国内の賃貸住宅の新規着工戸数が急増し、世帯数の増減などを加味した潜在需要を2016年以降上回り、供給過剰となる可能性が高いことが、内閣府のリポートで分かった。利用者のニーズに合わない狭小住戸も多いと指摘しており、相続税の節税対策を背景にした賃貸住宅の「建設バブル」の発生に警鐘を鳴らしている。
国内の住宅建設は、14年4月の消費税率8%への引き上げで急減したが、16年以降急速に持ち直している。11月の新設着工戸数は8.5万戸と増税前の駆け込み需要があった3年前並みの水準となった。
けん引役が賃貸住宅だ。日銀のマイナス金利政策を受けた低金利で建設資金が調達しやすくなる中、15年1月の相続税増税後の節税対策として賃貸アパートなどを建設する個人が増加している。16年1〜11月の累計着工戸数は38.4万戸と15年1年分(37.8万戸)を上回り、08年以来の多さとなっている。
内閣府は今回、老朽住宅の更新や世帯数の増減などを考慮した賃貸住宅の潜在需要を試算した。すると、14〜15年は各40万戸前後と実際の着工戸数を上回ったが、少子高齢化の進展で16年以降の潜在需要は35万戸程度で推移するため、着工戸数が潜在需要を上回り続ける可能性があるという。
また、面積別では、「61平方メートル以上」より、「30平方メートル以下」の住宅が急増していると分析。今後増加が見込まれる高齢者は広い賃貸住宅のニーズが高く、狭小住宅の増加は「家賃下落で貸家オーナーに打撃を与える可能性がある」(内閣府担当者)と見ている。
一方、東京都豊島区は04年6月から、30平方メートル未満の住戸を建設する場合、建築主1戸につき50万円を課税する「ワンルームマンション税」を導入。リポートは、12〜15年の間、豊島区以外の東京都区部では狭小住戸が5割以上増加したが、豊島区ではやや減少していることも紹介したうえで、「入居者のニーズに合わせた供給を促す経済政策を工夫すべきだ」と主張している。【小倉祥徳】
◇キーワード【相続税】
死亡した人から不動産や現預金、株式などを譲り受ける際にかかる税金。2015年1月から、富裕層への増税策として、▽課税対象の遺産額から差し引ける「基礎控除」を従来の5000万円から3000万円に引き下げ▽相続する人数に応じた控除額を1人当たり1000万円から600万円に引き下げ▽最高税率を50%から55%に引き上げ−−などを実施した。
相続する土地や建物の評価額は、国土交通省が公表する公示地価や建築費などから算定する。更地より賃貸住宅を建てた方が評価額が下がり、納税額を減らせる可能性がある。国税庁によると、15年の課税対象者は前年比8割増の約10.3万人に増えた。
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