2012年10月2日火曜日

不動産活況に沸くクアラルンプール

 アジア主要都市の「中間層(世帯年間可処分所得500034999米ドル)」以上消費者の熱い消費意欲を探った、日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」(以下、本調査)において、クアラルンプール(注:隣接州であるスランゴール州を含む)は住宅への投資が最も活発であるという結果が明らかになった(図表1)。

住宅への投資が過熱するクアラルンプール

 今回、調査対象8都市中最高の消費意欲を示す「住宅」分野を中心にクアラルンプールの消費実態を紹介したい。

出所:日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」

 マレーシア国家不動産情報センター(NAPIC)によると、クアラルンプールの不動産価格は2008年から2011年の4年間に23%上昇した。マレーシア全国では14%の上昇であり、全国平均に比べて9ポイント高い上昇幅を記録したことになる。消費者物価指数は同期間で6%程度の上昇にとどまっているため、住宅需要の増加によって住宅価格の上昇が引き起こされているといえる。

 価格上昇のさなかにあっても、クアラルンプール市民の住宅購入意向は高い。本調査によると、「あなたは今後、居住用の住宅を購入する予定がありますか。」という質問に対し、「3年以内に住宅の購入を予定している」と回答した割合が31%に達した。これは、調査対象都市のうち、ムンバイ(58%)に次ぐ数字である。

 一方で、マレーシアの不動産市場は「バブル」状況にあるのではないかという指摘もある。確かに、クアラルンプール中心部やペナン島等の一部のリゾート地域の高級物件では、過去5年間で20%以上の価格上昇がみられた物件も存在する。本調査結果において、「投資用住宅の5年以内購入意向」が調査対象都市ではジャカルタに次いで高い値(39%)となっているのも、その傾向を裏付けているといえるため、価格トレンドの変化には一定の注意が必要である。

 ただし、高い価格上昇を示す物件は高級物件に限られている点、都市部への人口流入・所得上昇・生産年齢人口の増加により都市部の住宅需要が拡大している点を考えると、特に中間層向けの住宅については、トレンドが急激に変化する可能性は低いと考える。

 とはいえ、住宅購入にかかる費用は課題になっている。本調査において「あなたが住宅を購入する(あるいは購入した)際に、最も重視することは何ですか。」と聞いた質問では、住宅購入意向者のうち29%が「住宅価格」であると回答している。これは、調査対象の8都市のうち最も高い値であった(次いでシンガポール=28%、東京=22%)。

中間層には郊外の戸建住宅が人気

 上記の状況のもとで、クアラルンプールの中間所得層は、とりわけ高い価格上昇を示す都市中心部を避けるように、郊外へと住居を移すことを検討しているようだ。現在および将来の居住を希望する地域を聞いた質問では、現在は30%が郊外に居住しているが、将来は42%が郊外に居住したいと回答している。居住を希望する住宅のタイプにも変化が現れており、現在は50%が戸建住宅に居住しているが、将来は75%が戸建住宅に居住したいと回答している(図表2)。

 クアラルンプールの消費者は、新たな居住地として「郊外にある戸建住宅」を考える層が多いことがわかった。

図表2 現在の住まいと今後希望する住まいの比較

出所:日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」

進む中間層向けの政府支援プログラム

 マレーシア政府も、彼らの住宅購入を後押しする政策を提示している。その1つが、住宅ローンプログラムである「マイ・ファースト・ホーム・スキーム」だ。首都圏で若年層のマイホーム取得を支援するために、20113月に導入された。35歳以下かつ月収3000リンギット(約1000米ドル)以下の層を対象に、最初の持ち家取得費用を30年間の長期ローン(金利4.3%)で100%融資している。対象地域はサイバージャヤ、プトラジャヤなどクアラルンプールに隣接する7地域であり、政府としても郊外居住を後押ししていることがわかる。

活況を呈するクアラルンプール郊外での住宅販売

 旺盛な住宅購入意向と政府支援に後押しされ、クアラルンプール郊外の住宅販売は増加の一途をたどっている。スランゴール州における2010年の戸建て住宅販売戸数は約3万戸であり、クアラルンプール市内の4400戸を大きく引き離している。一方、同年におけるコンドミニアム/アパートの販売戸数はスランゴール州が14000戸に対しクアラルンプール市内が11000戸であり、郊外の戸建て住宅、都市部の集合住宅というすみ分けが明確になってきている。

