食事:インドの影響も強い地元料理
海外生活において、何よりも重要なのはまず食生活だろう。地元のミャンマー料理は、インドやバングラディッシュが近いこともあり、他の東南アジアの国々と比べてその影響が色濃い。つまり、主食はカレー文化だ。とはいえ、味付けは甘口で脂っぽい。エビや肉類などが具材に使用される。味への評価は賛否の分かれるところだ。
外国人向けの比較的高級なミャンマー料理店は日本人の口にも合うような味付けだが、地元住民の通う店は苦手な人も。一方、外国食レストランでは、中華料理店は散見されるものの、「日本食は美味しい店もあるが、数が少ない」(商社マン)という。日本からの駐在員や出張者も増えているだけに、ここは日本の外食企業などに頑張ってもらいたいところだ。
住居:供給足りず当面は高騰の傾向
続いて住居。足元では相当厳しい。日本だけでなく、韓国や欧米の企業関係者らがミャンマーに殺到し、供給がまったく間に合っていないことから、ホテルや不動産の価格がこの1年ほどで数倍に高騰しているためだ。ヤンゴンの場合、最低限の条件が揃った「それなりの」ホテルの場合、1泊200〜300ドルと、お隣のタイの首都、バンコクと比べれば3倍ほどの高水準だ。
ちなみに筆者も日本でのネット予約段階では1泊150ドルと表示されていたものが、いざ現地に行ってみると、277ドルを請求されて驚愕した。政府はホテルに対して、一泊150ドルに抑えるような指示を出しているが、実態は伴っていない。この傾向は2〜3年は続くのではないかと現地では噂される。10月からミャンマーは乾期に入り、これからが観光シーズン真っ盛り。来年2月は既にどこのホテルも満室だという噂も聞いた。
アパートなど不動産も同様に高騰しており、「値段の問題もあるが、そもそも物件が少なく見つからない」という声もあった。「今この国で不動産ビジネスをすれば、相当儲かる」との意見すらあるほどで、現地駐在の頭痛のタネだ。日本からの出張の際は、ビザ取得と同時に、ホテル予約は計画的に済ませる必要がある。
電気:停電は日常茶飯事
ホテルでエレベーターのドアが開く瞬間、突然周囲が真っ暗になり、エレベーターのドアも半開きのまま。停電は大型ホテルでも当たり前のように起こる。帰国の途に就く空港でも、いきなり停電が起こった。ミャンマーの電力事情は厳しい。
電力は石炭火力や水力に頼っているが、軍事政権時代の経済制裁の中で、メンテナンスが生き届かず、発電所の老朽化が深刻なためだ。その上、地方などでは送電線から勝手に電力を盗む「盗電」や、少数民族による電線の寸断なども起こるという。ある日系の縫製工場では、不安定な電力への対応策として、自家発電を導入しているが、いざ使用すると燃料代がバカにならないそうだ。
通信:脆弱かつ不安定
通信網も電力同様、脆弱で不安定であることが否めない。固定のネット回線も大容量の通信がしにくく、重いサイトを開いている途中に通信が遮断されてしまうこともあった。とはいえ、それでは業務にならないため、商社のオフィスでは通信回線を強化するために特別な工事を施しているという。
携帯電話も、筆者はNTTドコモとソフトバンクの機種を持ちこんだが、こちらも不安定。データローミングはできず、ショートメールは受信できても送信できないといった状況に遭遇した。
交通:タクシーは多いが乗り心地は…
街中には、相当年季の入った日本車や安価な中国車のタクシーが数多く走っている。料金メーターは付いておらず、値段もざっくりとした交渉が必要だ。日本の感覚で言えば、初乗り200円前後といったところだろうか。ただし、クルマが古い、ないし安っぽいことに加え、道路のコンクリートはボロボロで、乗り心地は良くない。
電車は発達していないため、ヤンゴンから首都ネピドーに移動する場合、飛行機か自動車を使用することになるが、自動車の場合は4〜5時間の悪路走行となるため、覚悟がいるそうだ。
ちなみに日本からは、これまではバンコクやシンガポールでの乗り継ぎが必要になったが、10月からは成田空港—ヤンゴン間の直通便を全日本空輸が就航させた。ただし、当面は週3往復のビジネスクラスのみとなる。
金融:ほぼ現金しか使えない
これも経済制裁の影響で、ミャンマーの金融機関は貧弱と言わざるを得ない。ある商社マンは日本からの送金を受け取るために、地元の有力銀行に行ったところ、かなりの待ち時間を要しただけでなく、行員が「大福帳」のような帳簿に記入し始めて驚いたという。
日常生活では、原則としてほぼ現金しか使用できない。クレジットカードは一部ホテルが対応している。無論、カードによる現金の引き出しもできないので、出張の際はそれなりの額の現金を持ち込む必要がある。ちなみに、現地通貨は「チャット」だが、信用が低く、むしろ地元の商店やタクシーでは米ドルが歓迎される。経済制裁を課していた国の通貨が歓迎されるとは、皮肉な話である。
治安:日本よりもいいとの声も
ミャンマーは近隣国の中でも、圧倒的に安全だと言われる。敬虔な仏教国であるためか、殺人や強盗などの凶悪事件の発生数は少ないという。例えば、金融機関を信用できないため、ミャンマー人は皆、ドル紙幣を「タンス預金」しているが、それでも強盗は少ないとある商社マンが教えてくれた。「昨今の日本よりも治安がいいのでは」という声すらあった。
もっとも、過去には日本人が殺害される事件もあり、どの国でも犯罪は起こってしまうもの。当然、油断してもいいわけではないだろう。
国民性:優しく真面目で親日的
ミャンマーの国民性は、商社マンに限らず、一度行った人ならば誰もが口をそろえる。「優しく真面目で親日的」と。現地の雰囲気を味わおうと、ヤンゴン市内の市場に出向いてみると、地元の青年が日本語で声をかけてきた。日本語学校に通うと言う彼は、ひとしきり市場を案内してくれた。最後にチップを要求されるのかと勘ぐっていたが、それすらなく「タダで日本語の勉強ができた。ありがとう」と言って去って行った。
これがすべてを物語るわけではないだろうが、皆がにこやかで親切。「微笑みの国・タイ」顔負けだ。娯楽が少ない面もあるが、休日になるとミャンマー人は弁当を持ち、家族で近所の仏教施設パゴダに出かけ、半日をそこで過ごす。こうした信心深さも国民性と密接につながっているのだろう。
また、街中では朝から昼過ぎにかけて、清掃員が熱心にゴミ拾いや掃除をしている。そのため、建物や道路は老朽化が激しいが、街は総じて清潔だ。かつては東南アジア最大の文明国であった名残か、識字率も極めて高く、文化水準も高い。「人の面で嫌な思いをしないから、皆またミャンマーに来たがる」と、ある商社マンが解説してくれた。
食事 | ○ |
---|---|
住居 | × |
電気 | × |
通信 | △ |
交通 | △ |
金融 | × |
治安 | ◎ |
国民性 | ◎ |
結論:魅力的ではあるが、生活は便利ではない
結論として、ミャンマー(特にヤンゴン周辺)は魅力ある国ではあるが、東南アジアの中でも有数の貧困国であるため、インフラの整備が遅れている。生活するには不便な面も多い。現地での生活、出張にはそれなりの覚悟が要りそうだ。
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