マンション選びは物件ありきなので、気に入った物件に出会った後に、この物件の売主や施工会社は大丈夫か、という心配が生じてきます。とりわけ、マンション事業の主体である売主は、契約内容、物件の性能・品質、アフターサービス、万一の瑕疵について大きな責任がありますので、格別の注意を払う必要があります。
まず、分譲マンション事業の仕組みを知る
たいていの方は、物件がとても気に入ったのであれば、売主会社の信頼性について今ひとつ確信が持てなくても「よく分からないし、まぁ知名度がるから大丈夫だろう」と目をつぶって契約にいたるのが、一般的な傾向です。
信頼できるかどうかは、マンションのモデルルームやパンフレット、不動産会社のホームページを見ても分りません。分譲マンション事業の舞台裏、つまり分譲マンション事業の仕組みの理解ができて初めて、どういうモノサシで信頼度を図るべきかがわかるからです。
そこで、分譲マンション事業の中味を解剖しながら、競争に強い会社は永続性があり、結果として信頼できる不動産会社であるという視点から、強い会社の条件をあげることで、信頼度の高い売主を選ぶポイントについてアドバイスしたいと思います。
マンション事業は誰にでもできる?
マンション事業は、設計事務所やゼネコン、販売会社などに事業の各パーツを外部委託する形で進めることができます。売主は土地を見つけて、購入する資金調達能力さえあれば、とりあえず事業を立ち上げることができるのです。つまり、ノウハウがなくても委託先から教えてもらいA先ェらやれる、というところがこのビジネスの簡単そうなところです。
委託先として代表的な存在が長谷工コーポレーションです。マンションの施工実績が累計で489,106戸の同社は、売主に対して土地持込による特命受注を目指すマンションの設計・施工会社です。同社は、毎年、首都圏、関西圏のマンションの供給戸数の10パーセントから20パーセントを施工しており、傘下に不動産販売会社、マンション管理会社、売買・賃貸の仲介を手掛ける子会社を有しています。
そうした企業活動を通して蓄積してきた、分譲マンション事業についての多角的なノウハウという強みを活かし、新規参入企業に対して分譲マンション事業に必要な業務をグループ企業総出で、丸抱えで受託するのです。
用地さえ取得すれば、あとは外部委託でOK?
新規参入企業とは主に、自社が所有する社宅などの跡地を開発してマンション事業を行う、本業が製造業など不動産分野以外の企業。首都圏の市場に精通していない地方を本拠地とする不動産会社などです。こうした企業に対して、土地情報の提供、事業計画立案、設計・施工、販売企画・受託販売、マンション管理・メンテナンスまで、総合的にサービス・支援する会社が長谷工コーポレーションなのです。
比較的郊外の中規模以上のファミリータイプのマンションで、不動産広告の概要欄の「売主」が不動産専業ではない、または地方の会社で「施工」「設計・管理」長谷工コーポレーション、「販売提携」長谷工アーベストと記載されていると、場合によっては、分譲マンション事業のノウハウがなくて、委託先である長谷工コーポレーションから丸ごと提供してもらっている会社といえかもしれません。
かつて、分譲マンションの供給ランキングの上位に総合商社が多数か顔を出していたことがありました。商社はいわゆる口銭商売をしているわけですが、分譲マンション事業も商社的発想で成り立っているともいえるでしょう。つまり、用地さえ取得すれば、あとはすべて他社へ依存しておくことができる事業だからです。
市況がよければ、素人でもマンション事業は成功する?
