私たちが暮らす地上世界は、人工衛星や航空機などで上空から頻繁に撮影されている。このうち夜間や悪天候時は、レーダーでのモノクロ撮影に限られていたが、近年これをカラー化する世界初の技術が日本で生まれた。7月上旬に大きな被害を出した西日本豪雨の被災地も明瞭に浮かび上がり、安全保障や災害対応など多様な場面での活用が期待されている。
上空からの撮影は、リモートセンシング(遠隔探査)と呼ばれる活動の一つだ。日本では、事実上の偵察衛星である情報収集衛星や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち2号」などの活動が知られる。
撮影方法は、デジタルカメラのような光学センサーと、電波を用いる合成開口レーダー(SAR)の2種類に大別される。光学センサーの場合、撮影は昼間の晴天時に限られるが画像はカラーだ。これに対し、合成開口レーダーは夜間や悪天候時でも撮影できるものの、画像はモノクロに限られていた。例えるなら昔の白黒写真のようなもので、利用者からは「地上の状況が分かりにくい」といった声が出ていた。
そこで、一般財団法人リモート・センシング技術センター(東京都港区)の古田竜一グループリーダーは、合成開口レーダーで取得したモノクロ画像をカラー化する技術の開発に取り組んだ。この努力は実を結び、2013年に世界で初めて成功。すぐに特許を出願し、今年7月に登録された。
カラー化の作業に必要な時間は、最終的な調整を含めて1時間程度。仕上がりは光学センサーで撮影したカラー画像と遜色なく、分解能もそのままだ。
モノクロ画像はピクセル(画素)という無数の細かい粒によって構成されている。古田氏によると、個々のピクセルには濃淡があり、カラー化の作業では本来の色を知りたいピクセルごとに、周辺のピクセルとの濃淡の差を比較。これを繰り返すことで全体のカラーが浮かび上がるという。
7月の西日本豪雨では、まだ雨が降り続いている7日午前0時5分ごろ、深刻な被害を受けた岡山県倉敷市真備町付近を、だいち2号が合成開口レーダーで撮影した。その画像をカラー化したところ、自然豊かな地域を南北に流れる高梁川や、東西に流れる小田川に沿って、既に市街地が浸水している様子が明瞭に浮かび上がった。分解能は3メートルだ。
古田氏は「今後は色を識別する精度などをレベルアップさせたい。カラー化により、新たな解析手法が生まれることも期待している」と話す。
時間や天候に左右されず地上を監視できる合成開口レーダーは、情報収集衛星に加えて無人航空機にも搭載され、安全保障分野などでは欠かせない存在だ。
特に、防衛省が2021年度の導入を目指す米ノースロップ・グラマン社の「グローバルホーク」や、海上保安庁などが関心を示している米ジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ社の「ガーディアン」などの大型機がよく知られる。
これらの最高高度は、グローバルホークが約2万メートル、ガーディアンは約1万3700メートルで、大雨を降らす雲よりも上を飛ぶことも可能だ。
気象庁気象研究所の津口裕茂主任研究官によると、西日本豪雨では激しい大雨をもたらす現象である「線状降水帯」が生じたが、もとになる積乱雲の高さは1万5000メートルに達した地域もあったという。
ただ、線状降水帯が生じた地域は一部に限られた。例えば先の真備町では確認されず、雨雲の高度は1万メートルを超えない程度だったとみられている。
無人航空機が雨雲の上を飛び続けながら、大雨に見舞われている地上の状況を逐次撮影し、画像をリアルタイムで災害対策本部などに届けることは「技術的に可能」(ジェネラル社関係者)とのことだ。この画像がカラー化されていれば、迅速かつ的確な災害対応により役立つだろう。
現状では、合成開口レーダーを用いた雲の上からの撮影は人工衛星に依存するところが大きく、衛星の数も少ない。そのため、カラー化の需要は限定的だが、これから衛星の増加や無人航空機の活用などで撮影の機会が多くなれば、この技術もより注目されていくのではないだろうか。
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