2018年10月31日水曜日

姜尚中が解説、安倍政権が「消費税増税を断念できない理由」

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

 先送りされていた消費税の増税が来年10月に決まりました。8%から10%への引き上げは過去に2度も延期になっていましたから、この決定はまさに「三度目の正直」です。

 しかし、客観的にみれば過去の延期の時よりも今回のほうが、増税が難しくなりそうな雲行きです。日米間の貿易交渉の行方や激化する米中の貿易摩擦、中国経済の減速感や新興国の通貨不安、中東情勢の流動化や英国のEU離脱交渉の不透明感など、不確実な事態が世界経済に暗い影を投じ、ここのところ株価は激しくアップダウンしています。来年以降、世界経済は大きく落ち込む可能性があります。

 2度目の消費税増税の延期が決まったのは、2016年6月でした。この時の延期の理由は、「リーマン・ショック級の経済的な不況が懸念される」というものですが、当時の景況感から見れば、それほどの経済的な危機が迫っていたとは言えませんでした。そう思うと、消費税率引き上げの延期は、牽強付会(けんきょうふかい)だったと言えます。

 16年の段階では、経済危機は杞憂で済みましたが、今回はそうはいかない可能性があります。まるで、2年前の消費増税延期の理由が今になって生きているかのような状況です。そんな時に消費税率10%への引き上げとなれば、より負担感が高まり、消費がかなり冷え込んでしまうかもしれません。

 それでも消費税増税を断念できない理由が安倍政権にはありました。増税を断念すれば、25年度のプライマリーバランスの黒字化は、ほぼ絶望的です。そうなれば日本の財政再建に対する信任が揺らぎますから、安倍晋三首相は消費税の引き上げは100%すると断言し、駆け込み需要と反動減を抑えるための経済対策などをまとめるように指示せざるをえなかったのではないでしょうか。

 しかしいくら国際公約とは言え、実際に景気の落ち込みが予想されるとき、果たして消費税率の引き上げができるのかどうか。そこが安倍政権のジレンマになりそうです。参院選や地方選挙、さらに憲法改正の問題も絡んで、もう一度消費増税引き延ばしの是非を問う総選挙もないとは言えないかもしれません。

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