2017年1月30日月曜日

話題の「AI」を巡る最新事情

 昨今、IT業界では「AIArtificial Intelligence:人工知能)」の話題が花盛りだ。ここで言う"AI"とは「人間の行動をアシストするコンピュータプログラム」のようなものだと考えてもらえばいいだろう。

 AIにテキスト入力による文章や音声で呼びかけると、適切な答えが返ってきたり、それに応じたアクションをAIがとることで機器の制御が可能となったりする。あるいは、事前に設定した条件に応じてAIが利用者に自発的に呼びかけてくることもある(時までに家を出ないと本日の目的地に間に合わない、といった注意喚起など)。こうしたアシスタント型のAIサービスは、スマートフォンでの実装も進んでおり、Appleの「Siri」、Googleの「Google Assistant」、Microsoftの「Cortana」などが知られている。

 こうしたAIの中で、最近話題になったのがAmazon.comの「Alexa(アレクサ)」だ。Alexa2015年に米国でデビューし、スピーカー型デバイスの「Amazon Echo(エコー)」とともに提供が開始された。Echoにはスマートフォンのような画面こそないものの、マイクとスピーカーが内蔵されており、利用者がEchoに呼びかけることでAlexaの機能を利用できる。

 スケジュールやニュースのチェック、音楽再生、そして連動が可能な家電の制御など、Alexaでできることもさまざまだ。このAlexaの機能群は「Skill(スキル)」と呼ばれ、Amazon.comからSDK(ソフトウェア開発キット)が公開されており、サードパーティがストアを通じて一般公開できる。同社によれば、現在Alexaには4000近いSkillが提供されており、つまりそれだけ機能の拡張が可能なことを意味する。

 AWSAmazon Web Services)で業界屈指のクラウド戦略を進めるAmazon.comだが、クラウド上に存在してさまざまな対応デバイスを通じて呼び出しが可能なAlexaは、Googleが「Google Home」というEcho類似型デバイスをリリースしたり、MicrosoftCortanaを使って急ピッチでその戦略を追いかけているなど、「AI+クラウド」の台風の目のような存在となりつつある。

 Amazon.com2016年末、同年のホリデーシーズン商戦におけるAmazon Echo型のデバイス製品の販売が、前年比9倍の伸びを見せたと報告して話題になった。まだ立ち上がったばかりの市場のため、9倍とはいっても利用者の総数はそこまで巨大なものではないと思われるが、Alexa対応デバイスの市場が急拡大しつつあることは想像に難くない。このトレンドを端的に示したのが今年1月初旬に米ネバダ州ラスベガスで開催された「CES 2017」で、LG Electronicsをはじめ複数の家電メーカーが、Amazon.comとの提携を発表し、自社スマート家電デバイスでのAlexa対応をアピールしていた。

 Alexaだけでなく、Google Assistantへの同時対応をうたうデバイスも存在しており、必ずしもAmazon.comがスマート家電の世界を支配したわけではない。ただ、CESにおける最新トレンドの中心にいたのは間違いなくAlexaであり、迷走しつつあったスマート家電のみならず、スマートフォンやPCの世界においても1つの方向性を示した意義は大きい。なお、このAlexaの米国での利用状況や最近のトレンドをまとめたBusiness Insiderの記事が面白いので、興味ある方はぜひチェックしてみてほしい。

●AI活用に必要なものとは

 一言でAIといっても、その実現にはさまざまな要素が必要だ。Alexaのような音声対話アシスタントの場合、中でも重要なのが「自然言語解析」である。相手の発言内容を理解し、それに適切な形でより自然な受け答えを行うことがAIには求められる。

 AIの強化手法には「機械学習(Machine Learning)」や「深層学習(Deep Learning)」などがあるが、膨大なデータを集めてコンピュータに関係性を理解させることで、こうした人間に近い言語能力や認識能力を持たせることができるようになる。IBMなどがWatsonで提唱している「Cognitive Computing(認知コンピューティング)」は、この仕組みを開発者がサービスとして利用できるようにしたものだ。

 一方で、こうした仕組みを実際に一般ユーザーが利用できるよう"落とし込む"にあたっては、サービスを提供する事業者からAIへのさらなる「教育」が必要になる。今後多くのAI関連のサービスや商品が市場に出てくることになるが、前出のAlexaのように、土台となるプラットフォームが存在し、そこにSkillのような「個々の用途に最適化されたサービス」が乗っかる形が一般的となるだろう。