 同国の不動産業者は、需要に対応する形で郊外の住宅開発を進めている。例えば不動産開発のローヤット・グループでは、クアラルンプール郊外に1000万平方メートル規模のニュータウン開発を実施しており、将来的には5万人の人々が居住する計画である。このような開発が各地で進められているため、需要と供給のバランスが保たれ、特に中間所得層向けの住宅については価格が大幅に上昇することなく、安定的な住宅の提供が行われる可能性が高い。

クアラルンプール市内の中級分譲集合住宅(写真:日本総研、以下同)

「エコ」を軸に進出する日系企業

 日系企業も同国の住宅市場における取り組みを拡大している。最も活発に展開しようとしているのが、パナソニックグループだ。関連会社のパナホームでは、現在、クアラルンプールにモデルハウスの建設を進めている。本年10月に完成予定のこのモデルハウスでは、太陽光パネルの設置等を通じて、省エネ技術をPRする計画である。また、パナソニック・マレーシアもスランゴール州に「エコネーション・センター」を開設、太陽光発電や省エネ家電のショールームとして販売を拡大させる計画だ。

 パナソニックのほかにも、YKK APが現地建材展において採光性の高い大型アルミサッシや窓を展示するなど、各社が顧客の開拓に力を注いでいる。

省エネ住宅・設備へも期待

 家庭部門の省エネルギー対策は、マレーシア政府も注目している。同国政府は、2020年にCO2排出量を05年比で40%削減する目標を掲げており、省エネ対策が急務である。持続可能エネルギー開発庁(SEDA)は、現在、一般家庭へ太陽光発電パネル設置費用を融資するための枠組みづくりを進めており、今後の発表が待たれるところである。日系企業各社の取り組みは政府の意図とも合致したものであり、今後の事業拡大が期待される。

マレーシア特有の住宅ニーズへの対応

 ただし、太陽光発電や省エネ家電などを付けただけで住宅が魅力的なものになるわけではない。現地で住宅購入希望者にヒアリングした結果によると、天井高、方角(風水)、寝室数などに特有の嗜好がみられた。例えば、「中高級価格帯の住宅においては、天井の高さは最低でも3メートルは必要。4メートルが好まれる場合もある」「『南北向き』の住宅が好まれる。中華系でなくとも、転売時を考慮し「風水」の要素を考慮する場合も多い」「ムスリム家庭では一般に10代になると男児と女児にそれぞれ別々の部屋を与えるため、最低でも3つ寝室が必要」などのコメントがあった。

 このような個別の事情に配慮し、ターゲットを明確にした上で住居の作りこみをしていくことが重要である。

クアラルンプール郊外の戸建住宅分譲地

変わるライフスタイル・増える消費財購入

 住居の変化に伴い考えられるのが、中間層のライフスタイル(暮らし方、住まい方)の変化である。クアラルンプール周辺では、プトラジャヤへの首都機能移転等の大規模プロジェクトに伴い、交通インフラの整備が進められている。この状況下で人口の郊外移転および居住スペースの拡大が進むと、自家用車や新たな家電製品の購入など、消費がいっそう拡大することが考えられる。

 実際、本調査においても、クアラルンプール市民の5年以内の自動車購入意向は54%と、上海(68%)、ジャカルタ(63%)に次いで高い。また、自動車非所有世帯に限定すると、5年以内の購入意向は72%となっており、これは調査8都市の中で最も高い値である(東京は8都市中最低の20%)(図表3)。さらに、薄型TV5年以内の購入意向をみても、39%の世帯が購入を考えていると回答しており、これは上海(40%)に次いで高い水準である。

 所得の上昇およびライフスタイルの変化に伴い、これまで必要としなかったあるいは手が届かなかった消費財に手を伸ばしつつあるクアラルンプールの消費者像が透けてみえよう。

図表3 所有の有無別:自動車の5年以内購入意向

出所:日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」

ライフスタイル提案型の現地進出を

 住宅の購入・居住地の移転は、新たなライフスタイルの構築に他ならない。消費者にとって、住まいを変えることはライフスタイルそのものを変えることにつながる。実際に、現地の大手デベロッパーは、居住用住宅、商業施設、ホテル、アミューズメント施設、大学等を敷地内に含んだ複合的な開発を行い、消費者の支持を集めている。

 「住宅」「太陽光発電設備」「自動車」「薄型TV」等、それぞれを単一の商材として販売するのではなく、暮らし方・住まい方の変化を念頭に置き、新たなライフスタイルのあり方を消費者に提案することが、販売機会の拡大につながるだろう。

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