2018年9月20日木曜日

ファーストリテイリング社の「有明プロジェクト」とは何なのか

 有明プロジェクトについてはこれまでさまざまな報道がなされてきたが、今回の発表の背景として、以下に短くまとめる。プロジェクト名称は、2017年2月、ファーストリテイリングが物流倉庫と、ユニクロの商品企画、マーケティング、生産、物流などに関する本社機能を遂行する新オフィスを東京・有明にオープンしたことに由来する。だが、「有明」という言葉は象徴であり、実際には海外を含め、全社的、全部門横断的な事業改革を意味している。


 有明プロジェクトにおける最大のポイントは、「作ったものを売る」から「顧客の求めるものを売る」への180度ともいえる発想の転換にある。これは、2015年6月の発表でも既に示されていた通り、オンラインが(売上高の観点で)主戦場になる可能性を考慮したデジタル戦略そのものだ。そしてデジタル戦略は、同社の中長期戦略そのものでもある。

 ファーストリテイリングは、EC(電子商取引)比率が伸びないと批判されているが、遅かれ早かれオンライン売り上げがオフライン売り上げを凌駕し、オンラインビジネスが企業としての成長および存続を左右することになるという危機感を持っている。

 例えば「Amazon Fashion」と売上高で競争したいのかは分からない。だが、オンラインの世界では、Amazon Fashionをはじめとする多様な市場参入者と戦っていかざるを得ない。その時にキーワードとなるのは。Amazonも掲げる(歯が浮く言葉ではあるが)顧客第一主義だ。

 「良いもの」というだけではなく、「自分の好みに合致した」「サイズも合っている」商品を、「便利に」「すぐ」手に入れられなければ、顧客は逃げてしまう。

 上記のように言うのは簡単だが、実現するのは容易なことではない。容易ではないが、さまざまな改革に同社は着手している。

 まず、「半年などの単位で商品を開発し、需要を見込んでまとめて生産して販売する」といったやり方から脱皮し、ZARAなどのブランドで知られるInditexのように「作り足す」方式へ移行しようとしている。これにより、衣料販売では避けて通ることのできない余剰在庫の問題に対処する。

 余剰在庫を極力避けながら、販売機会の逸失を避けるには、物流を変革しなければならない。例えば有明倉庫は、都内の各店舗における在庫レベルから、商品を少量で補充できなければならない。

 オンラインでは「すぐ欲しい」というニーズにも対応できる必要がある。「オンライン購買では購入商品がすぐに手に入らない」という「常識」を覆してAmazon.comは成長してきた。ファーストリテイリングは有明における店舗への商品供給の「ジャストインタイム化」をはじめとして、配送時間短縮化のための複数の実験を進めている。

 また、「自分に合った」商品を低価格で提供するため、マスカスタマイズ、あるいはテイラーメイドのニーズにも対応しようとしている。

 例えばユニクロでは2018年秋冬用に、「3Dニット」の商品を投入した。これはファーストリテイリングが島精機という企業の「ホールガーメント(一体編み)」技術を取り入れたもの。2社は合弁企業を設立しており、ユニクロの3Dニット商品は和歌山で生産されている。

 ホールガーメントは、前工程と後工程がない。島精機の編機で製造を自動化できる。このため、労働賃金の安い地域で生産する必要がない。消費地の近くで生産し、納期を短縮できる。また、仕組みからいえば、完全なカスタムメイドにも対応できる。前出の3Dニットのワンピースドレスでは、サイズに加えて袖丈/スカート丈を3つの選択肢から選べるようになっている。これはカスタムメイドではないが、マスカスタマイゼーションに向けた一歩だと表現できる。

 「顧客の求めるものを作る」形態に近づけるためには、サプライチェーンの全工程をリアルタイムでつなぐITシステムを構築し、これを顧客ニーズに基づく売り上げ最大化、およびコスト最小化の観点から制御できるようにする必要がある。ファーストリテイリングは、こうした取り組みを進めている。

 そして上記全ての活動のベースとなるのが、顧客ニーズ(、そして需要)の正確な把握だ。ファーストリテイリングは顧客の衣料購買に関する情報の収集・分析を強化しようとしている。

 例えばスマートフォンアプリでは2018年7月、「UNIQLO IQ」という機能を提供開始した。いわゆるチャットbotで、好みや関心を伝えると、商品を薦めたり、店舗での在庫を確認したり、問い合わせに答えたりする。顧客のこうしたアプリでのインプットやオンラインストアにおける行動、店舗における顧客のリクエストや問い合わせ、リアル/デジタルのキャンペーンへの反応、ソーシャルネットワークなどインターネット上の情報、天候などを店舗における売り上げデータと合わせて分析し、現在および近未来のニーズ/需要を正確に予測できるようになる必要がある。

 2018年度に海外売上比率が国内売上比率を超えると予想されるファーストリテイリングは、もはや文字通りグローバル企業。そこで上記のようなデータの収集と予測を全世界について行い、これを各地域における生産、販売、物流の最適化に生かしていくことを、同社は考えている。

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