2012年11月20日火曜日

レアアース安定確保へマレーシアで“ひと騒動” 日本が作った30年前の遠因

 マレーシア東部パハン州で、豪資源会社のライナスが建設中のレアアース(希土類)の分離・精製工場について、地元住民らが操業差し止めを求めていた裁判で、同州のクアンタン高等裁判所は8日、反対派の訴えを退ける判断を示した。この裁判の結果には、日本でも胸をなで下ろした人は多いに違いない。何しろ、ライナスの工場は、レアアースの採掘・精製をほぼ一手に納める中国以外で初めてとなる大型精製工場のうえ、生産されたレアアースの大半は日本に輸出されるからだ。

日系は過去に撤退

 そもそも、今回のライナスの工場をめぐる騒動の原因は、事前に地元への十分な説明が行われなかったことにあるが、遠因は日本が作ったものでもある。

 1980年代初め、三菱化成(当時)は、現地資本と合弁で、クアラルンプールの北イポーにあるブキメラ工業団地に精製工場を設立し、日本向けのレアアース生産を始めた。プロジェクトはマレーシア政府が主導したもので、日本政府も積極支援したが、残土から放射性物質のトリウムが検出され、周辺住民から健康被害の訴えが出される事態となり、操業停止を求める訴えが起こされた。

 その後、廃棄物の保管庫などが整備され、93年には最高裁で操業を認める判決が下されたが、三菱化成は翌年に事業を断念し、工場を閉鎖した。

 実際は廃棄物と健康被害の直接の関係は立証されなかったが、今回のライナスへの反対運動は、イポーでの問題がなければ、これほど大きくならなかったかもしれない。

 そもそもライナスの新工場で精製されるレアアースは、三菱化成のものとは種類が異なる。このため、精製過程で放射性物質が生成されないことは、マレーシア政府の依頼を受けた国際原子力機関(IAEA)の検査でも明らかになっている。

 にもかかわらず、これほどの騒ぎになったのは、マレーシア政府自身にも問題があるからだ。ライナスを積極的に誘致し、さらに三菱化成の例があるにもかかわらず、住民への事前の説明を十分に行っておらず、IAEAの検査も、住民が反対運動を始め、騒ぎが大きくなって初めて行うなど、すべてが後手後手に回っている。

経産相が強気発言

 これに加えて、ライナスの工場建設地がナジブ首相の地元という"不幸"が重なった。マレーシア政界は、来年夏の議員の任期切れを前に、解散・総選挙がいつあっても不思議でない状況。しかも、次の選挙ではナジブ氏のライバル、アンワル・イブラヒム元副首相率いる野党連合が大きく票を伸ばし、政権交代すらあり得るとされるだけに、どちらも国民の支持を得るために躍起になっている。

 そうしたなかで起きたライナスの問題だけに、野党側にとっては絶好の攻撃材料となったわけだ。実際、反対派デモには、地元の人々や環境団体のメンバーに加え、アンワル氏はじめ多くの野党議員が参加している。

 地元メディアによると、今回の高裁判決にも反対派は納得せず、反対運動を続け、最高裁に上告する考えだ。

 日本は、レアアースをめぐり、中国が「禁輸措置」をとったことに対抗、輸入先の多角化をはかってきた。枝野幸男経済産業相は12日の衆院予算委員会で、レアアースは「来年半ば以降、国内需要量の5割程度を中国以外から確保できる」と述べたが、そのなかで重要な輸入先と位置づけるのがまさにマレーシアなのだ。

 政府がレアアースの安定確保を唱えるのなら、今回のライナスの問題でも、地元住民の不安を解消するため、積極的にマレーシア側に協力する姿勢を示すべきだ。少なくともマレーシア騒動の責任の一端が、日本にあるのは間違いないのだから。

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