2012年10月31日水曜日

中国系移民、最も多い国はインドネシア=日本は52万人で14位—豪州華字紙

2012年10月29日、オーストラリアの華字紙・澳洲日報は世界各国の人口統計をもとに、中国系移民の分布を調査した結果を発表した。中国系移民が最も多い国は767万人を擁するインドネシアだった。

2011年のデータを基に割り出した結果、中国により近いアジア諸国に中国系移民が多いことが分かったが、米国・カナダ・豪州の3国にも多い。以下は国別の上位15位。

1位・インドネシア—767万人

2位・タイ—706万人

3位・マレーシア—639万人

4位・米国—346万人

5位・シンガポール—279万人

6位・カナダ—136.4万人

7位・ペルー—130万人

8位・ベトナム—126万人

9位・フィリピン—115万人

10位・ミャンマー—110万人

11位・ロシア—100万人

12位・韓国—70万人

13位・豪州—69万人

14位・日本—52万人

15位・カンボジア—34万人

2012年10月11日木曜日

日本人にとって快適なマレーシアライフ

 では、実際に現地で駐在員として生活するにはマレーシアはどのような国か。日本人にとってマレーシアは住み心地のよい国といわれるが、実際のところはどうなのか、現地の娯楽なども含めてみてみよう。

 首都クアラルンプールでの生活は大変充実しており、日本人の人口も多く、日本人とのつき合いには事欠かない。日本人学校・ESL(英語を母国語としない人のための英語)クラス付設のインターナショナルスクールもあるため、家族帯同での生活も問題ないだろう。公共交通機関が充実していないため、車がないと不便な面はあるが、日本と同じ左側通行であり、アジアの中では運転が穏やかな方であるため、自分で運転して通勤する日本人も少なくない。

 食事については、イスラム国家でありながら豚肉やお酒も比較的自由に楽しめる上、マレー系、中華系、インド系、それぞれの生活習慣が融合した日本ではなかなか味わえないマレーシア独自の料理に満ち溢れており、毎日が新しい食べ物との出会いである。米や麺が主食で、全般的にマイルドな味付けであるため、日本人の口にも合う料理が多い。

 マレーシアの物価は日本の3分の1と言われるが、筆者の感覚では、食事に限って言えばさらに安い。ホーカーフード(屋台料理)B級グルメ探索やどっさりと積まれたドリアンを売る店の脇に座り、屋台でドリアンを食べるというのもマレーシアならではの贅沢だ。現地料理に飽きても、日本食レストラン・スーパーでの日本食材が充実しているため、日本食が恋しくなるということもないだろう。


イスラム教国だが、町のスーパーではアルコールが売られている

どっさり積まれたドリアン。独特で強烈な匂いのため、現地の人は店の横のテーブルでその場で割って食べる
 都会の喧騒に飽きたら、旅行がおすすめだ。マレー半島東海岸やコナキタバル周辺エリアではビーチと珊瑚礁、ボルネオ島各地の国立公園ではジャングルトレッキングや野生動物ウォッチングなど大自然アドベンチャー、世界トップクラスの美しい海と山の自然を同時に有し、且つエアアジアのお膝元というだけあり、それら各地へのアクセスも良い。

 中でも、各種テーマパークの建設が予定されているジョホール州は、家族連れには最適な場所だ。今年9月に「レゴランド」がオープンしたばかりだが、11月には「プテリハーバー・ファミリーテーマパーク」という「サンリオ・ハローキティタウン」、「機関車トーマス」などを含む複合テーマパークも開園する。数年以内に、海洋テーマパーク、エコツーリズムリゾートの開園が予定されており、子どもだけでなく、大人も楽しめるだろう。

成功のポイントは国民性の理解

 これまでマレーシアの活用パターンについて述べてきたが、マレーシアで成功するためのポイントをもう1つだけ挙げておきたい。それは、他国に進出する上では当たり前の視点だが、「マレーシアの国民性を理解すること」である。

 筆者が以前、ASEAN各国の消費者の購買行動を調べたとき、「ブランドに対する忠誠心が薄く、ほとんどの消費行動を商品の必要性と価格の妥当性によって判断するという傾向」が、ASEAN各国の中で最も顕著に表れたのがマレーシアだった。中華系マレーシア人の知人に言わせると、これはマレー系の特徴とのことだが、いずれにせよ彼らの多くは日本製品のブランドにではなく、必要性と妥当性にお金を払う傾向が強いことを理解する必要がある。