時流に乗ればという但し書きはつくものの、誰でもできるのが、この事業の特徴なのです。マンションブームの時に立ち上げれば少々立地条件が悪くても、プランが平凡であっても、また価格が少々割高であっても、あっさり売れてしまうだけに、誰でも容易にできそうに誤解される事業でもあります。
ところが、2008年秋のリーマンショック以降、マンションブームが去り過当競争状態がやってくると、売れるものと、売れないものとの差がはっきりして来ます。そんなときに競争に勝ち、利益を継続的に確保していくことは難しいのです。
最近では、コンスタントにマンション供給ランキングベスト10に入っている商社はなくなってしまいました。また、1990年、2009年ともにベスト10入りしている企業は大京、住友不動産、三井不動産レジデンシャル、コスモスイニシア、穴吹工務店の5社のみです。
全国マンション供給ランキング
そのうち、穴吹工務店は会社更生の手続きをし、コスモスイニシアも事業再生中です。また、2009年3位の藤和不動産も、資本参加を受けた三菱地所に来年(2011年)合併される予定です。このように、マンション分譲事業は、今や、容易な事業ではなくなってきたことを意味します。
永続的に分譲マンション事業を継続するための強い企業に求められるものは何でしょうか。競争に勝つ要因はどこにあるのかを見ていきましょう。この要因は翻って、強い不動産会社を選ぶためのチェックポイントになるのです。
ポイント1.知名度が高い
マンションを購入する方々は、不動産会社の信頼性を見抜けないため、結局のところ、「会社の名前を知っている」、「社名を信じるしかない」といった知名度で、良くも悪くも信頼性を図る傾向にあります。マンションの供給ランキングの上位に長期にわたりありつづける不動産会社は、自ずと知名度は高まってきます。知名度は一朝一夕に高まるものではないので、企業の大きな財産となります。
ところが、新規参入企業や中小不動産会社は経験と実績に乏しいため、認知度の点でハンディキャップを背負うことになります。たまたまマンションブームの真っただ中であったとか、たまたま供給の隙間的市場で需要が旺盛だったという幸運に恵まれない限り、供給が需要を上回る状態で、選別化の傾向が強まると、知名度不足のハンディキャップは大きく販売結果を左右して来るのです。
ただし、知名度より、立地や価格、間取り・設備などのプランのほうが優先されるべきことです。
ポイント2.土地情報の収集力と判断力が高い
条件の良い土地を取得できるかどうかで、マンション事業の成否の80パーセントは決まってしまうと言われます。したがって分譲マンション事業を継続するために最も力を入れるのが、売り地情報網を構築することです。
情報ルートは大別すると、銀行、ゼネコン、設計事務所などの関連業界と不動産仲介業者(ブローカー、信託銀行)ということになります。こうしたところは、日頃の付き合い度合いなどから、良い土地情報は水面下で取引量の多い大手企業などに流れることが多い傾向が見られます。新興企業や中小企業もそれなりに情報を求めて動くものの、大手企業やマンション専業企業が捨てた、条件の良くない土地や高い土地を取得することになり、売れにくい商品を作ってしまうことになるのです。これが販売不振を招き、販売経費と金利負担の増加や値引きによる原価割れなどにつながっていくのです。
中小不動産は、個性的なプランが多い
資金力のある不動産会社に限られることですが、300戸、500戸、1000戸と建てられるような大きな土地に関しては、秘かに情報がもたらされます。大型物件は土地の買い手が少ないので値を抑えられますし、できあがるマンションも多様な共用施設や最新設備など規模を生かした付加価値の高いプランが可能で、販売の成功率が高いのですが、業界内での注目度も高いので、競合相手は少ないものの競争自体は激しいのです。
一方で、資金力のない、新興・中小不動産会社はもっぱら中小規模の土地、悪条件の土地が用地の対象になります。そうしたなか、悪条件の土地を知恵で克服するために、購入者のターゲットを絞り、個性的なプランを開発する中小不動産会社を見かけます。こうした個性的なマンションは少数ではありますが、購入者の高い支持を得ており、大手不動産会社にはできない、中小不動産会社ならではの競争力の高い事業スタイルになるのです。
用地取得には、判断力のスピードが大事
また、例外もありますが、用地情報は同時に複数の企業へ流れていることが多いのです。したがって、早く決断することが求められます。決断に際しては、総戸数を何戸にするか、いくらで売るかなど、事業収支にかかわる検討事項があります。特に、実際に販売される半年〜1年後の不動産市場の予測が迅速かつ的確にできなければ、買いの決断はできません。こうした判断には経験にもとづくある種の勘が必要です。これができなければ、実績の少ない新興企業や供給戸数の少ない中小不動産会社には、条件の良い土地を仕入れるチャンスは到来しません。
そうした背景のなか、頑張る新興・中小不動産会社には、オーナー社長の存在目立ちます。私が良く知っている中小不動会社のオーナー社長は用地情報が入ってくると、何はさておいても、自分で現地へ出かけ、自らの目で確認します。良いと思えばその場で決断を下し、すぐに手付金を支払います。このように、どんな仕事よりも用地取得を最優先し、スピーディに決済するため、この会社は話が早いということが土地情報提供サイドに知れ渡ることになり、良い情報がどんどん集まってくるのです。
