アマゾン・ゴーは顧客が専用のアプリを用いて入店。購入した商品をカメラやセンサーなどの情報を通じて、AI(人工知能)で認識し決済する仕組みだ。レジ決済が必要なくなることで、スマートな買い物が可能になるというわけだ。近く米シアトルに1号店を開設する見通しとなっている。
日本ではAIを駆使したアマゾンコンビニに大騒ぎで、日本にもこのアマゾン方式が導入されるかもしれないという観測が広がっている。早くも、日本の流通は席巻されてしまいそうだという"脅威論"まである。
確かにアマゾンのレジ決済不要の店舗は種々の可能性を秘めている。まず顧客が入店して何を買おうとしているか、顧客の店内での行動が赤裸々になる。アプリで顧客の属性は明確になっているから、Aさんは何時くらいに来店して、どういったものを購入したか、売り場のどこに滞在時間が長かったか、何を買い何を買わなかったのかが、つぶさに分かる。
つまりマーケティングの手段として極めて有効なシステムなのである。ネット上で顧客がどこのページを閲覧し、どこのページで購入を決めたのか、回遊状態などEコマースで蓄積したノウハウが実店舗に生かされているといっていい。
しかもアマゾン・ゴー方式は商品の補充や見切り(値下げ)などに威力を発揮する可能性を秘めている。カメラとセンサーで常に売り場を監視しているから、商品量が減ればアラームを鳴らして補充作業が進められる。また、自動発注など業務の効率化にも役立つとみられている。
日本でも始まっていたローソンとパナソニックによる実験
こうした映像情報を使い顧客の購買動向を知る実験は、すでに国内のコンビニでも行われている。ローソンはパナソニックと組んで、大阪の店舗「ローソンパナソニック前店」でアマゾン・ゴーの実験が始まる2年以上も前から実験を始めている。店内に設置した6台のカメラが、店内における顧客の動向を探り、マーケティングに役立てる実験である。
ただ未だに普及段階に入っていないところをみると、まだ実験を続けていると思われるが、ローソンの動向はさておいて、このアマゾン・ゴーの凄みは、やはりカメラやセンサーで取り込んだ画像データをAIで処理して、レジによる決済を不要にする機能を備えていることだろう。
日本ではICタグによる決済の簡素化の実証実験が進められようとしている。コンビニ大手3社でICタグを使い、物流の効率化、店内での購入後の決済の実験を行っている。ICタグはかなり低価格化が進んできたが、依然として1枚10円以上しており、高値に張り付いたまま。コンビニで販売しているような1個数十円から100円前後の商品に張り付けてペイするような局面にまで、まだ来ていない。経産省もそれを見越して、コンビニ大手3社が本格導入を図れば量産効果が出てくるのではないかと、コンビニに活用を促している格好だ。
仮にICタグ1枚数円、数十銭という単位になり、、爆発的に普及が進めば、コストがかかるアマゾンのカメラ、センサー、AIを使ったアマゾン・ゴー方式も日本では意味をなさなくなる。
日本のガラパゴス的な進化といわれるかもしれないが、ICタグが普及拡大すれば、アマゾン・ゴー的な決済方法は不要なのである。日本の消費者はいまだ現金主義で、少額決済はクレジットカードすら利用しない人が大多数である現状を考えると、国内の流通業は一気に「アマゾン・ゴー」の領域に入りそうもないのである。
弁当や総菜を買うのにアマゾン・ゴーを利用するか
それ以前に流通業というのはドメスティックな産業である。果たしてアマゾン・ゴーはレジ決済がなくて済むからといって、セブン-イレブンの隣にアマゾン・ゴーができたとしたら、わざわざそこにいくかどうかは分からない。もちろん、ナショナルブランドのような商品の質自体が分かっているものならば、アマゾンの店舗で購入するかもしれないが、弁当や総菜はそうはいかないだろう。
事実、これまで食品を扱ったり、嗜好性の強い日用品や一般用医薬品(大衆薬)を扱う流通外資が相次いで日本から撤退した背景には、日本人の嗜好などを見極めきれずに、自国のやり方を押し付けたからにほかならない。
日本の消費者は商品の質や商品政策などを抜きにして、「レジでの決済が不要」という利便性だけでは選択しないとみられる。セブン-イレブン・ジャパンとローソン、ファミリーマートでは日販で10万円も差があるが、それは商品力の差である。アマゾン・ゴーが決済手段で利便性に優れているからといって、それだけでは購買動機にはなりにくいのである。
ただ、アマゾン・ゴー方式の方がコストは少なくて済む。ICタグは一品一品タグを貼付しなければならず、コストが下がったとしてもタグ分については誰かが負担しなければならない。ICタグの活用でレジ人員の削減や、サプライチェーンの効率化で流通の生産性が上がることによって流通側が、そのコストを負担することになれば話は別だが。
現時点では流通を席巻するまでにはならないが…
いまのところ、アマゾン方式もICタグによる決済方法のどちらをみても一長一短がある。現時点ではアマゾン・ゴーが流通を席巻するまでにならないだろう。
しかもアマゾン・ゴーではまだ、解決しなければならない課題は少なくない。
例えば、購買の瞬間をどう判断するかの問題である。様々なイレギュラーなケースが考えられるからだ。子ども連がの子どもに商品をとらせて、自らのバックに収納してしまう場合、これはこの親が購入したのかをどう判断するかなど、曖昧な部分が多いとみられている。
また、現在、スマートな決済方法として米ウォルマート・ストアーズが実用化を進めている「スキャン&ゴー」という方式もある。専用アプリを入れたスマートフォンを活用して、商品のバーコードを消費者がスキャンしてスマホ上で決済する方式だ。これならレジに並ばずに済むが、これとて種々のあい路がある。
レジ方式はスーパーが出現してから連綿と続く、チェーンストアのオーソドックスなスタイル。しかし、国内では人手不足の昨今、流通業の生産性を上げなければならないのは間違いない。この方式を打破する新しい決済手段に移行する日は、そう遠くはなさそうだ。
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