島氏はふと考えた。「経済的な理由で学習会に通えない子どもたちにも、学べる機会を提供したい」。2014年、教材開発に特化した組織として花まるラボを設立。無料で、どこでも遊べる、そして紙よりも学習の継続性がありそうだと考え、アプリ開発に乗り出した。

 「一度始めたらずっと楽しめる、自己肯定感も育めるアプリを作りたかった」。川島氏は、国内外の児童養護施設で教育に携わった経験もある。そこで感じたのが、教育格差は「意欲の格差」から生まれているということだった。

 成功体験を積み上げていけば、意欲も上がっていく——。シンクシンクでは、アプリで遊ぶ子どもたち1人1人のレベルに合った問題を出す。メダルやポイント、ランキングといった仕組みも取り入れることで、子どもたちが「できた!」という感覚を持てるように開発したという。

 一方で、こうしたスマホアプリに対しては保護者の間で「ゲームのようにやりすぎてしまうことはないか」という懸念がある。

 そこでシンクシンクは1ユーザーのプレイ時間を1日3問、合計10分に制限している。「1日の1%にも満たない時間。短時間で子どもたちも没頭できるし、継続性が高まる」(川島氏)。

・鍛えるべき思考力とは?

 花まるラボでは鍛えるべき思考力として、5つの要素を上げている。「空間認識」、「平面図形」、「試行錯誤」、「論理」、「数的処理」だ。シンクシンクは、この中でも10歳までに大きく伸ばせるとしている空間認識、平面図形、試行錯誤の3分野を鍛える問題が主だ。

 問題の制作にあたっては、まず花まるラボの社員がコンセプトを決め、東大生を中心とする40人のアルバイト学生を中心に、個々の問題作成やデザイン、プログラミングなどを行う。

 最も人気があるのは「ラッキーバルーン」というゲーム。矢の方向を想像し、いくつか置かれている風船の中で割れないと思うものを選択する。適切な補助線を引く訓練になるという。2番人気は「とおる?」。提示された立体図形が、壁に空けられた穴に通るかどうかを○か×で答える。

 3番人気は「ひとふででんきゅう」だ。電池からすべての電球を一筆書きでつなげられるように指でなぞるというもの。電球が多くなればなるほど、一筆書きの道筋を考えるのに頭を使う。

 現在は日本国内が中心だが、海外展開も進めている。タイ・バンコクではアプリを含めた教材を使った教室のフランチャイズを始めたほか、カンボジアでは社員の採用を行い、政府への働きかけなどによってアプリの活用を大きく広めたい考えだ。

 グーグルプレイアワードでのノミネートが発表されてからは、就職の応募が増えたほか、企業からの提携の打診なども受けるようになったという。

 「2020年には1000万ダウンロードを目指す。教育アプリでのフェイスブックやユーチューブのような存在になりたい」と壮大な野望を掲げる川島氏。盤石な親会社の後ろ盾を背に、猪突猛進を続ける。

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