 国民の多数派であるイスラム教の習慣を理解することも欠かせない。よく知られているところでは、現地で雇用する際には、お祈りの時間や場所の確保、断食に対する配慮が求められる。他にも、女性に握手を求めてはいけない、子供の頭をなでてはいけないなど、日本人の感覚からすると想像もつかない禁止事項があるため、現地に行く前にいま一度確認した方が良いだろう。

 マレーシア市場への参入に際しては、地場メーカーをうまく活用することも選択肢の一つとして考慮すべきだろう。例えば、ダイハツはプロデュアと、マツダはベルマツモーターと提携しているし、東洋タイヤはシルバーストーンを買収することにより、マレーシア国内シェアの24%を手に入れた。マレーシア企業は他のASEAN諸国に比べてそれなりに成熟した状態にあり、慎重に調べることで信頼のおけるパートナーが見つかる可能性がある。

 ちなみに、マレーシアの治安はかなり良いが、やはり日本とは異なることにも留意する必要がある。メーターを倒さないタクシーもいまだに多い。かつて、鉄が高騰していたころ、現地の大型スーパーマーケットでは鉄製の台車が何万台も盗まれていた。このように、日本では想像もつかないことが起こることもあり、現地のビジネス状況に応じてリスクを分析し、対策を講じておくことが重要だ。

地理条件と誘致政策の活用

 これまでに触れてきた事例は、ほとんどがマレーシア政府の投資誘致政策と関連するが、地理条件と合わせて考えると進出先の選択肢が広がる。

 マレーシアは太陽電池で世界のトップシェアを目指している。これら環境テクノロジーの誘致はマレーシア工業開発庁(MIDA)が特に熱心で、2011年は外国投資の54.8%が電気・電子製品、うち太陽光関連産業が71.5%を占めていた。太陽電池関連では、日本からも大型投資があり、パナソニックは2011年ケダ州に450億円、トクヤマは2009年サラワク州に1250億円の投資を決定し、関連設備の建設を行っている。ケダ州は外国企業誘致のためにインフラ設備が充実しており、ペナン島の国際空港との接続も良い。サラワク州はインフラ整備という点では他州に劣るものの、天然資源が豊富であり、エネルギー関連産業は重点産業として積極的な優遇措置が取られている。進出にあたって検討すべき点はインフラ環境、天然資源、優遇政策と様々だが、何を優先すべきか、さらに魅力的な優遇措置がないのか吟味した方が良いだろう。

 また、日系企業ならではのマレーシアの地理条件の活用例にも触れておこう。三井金属鉱業は、東日本大震災の後、計画停電に備えた事業継続計画の一環として、マレーシアに一部機能を移管している。マレーシアは日本から比較的近く、地震を含む天災が少ないことがこの決定の決め手となったと考えられる。震災の後、事業継続計画を見直した企業は多いと思うが、その対応策がマレーシアへの機能移管とは興味深い例ではないだろうか。

サービス業の強化と外資の参入

 GDPの6割を占めるサービス業では、市場の自由化が進み、日系企業のみならず各国からの参入が相次いでいる。顕著なのは金融・保険分野で、金融は民間企業に対する貸出の拡大が、保険は自動車数の増加に伴い自動車保険の拡大がそれぞれ期待される。この傾向を反映し、2011〜2012年5月までの間に、7件の外資系企業による買収が成立した。日系企業の動きとしては、損保ジャパンが自動車保険の強化を狙い、現地損害保険会社ベルジャ・ソンポの出資比率を引き上げた。なお、ベルジャ・ソンポの売上は5割が自動車保険である。

 ヘルスケアの分野でも日系企業に動きが見られる。2010年、大正製薬は現地の大手製薬会社ホウ製薬(Hoepharma Holdings Sdn. Bhd)を買収した。ホウ製薬は、外資を除くと、マレーシアでは最大手の製薬会社である。三井物産の100%子会社であるMBKヘルスケア・パートナーズは、Integrated Healthcare Holdingsに資本参加し、今後拡大が見込まれるアジアにおける病院ネットワークに参入している。