ポイント3.商品の差別化で一歩先んじる
マンションの商品企画には、特許のようなものは、ほとんど存在しません。良いものはすぐ真似されて、あっという間に広がります。でも、真似して横並びでは競争に勝つことにはなりません。他社がやらないことを、一歩先んじてやる姿勢が求められます。
長期優良住宅などの高い性能・品質の追求、太陽光発電など省エネに配慮した新しい住宅設備の導入、細部にわたって使い勝手を考えた間取りや収納、住み手のライフスタイルに合わせた個性的な間取り、共用部分や生活サービスに知恵を絞り、採用しているかが、分譲マンション事業の成功につながるのです。
大手不動産会社が手がけるスケールメリットを生かした大規模開発は、比較的話題性の高い開発プランが可能です。一方、新興・中小不動産が手がける小規模開発は派手な共用施設を入れたり、最先端の設備を採用するとコスト高になってしまいます。こうした小規模マンションは、全戸南向きで通風・採光良好、メゾネット、専用庭などで一戸建て感覚のプランを工夫したり、介護・医療サービス付きで高齢になっても安心など、大規模マンションにはできない、個性的なプランで勝負することになります。
商品企画に優れたマンションを開発する不動産会社として参考になるのは、2010年9月に週刊住宅新聞社から発表された、2009年度首都圏優秀マンション表彰です。これは2009年4月から2010年3月までに首都圏で販売実績のあったマンションを、商品企画や市場性など、さまざまな側面から評価したもので、私も審査員をつとめました。最優秀賞、優秀賞を獲得したマンションを手掛ける不動産会社が、商品の差別化で一歩先へ出る企業として、ひとつの目安となるでしょう。
2009年度 首都圏優秀マンション表彰
成熟した、分譲マンション事業
昭和30年代前半に第1号が登場して以来、40年を超える歴史を刻み、累計で300万戸超に達したといわれる分譲マンションも、数度の不況とブームを繰り返し、商品としての内容もめざましい進化を遂げてきました。
さらに、大都市だけではなく、地方の小都市にも建てられるようになって、日本の住宅形態としてはごく一般的なものとして定着してきました。これらを念頭におくと、分譲マンション事業は既に成熟産業としてみる必要があります。
したがって、自動車メーカーが車のエンジン開発からデザインにいたるまで自社に開発部門を設けて絶え間なく研究を行っているように、また、家電メーカーが新しいアイデアの発見や画期的な製品の開発に余念がないのと同じで、マンションデベロッパーも自ら研究開発に傾注しなければ企業の存続が危うくなる時代に入ったわけで、大手デベロッパーはもう既にそうした体制を整え、後発企業を一歩も二歩もリードして事業展開しています。
新興・中小不動産会社においても、独自の商品開発部門や担当者が社内に設けられているかどうかが、強い会社の条件といえるでしょう。
ポイント4.ゼネコンに対する影響力が強い
「良いものを安く」は商売の王道です。分譲マンションなら、安く土地を仕入れ、建築コストをいかに安くするかは永遠の命題として取り組むことになります。
大型工事を繰り返し受注できる可能性のある大手マンションデベロッパーであれば、少々無理を聞いても大手ゼネコンは工事を請け負いますが、中小企業やそれまでの取引実績が少ない新興企業に対しては、ゼネコンも安いコストで請け負うことはしません。
また、マンション工事自体は少なくても、ビル事業部門など他の部門からの工事発注が多い、総合不動産会社はつきあいのあるゼネコンの数も多いため、競争見積もりを実施し、コストを抑えることが可能です。
半面、新興・中小不動産会社は、物件規模も小さいので、工事高としてのスケールメリットも小さく、したがってマンション購入者の安心感に寄与する大手ゼネコン起用が難しいのです。とはいえ、マンション購入者が社名を知っている大手スーパーゼネコンの数は、数えるのに、片手で済むくらいの少数です。知名度にこだわるよりは、長い歴史やマンション建設の豊富な実績を持つゼネコンであれば安心といえるでしょう。
ポイント5.販売力がある
分譲マンション事業を20年以上も持続させてきた大手・中堅企業の場合、自社販売であろうと、外部への委託販売だろうと、販売力は水準以上のものが見られます。高額マンションの場合と大衆マンションの場合、大型マンションの場合と中小型マンションの場合、市況の良い時と悪い時など、さまざまケースに対応できる強みがあります。
一方、新興・中小不動産会社の場合は、販売は外部委託となります。そこで、重要なのは、販社の選定です。販社は無数にあり会社によって持ち味は様々です。物件によって大手販社がかならずしも安心できるとは限りませんし、訪問販売や電話営業主体の、販売が強いとされている販社も手数料が高過ぎたりするものです。
販売力が強い企業 = 競争に強い企業
