2018年1月30日火曜日

地球外のウイルスを研究しようという新しい学問「Astrovirology」

宇宙人より先に、宇宙ウイルスを見るのでは?

私たちが別の惑星や月、隕石ではじめて発見する生命の形態は、一般的になんらかの微生物だろうと考えられています。ところで、広大な宇宙で微生物よりもさらに小さなウイルスを発見することなんて、困難を極めることなのかもしれません。地球上ですらまだ乏しい情報量を考えれば、きっとそのはずです。この難しさを打破して地球外生命体の解明をはかるべく、Astrovirology(宇宙ウイルス学)というまったく新しい学問が誕生しました。

地球上には膨大な数のウイルスが存在し、それは生命の起源にもさかのぼります。この星にはほかのどんな生物よりも多くのウイルスが存在(およそ10倍から100倍以上)しており、ほかの惑星にもウイルスが存在するのでは?と考えるのはもっともなこと。しかし科学者たちは「たくさんの遺伝子の容れ物(ウイルスのこと)」やその仕組みについて驚くほどわずかなことしか知らないし、太陽系やその外のどこかにウイルスが存在している可能性についてはなおさら気にも留めていません。困ったことにNASAの2015年「宇宙生物学の戦略」はウイルスについての記述が乏しく、細胞を持つ地球外微生物の探索に完全に集中していました。

科学ジャーナル「Astrobiology」に掲載された、ポートランド州立大学の科学者Kenneth Stedman教授を筆頭にした研究の論文では「これは逃してはならないチャンスであり、ウイルスが銀河系中にわんさか存在する可能性を宇宙生物学者たちは調査すべきだ」と主張しています。そのために、Stedman教授は「Astrovirology」という分野を提案し、科学者たちに地球外のウイルスを見つけるのに必要な戦略とツールを開発しはじめるよう求めています。彼いわく、この提案は宇宙生物学の分野をさらに細分化するというより、ウイルスを宇宙生物学のメインストリームに統合していこうとする試みなんだとか。

多くの人はウイルスとそのほかの微生物とがどのように区別されるのか、そしてこのふたつを区別することがそもそも必要なのかについて疑問に思うかもしれません。そして科学者たちも、この疑問にぶつかっているんです。

Stedman教授は米Gizmodoに対し、「ウイルスの定義はどういうわけか厄介なものです」とし、以下のように語っています。

論文で述べたように、ウイルスとは、そのゲノムが細胞の合成機構を用いて生きた細胞の内部で自己を複製し、ウイルスゲノムをほかの細胞に感染させる特殊な成分の合成を引き起こす核酸の構成要素である存在なんです

教授はこれがあまり「読者にやさしい」定義ではないと認め、もっとシンプルな言いかえを提示してくれました。「ウイルスは自身の遺伝情報を細胞内に入れ、増殖させるようその細胞をプログラムし直すことがきる」とのこと。彼はそれらを、最適な状態のときに自身を増殖させる命令を運ぶことができる「情報伝送する因子」と呼びます。すべてのウイルスには宿主が必要なのは事実だとしたうえで、「『宿主』を種のための土壌と水のような、ウイルスが自己の複製を必要とする特定の環境だと考えたい」と語っています。

……うーん、やっぱりちょっと難しい。つまり、宿主の細胞のなかで自分の遺伝子をコピーし、ほかの細胞にもペーストしていく存在がウイルスってことでしょうか。ザックリいえば、ウイルスの増殖は宿主となる細胞間で行なわれる自動的なコピペというわけですね。

アーティストによる太陽系外惑星TRAPPIST-1fの地表の描写。最近、発見された赤色矮星TRAPPIST-1を公転している惑星で、地球に似ている。

Stedman教授はウイルスそのもの、そして自己を複製するのに必要な状態の種類についてよく知っています。彼は2012年に、熱い酸性湖(つまり、沸騰している酸)でも生存できる、まったく新しい種類のウイルスを発見しています。この発見からは、極限環境でも進化し、生息し、さらには育つことができるウイルスの存在があきらかになりました。見たところ無関係なふたつのウイルス群のDNAとRNAの組み換えから、新たなウイルスゲノムが出現した事例のようです。つまり、ウイルスはもっとも過酷な環境での生息に加えて、断続的に適応する方法を見つけることができる、ということ。それゆえ、ウイルスは地球上での大きな進化過程に関わる可能性が高いとStedman教授は考えています。

ウイルスが驚くほど太古から存在するという間接的な証拠もたくさんあります。しかし直接的な証拠はないので、我々は化石の記録からウイルスの化石化/保存に取り組んでいます

そう、ウイルスが宇宙中に散らばっているというのは丸っきりとんちんかんな考えではないのです。たしかに地球上で見つかるものとは異なる可能性がありますが、それでもウイルスであることには変わりません。Astrovirologyを進めるため、Stedman教授はNASAやほかの宇宙機関に太陽系の惑星(エンケラドゥスとエウロパでしょうね)や月で採取した液体のサンプル内にウイルスがないか見てもらったり、地球と火星の古代からの堆積物のなかにウイルスを探したり、宇宙でウイルスが生き残れるのかを解明するツールを開発するよう求めています。教授はこのように続けます。

探査機に電子顕微鏡を搭載するか、あるいはナノメートルの解像度で原子だけでなく、分子を見つけられる別の顕微鏡的な技術を開発するかして、現在のツールをさらに発展させる必要があります

太陽系のどこかにいるウイルスを見つけたとしても、感染や病気を恐れてパニックになる必要はないし、それがほかの惑星や月でNASAが見つけるであろう最初の生命の兆しになるとStedman教授はいいます。「ウイルスは病原菌として悪者扱いされています。もしほかの惑星でウイルスを見つけたら、それは生命であって、恐れるものではありません」とのこと。最後には「ウイルスは最高!」と締めくくっていますよ。

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