日系企業が存在感を高める高付加価値アイテム市場

 近年マレーシアでは生活必需品だけでなく、あれば便利な付加価値の高い家電が売れるようになってきている。この分野における日系メーカーのシェアは高く、パナソニックが家庭用AVメディアレコーダーやその他の家電用品で2割のシェア、パイオニアとJVC ケンウッドがカーナビやカーステレオなどで2割弱のシェアを占めている。2011年、低所得者向けに省エネ家電製品購入の補助金が出されたことがあったが、対象となった家電は冷蔵庫とエアコンで、なんと補助が認められた対象品目の65%が日系企業製品であった。

 自動車・二輪車市場においても高付加価値製品分野での日系企業の存在感は高い。ダイハツ工業、明石機械工業、マレーシア自動車メーカーのプロデュアの合弁会社「明石機械マレーシア」では、これまで日本から輸入していたオートマチック・トランスミッション(AT)の生産拠点をマレーシアに設立すると発表した。これまでマレーシアではATは生産されておらず、マレーシア初のAT生産拠点となる。また、政府が誘致を推し進めるエコカー技術では、2011年、ホンダがハイブリッド車でシェア1位を獲得した。マレーシアではまだエコカーの市場は小さいため、1位と言っても販売台数は4600台と小規模だが、今後の市場拡大をにらみ、2012年末から現地生産を開始することを発表している。

 同じホンダの現地子会社であるBoon Siew Hondaでも、二輪車の生産能力を拡大している。ホンダは、2010年時点でマレーシア二輪車市場の45%と圧倒的なシェアを占める。排気量100〜125CCの比較的小型なものが主流だが、近年では街中で大型バイクを見かけることも増えてきている。余談だが、日本で販売されている「マレーシア仕様」と呼ばれるバイクは、実際にマレーシアで生産、もしくは、組み立てられたバイクである。イギリスの旧植民地であるマレーシアは、日本と同じ左側通行であり、輸出の際のカスタマイズが必要ないことは1つのメリットになっている。

 マレーシアは国民1人当たりのGDP(国内総生産)で見ると、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中でもシンガポールを除けば頭一つ飛び抜けており、高付加価値商品の市場となっている。今後他国の所得が追いつくにつれて、周辺他国でこれら商品の売り上げ拡大も期待される。ASEAN各国に商品販売を展開する上での先行開拓市場としてマレーシアを位置付けることも可能であろう。

ハラル・ハブとしての存在感

 マレーシアのイスラム国家としてのもう1つの重点政策「ハラル・ハブ」について見てみよう。イスラム金融については前回述べたが、「ハラル認証」についても各国食品企業の間ではマレーシアの認証を経て、背後に控える大規模なハラル市場を相手にビジネスに行おうとする動きがある。

 他国のハラル認証は、宗教関連機関が認証機関も兼ねていることがほとんどであり、非イスラム教徒にとっては理解が難しいことがあるが、マレーシアのハラル認証はハラル産業開発公社(HDC)による国家認証である。また、マレーシアのハラル基準は世界で2番目に厳しいと言われており、マレーシアで認証が取得できればイスラム圏のほとんどどこにでも輸出できる(1番厳しいのはサウジアラビア)。2000年、味の素の商品にラルで認められていない成分が含まれているという指摘を受け、インドネシアで問題になったことがあるが、イスラム教徒にとってハラルはそれほど厳しい戒律だ。

 しかしながら、ハラル認証さえクリアすれば、世界のイスラム教人口約18億人を相手に市場規模2兆1000億ドル、食品だけでも5800億ドルと言われるハラル市場でビジネスを行うことが可能になる。前述の味の素は、問題となったインドネシアのハラル認証を再取得するとともに、マレーシアHDCのハラル認証も取得している。日系企業では他に大正製薬、ポッカ、花王などがHDCのハラルを取得しているが、世界でもネスレ、ダノンといった食品メジャーがHDCの認証を取得しており、マレーシアをハブにイスラム圏での食品ビジネスを展開している。

2012年10月2日火曜日

不動産活況に沸くクアラルンプール

 アジア主要都市の「中間層(世帯年間可処分所得500034999米ドル)」以上消費者の熱い消費意欲を探った、日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」(以下、本調査)において、クアラルンプール(注:隣接州であるスランゴール州を含む)は住宅への投資が最も活発であるという結果が明らかになった(図表1)。