こうした裏側の事情はなかなか、買い手にはわかりづらいものです。そこで営業力の高さを見極めるポイントは、モデルルームなどの販売現場で、見学に訪れたお客に、型どおりの商品説明や資金計算と申込手続きにかんする説明に終始して△る販売スタッフであれば、販売力が弱く、販売住戸数の15倍以上の見学者を集めないと、即日完売は夢のまた夢となってしまいます。
買い手の不安を解消したり、周辺競合物件と比較して、物件価値の差を明快に説明することで、迷う気持ちを固めてくれる販売スタッフであれば、販売力は高いといえます。立地やプランで売れ行きの8割がたが決まるマンションですが、あとの2割は販売力です。販売力が強い企業は、競争に強い企業です。
ポイント6.市況の変化を読み取る力がある
市況を左右するのは、金利や景気動向など一般の経済情勢に加え、地域の在庫量、需給バランス、価格といった要素です。こうした要素の変化を予想し、市況が悪化して、売れ行きが鈍化したときに、早い段階で対策を講じることができるか否かが鍵になります。
ただいたずらに販売スタッフのお尻をたたくばかりで、ズルズルと時が経過してしまい、広告予算も使いきり、見切り処分を決断したときには、もはや手遅れといった事態を招くようでは、利益がマイナスどころか、企業の存続すら危うい状態になりかねません。
「分譲マンション事業は8勝7敗のビジネス」といわれ、15戦して8勝の勝ち越しで、経営の継続が精いっぱいの利益率が低い事業なのです。市況悪化のときに、早めに見切る賢明さを持った企業だけが、かろうじて生き延びるというのがマンション事業です。
半年、1年先に市場がどう変化するか、需要の傾向はどんな方向になっていくのか、常に研究するマーケティングの部署や担当者がいる企業が強い企業といえるでしょう。
ポイント7.信念を持ったプロジェクトリーダーがいる
マンションデベロッパーと呼ばれる不動産会社の大手には三井不動産レジデンシャルや住友不動産、三菱地所などの財閥系や東急不動産、近鉄不動産などの鉄道会社系などいずれも総合不動産会社を標榜する大企業と大京やコスモスイニシアといった専業デベロッパー、伊藤忠都市開発などの商社および商社系業者などが含まれます。
これら大手は資金力があり、大型物件を開発する能力が備わっているとともに、年間の供給量は何千戸にもなります。これらの大手企業は長年培ってきたマンション開発のためのノウハウがあると考えられますし、事実それを駆使して毎年大量の新規供給を継続しているのです。
しかし、大企業であっても、ひとつのプロジェクトに開発担当として関わるスタッフはせいぜい2人〜3人です。担当者と課長の5人だけでプロジェクトを立ち上げていくケースも実は少なくありません。担当者の仕事は用地の仕入れに始まって、商品企画、ゼネコン選定、工事費のネゴ、近隣折衝、価格決定、販売企画など多岐にわたります。企業によっては、用地仕入れと商品企画を分離していたり、ネゴ(入札や金額の調整)は建設部へ一任するとか、販売企画は営業部まかせ、もしくは系列販社まかせというケースもあります。
このように他セクションや外部ブレーンなどを含めても数名で何十億円ものプロジェクトは推進されます。このように1つのマンションプロジェクトが少数のスタッフで推進される点は、大企業も中小企業も大差ありません。違いは、そのチーム数の違いと見ることができます。
ただし、プロジェクトの失敗を未然に防ぐために、大企業では最小単位のチームの上に部長、本部長といったリーダーや取締役を置き、責任体制が設けられています。この体制は合議制、集団指導体制でもあり、責任の所在をあいまいにしてしまう懸念があります。ある意味、一人のリーダーの信念に基づいて進めたほうが成功の確率が高いという側面を持ちます。
マンション事業が中小企業型ビジネスと言われる所以
中小企業では、このリーダーがしばしばオーナー社長であったりします。オーナー社長自らが、ひとつずつプロジェクトの細部にまで口を出し、リードしていくのです。強い信念に基づき、独断と偏見でも頑固に信じて実行したほうが上手くいくケースも見られます。オーナー社長は全人生と全財産をかけて取り組むため失敗が少ないとも言われています。そういった面から分譲マンション事業は一種の中小企業型ビジネスといえるでしょう。
よく、マンションのモデルルームには、「私がプロジェクトリーダーです」と称して顔写真が貼られているのを見かけます。できれば、販売担当者だけではなく、こうしたリーダーから自分が手がけたプロジェクトの思いを話してもらい、信頼度をはかるための判断材料とするのが、より良い方法だと考えます。
7つのチェックポイントで信頼性を見極める
以上、信頼度の高い企業は競争に強い会社という観点から、7つのチェックポイントをあげてみました。これらのチェックポイントは、いずれも、モデルルームの展示パネルやパンフレットには出てこないものばかりです。販売担当者に突っ込んだ質問をしない限り、返ってこない回答ばかりです。でも遠慮しないで質問しましょう。
こちらの質問への対応で、その企業が信頼できるか否かが、ある程度判断できると思います。もし、きちんと回答してくれない場合は、信頼性が今一つの企業かもしれません。マンションは高い買い物です。勇気をもって質問しましょう。
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