 この「自然言語解析」を使った新サービスとして年末年始に話題となったのが「AI記者」だ。2016年末に西日本新聞がAIを使った天気予報に関するニュースを配信したほか、2017125日から、日本経済新聞がAI記者を利用した決算ダイジェストの速報の配信を開始した。「定型のデータを集めて読みやすい形で要約する」というのがAI記者の役割ということで、新聞記者がいますぐに職を失うようなものではないが、今後はこうした定型ニュースやプレスリリースからのストレートニュース起こしのような比較的単純な作業については人力を借りずにある程度の自動化が可能になるとみられている。

 現時点で人力によるカスタマイズが必要な一方で、高度に進化したAIは人間よりも正確に目的を遂行することが可能だ。例えば2016年末には謎の棋士が現れてオンライン囲碁の世界ランカーらを次々と打ち負かしたことが話題となったが、2017年に入ってGoogleは正式にこの棋士が「AlphaGo」という同社が開発したAIプログラムであることを明らかにしている。

 AIにゲームをやらせて人間と勝負するという構図は、かつてIBMWatsonをクイズショウの「Jeopardy」に出演させてアピールするという手法にもみられるが、その力を示すうえで非常に分かりやすい。

 ただ、実際にAIを広く活用するにあたっては「より自然に生活や日々の作業に溶け込む」という点が重要になる。例えばGoogleAI技術の応用で、圧縮された画像を自動補完して高解像度画像に変換する仕組みを用意し、携帯電話ユーザーがより少ない通信容量で写真を楽しむ仕組みを提案している。

 手動の計算では非常に手間と時間がかかるが、必要なデータを大量投入してコンピュータによる判定を行えば、将来的に犯罪の危険度に応じて移動ルートを自動設定したり、狙われやすい駐車場を避けたりといったことも容易になる。こうした判定プログラムの応用で自動保険設定サービスなどの提供も可能になるという、FinTech的な事例も出現しつつある。

 深層学習に必要なプログラミングのアルゴリズムについても、人手を使うよりもコンピュータそのものに任せた方がいいという時代も近いかもしれない。MIT Media Labのレポートによれば、AIが記述したアルゴリズムの方が効率的に学習処理が可能になるという話も出ており、かつてSFの世界での定番ネタとなっていた「機械の能力が人間のそれを上回る」という「シンギュラリティ(Singularity)」の世界はもう間近まで迫っていると感じる。

 このように急速にAIの仕組みが発展したことについて、Googleの共同創業者の1人であるセルゲイ・ブリン氏はBloombergのインタビューで驚きを伝えている。

 ただ、こうしたAIの急速な発展によって人間の職が奪われてしまうのではないかという危惧も少なからずある。筆者が最近の取材で米Bank of Americaの事例を聞いたところによれば、同社ではAI導入によって窓口業務の多くをAIによる自動処理へと移行する一方で、そこでの余剰人員をより高度な作業や対人行動を必要とする作業へと振り分け、最終的に人員の再配置による効率化と成長を計画しているという。似たような話題は米Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏が世界経済フォーラムのダボス会議で語っている。昨今、世界経済の成長率が急速にしぼみつつあるなか、この時代を乗り切るためにも逆にAIが必要になるという考えを説いている。

次の時代を見据えた各社の動き

 当然ながら、ITベンダー各社は過去数年間にわたってAI関連の研究開発投資を続けており、次代のリーダーたるべくすでに競争がスタートしている。2017年に入ってからも話題は絶え間なく供給されており、最近ではMicrosoftが深層学習関連のスタートアップ企業Maluubaを買収したという報道があったほか、カナダのモントリオールにAI専門の研究機関を設けたことが話題になっている。

 Watsonを提供するIBMは、2016年の取得特許が8000件超隣で業界トップとなったことを報告しているが、同時にその分野が主にAIやクラウド方面のものであることにも注目したい。

 Siriというサービスを提供する一方で、AIまわりでは目立った活動があまり見られなかったAppleだが、2016年末には同社としては初のAIに関するホワイトペーパーが公開されたことが話題となった。Forbesの記事中でも触れられているが、秘密主義で知られるAppleはあまり外部に情報を積極的に公開することはない。それが将来の製品開発計画につながるものであればなおさらだ。一方でAIの世界は研究者同士のオープンな交流が推奨されていることもあり、このような形で取り組みの一端が垣間見えた点に注目が集まっている。

 最後にもう1つ興味深い話題がある。"Androidの父"として知られる元Googleのアンディ・ルービン氏は、最近ではデジタルデバイスの開発支援を行うインキュベータ、Playground Globalを設立したことが知られているが、先日Bloombergが報じたところによれば、「AIにフォーカスした"本質的な"携帯電話」の開発をスタートしたという。これがAndroidのようなスマートフォンかは分からないが、これまでの携帯電話の概念を変える新しいタイプのデバイスの開発が進んでいるのかもしれない。

 

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