住宅への投資が過熱するクアラルンプール

 今回、調査対象8都市中最高の消費意欲を示す「住宅」分野を中心にクアラルンプールの消費実態を紹介したい。

出所:日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」

 マレーシア国家不動産情報センター(NAPIC)によると、クアラルンプールの不動産価格は2008年から2011年の4年間に23%上昇した。マレーシア全国では14%の上昇であり、全国平均に比べて9ポイント高い上昇幅を記録したことになる。消費者物価指数は同期間で6%程度の上昇にとどまっているため、住宅需要の増加によって住宅価格の上昇が引き起こされているといえる。

 価格上昇のさなかにあっても、クアラルンプール市民の住宅購入意向は高い。本調査によると、「あなたは今後、居住用の住宅を購入する予定がありますか。」という質問に対し、「3年以内に住宅の購入を予定している」と回答した割合が31%に達した。これは、調査対象都市のうち、ムンバイ(58%)に次ぐ数字である。

 一方で、マレーシアの不動産市場は「バブル」状況にあるのではないかという指摘もある。確かに、クアラルンプール中心部やペナン島等の一部のリゾート地域の高級物件では、過去5年間で20%以上の価格上昇がみられた物件も存在する。本調査結果において、「投資用住宅の5年以内購入意向」が調査対象都市ではジャカルタに次いで高い値(39%)となっているのも、その傾向を裏付けているといえるため、価格トレンドの変化には一定の注意が必要である。

 ただし、高い価格上昇を示す物件は高級物件に限られている点、都市部への人口流入・所得上昇・生産年齢人口の増加により都市部の住宅需要が拡大している点を考えると、特に中間層向けの住宅については、トレンドが急激に変化する可能性は低いと考える。

 とはいえ、住宅購入にかかる費用は課題になっている。本調査において「あなたが住宅を購入する(あるいは購入した)際に、最も重視することは何ですか。」と聞いた質問では、住宅購入意向者のうち29%が「住宅価格」であると回答している。これは、調査対象の8都市のうち最も高い値であった(次いでシンガポール=28%、東京=22%)。

中間層には郊外の戸建住宅が人気

 上記の状況のもとで、クアラルンプールの中間所得層は、とりわけ高い価格上昇を示す都市中心部を避けるように、郊外へと住居を移すことを検討しているようだ。現在および将来の居住を希望する地域を聞いた質問では、現在は30%が郊外に居住しているが、将来は42%が郊外に居住したいと回答している。居住を希望する住宅のタイプにも変化が現れており、現在は50%が戸建住宅に居住しているが、将来は75%が戸建住宅に居住したいと回答している(図表2)。

 クアラルンプールの消費者は、新たな居住地として「郊外にある戸建住宅」を考える層が多いことがわかった。

図表2 現在の住まいと今後希望する住まいの比較

出所:日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」

進む中間層向けの政府支援プログラム

 マレーシア政府も、彼らの住宅購入を後押しする政策を提示している。その1つが、住宅ローンプログラムである「マイ・ファースト・ホーム・スキーム」だ。首都圏で若年層のマイホーム取得を支援するために、20113月に導入された。35歳以下かつ月収3000リンギット(約1000米ドル)以下の層を対象に、最初の持ち家取得費用を30年間の長期ローン(金利4.3%)で100%融資している。対象地域はサイバージャヤ、プトラジャヤなどクアラルンプールに隣接する7地域であり、政府としても郊外居住を後押ししていることがわかる。

活況を呈するクアラルンプール郊外での住宅販売

 旺盛な住宅購入意向と政府支援に後押しされ、クアラルンプール郊外の住宅販売は増加の一途をたどっている。スランゴール州における2010年の戸建て住宅販売戸数は約3万戸であり、クアラルンプール市内の4400戸を大きく引き離している。一方、同年におけるコンドミニアム/アパートの販売戸数はスランゴール州が14000戸に対しクアラルンプール市内が11000戸であり、郊外の戸建て住宅、都市部の集合住宅というすみ分けが明確になってきている。

 同国の不動産業者は、需要に対応する形で郊外の住宅開発を進めている。例えば不動産開発のローヤット・グループでは、クアラルンプール郊外に1000万平方メートル規模のニュータウン開発を実施しており、将来的には5万人の人々が居住する計画である。このような開発が各地で進められているため、需要と供給のバランスが保たれ、特に中間所得層向けの住宅については価格が大幅に上昇することなく、安定的な住宅の提供が行われる可能性が高い。

