国際通貨基金(IMF)は10月1日付で、加盟国に配る特別引き出し権(SDR)の新たな構成通貨に中国の通貨、人民元を加える。SDRの現在の構成通貨はドル、ユーロ、円、英ポンドの4通貨。中国経済の急成長を背景に、人民元も国際主要通貨の「お墨付き」を得ることになる。
「我々はSDRの共同研究を拡大していく」。中国の習近平国家主席は中国・杭州で4〜5日にあった主要20カ国・地域(G20)首脳会議の閉幕式で、SDRなど国際通貨体制の強化に向け中国が主体的な役割を果たしていく決意を示した。
中国はIMFなどでの発言権が米国など先進国に集中し、中国の影響力が経済規模に比べて限定したものにとどまっている状況に不満を持ってきた。「責任ある大国」を掲げる中国にとって人民元のSDR採用は、国際経済における中国の存在感を確立する「悲願」と言える。
SDRの構成比率は、貿易や金融取引でどの程度、その通貨が使用されているかを基に算出される。人民元の採用を決めた昨年11月末のIMFの発表によると、人民元の構成比率は、円(8.33%)や英ポンド(8.09%)を上回る10.92%となり、ドル(41.73%)、ユーロ(30.93%)に次ぐ3位となる見込みだ。
国際銀行間通信協会(SWIFT)の今年7月のデータでは、人民元を取り扱う金融機関は世界で1800を超え、1年前に比べ12%増えた。中国は通貨危機の際などに相手国に人民元を融通する通貨スワップを30カ国以上と締結、アジアやアフリカの新興国には人民元建てで資金援助するなど「人民元の国際化を推進してきた」(中国人民銀行)。
しかし、人民元には「国際通貨」としての課題も山積している。SDRの構成通貨採用は「自由に取引できる」ことが条件になる。しかし、人民元は人民銀が毎朝発表する「基準値」の一定の範囲内でしか取引が認められていない。中国の金融機関が人民元をドルなど外貨に換金する際には当局の厳しいチェックを受ける必要がある。市場の自由な取引を許せば、人民元相場の急激な変動や、中国からの資本流出が起きかねない、と当局が懸念しているためだ。
こうした中、IMFや米国が人民元のSDR採用を認めた背景には、独自の金融秩序の確立を狙う中国を、既存の国際金融システムに引き込み、為替、金融改革を促す狙いがある。
昨年末まで米大統領副補佐官(国際経済担当)を務めたキャロライン・アトキンソン氏は23日にワシントンでの討論会で「人民元のSDR採用は、中国が国際金融システムに対する責任を受け入れるということだ」と指摘。「中国は市場開放や為替制度の透明化を進める義務を負った」と強調した。
【ことば】SDR
Special Drawing Rights(特別引き出し権)の略で、国際通貨基金(IMF)加盟国が外貨不足に陥った際、外貨を引き出せる権利のこと。加盟国にはIMFへの出資比率に応じてSDRが割り当てられており、外貨が不足した時は配分されたSDRを他の加盟国に渡し、米ドルなどを融通してもらう。現在の構成通貨は米ドルのほか、欧州のユーロ、日本円、英ポンドの計4通貨。10月からは中国の人民元が加わり5通貨となる。構成通貨となるためには(1)貿易額が多い(2)自由に取引できる−−の二つの条件を満たす必要があり、SDR採用は、世界で広く使用されている国際主要通貨として、世界的な信認を得たことを意味する。
[PR] おすすめ情報
0 件のコメント:
コメントを投稿