クアラルンプール市内の中級分譲集合住宅(写真:日本総研、以下同)

「エコ」を軸に進出する日系企業

 日系企業も同国の住宅市場における取り組みを拡大している。最も活発に展開しようとしているのが、パナソニックグループだ。関連会社のパナホームでは、現在、クアラルンプールにモデルハウスの建設を進めている。本年10月に完成予定のこのモデルハウスでは、太陽光パネルの設置等を通じて、省エネ技術をPRする計画である。また、パナソニック・マレーシアもスランゴール州に「エコネーション・センター」を開設、太陽光発電や省エネ家電のショールームとして販売を拡大させる計画だ。

 パナソニックのほかにも、YKK APが現地建材展において採光性の高い大型アルミサッシや窓を展示するなど、各社が顧客の開拓に力を注いでいる。

省エネ住宅・設備へも期待

 家庭部門の省エネルギー対策は、マレーシア政府も注目している。同国政府は、2020年にCO2排出量を05年比で40%削減する目標を掲げており、省エネ対策が急務である。持続可能エネルギー開発庁(SEDA)は、現在、一般家庭へ太陽光発電パネル設置費用を融資するための枠組みづくりを進めており、今後の発表が待たれるところである。日系企業各社の取り組みは政府の意図とも合致したものであり、今後の事業拡大が期待される。

マレーシア特有の住宅ニーズへの対応

 ただし、太陽光発電や省エネ家電などを付けただけで住宅が魅力的なものになるわけではない。現地で住宅購入希望者にヒアリングした結果によると、天井高、方角(風水)、寝室数などに特有の嗜好がみられた。例えば、「中高級価格帯の住宅においては、天井の高さは最低でも3メートルは必要。4メートルが好まれる場合もある」「『南北向き』の住宅が好まれる。中華系でなくとも、転売時を考慮し「風水」の要素を考慮する場合も多い」「ムスリム家庭では一般に10代になると男児と女児にそれぞれ別々の部屋を与えるため、最低でも3つ寝室が必要」などのコメントがあった。

 このような個別の事情に配慮し、ターゲットを明確にした上で住居の作りこみをしていくことが重要である。

クアラルンプール郊外の戸建住宅分譲地

変わるライフスタイル・増える消費財購入

 住居の変化に伴い考えられるのが、中間層のライフスタイル(暮らし方、住まい方)の変化である。クアラルンプール周辺では、プトラジャヤへの首都機能移転等の大規模プロジェクトに伴い、交通インフラの整備が進められている。この状況下で人口の郊外移転および居住スペースの拡大が進むと、自家用車や新たな家電製品の購入など、消費がいっそう拡大することが考えられる。

 実際、本調査においても、クアラルンプール市民の5年以内の自動車購入意向は54%と、上海(68%)、ジャカルタ(63%)に次いで高い。また、自動車非所有世帯に限定すると、5年以内の購入意向は72%となっており、これは調査8都市の中で最も高い値である(東京は8都市中最低の20%)(図表3)。さらに、薄型TV5年以内の購入意向をみても、39%の世帯が購入を考えていると回答しており、これは上海(40%)に次いで高い水準である。

 所得の上昇およびライフスタイルの変化に伴い、これまで必要としなかったあるいは手が届かなかった消費財に手を伸ばしつつあるクアラルンプールの消費者像が透けてみえよう。

図表3 所有の有無別:自動車の5年以内購入意向

出所:日本総研「アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査」

ライフスタイル提案型の現地進出を

 住宅の購入・居住地の移転は、新たなライフスタイルの構築に他ならない。消費者にとって、住まいを変えることはライフスタイルそのものを変えることにつながる。実際に、現地の大手デベロッパーは、居住用住宅、商業施設、ホテル、アミューズメント施設、大学等を敷地内に含んだ複合的な開発を行い、消費者の支持を集めている。

 「住宅」「太陽光発電設備」「自動車」「薄型TV」等、それぞれを単一の商材として販売するのではなく、暮らし方・住まい方の変化を念頭に置き、新たなライフスタイルのあり方を消費者に提案することが、販売機会の拡大につながるだろう。