休暇中も賃金が支払われる年次有給休暇(有休)の制度が変わる。従業員が有休を取ることを企業に義務付けるが、これで本当に休めるようになるのか。有休取得の義務化や今後の課題などについて、石塚由紀夫編集委員に聞いた。
【グラフで見る】日本の年次有給休暇の取得率
――有休取得の制度が変わるそうですね。
年10日以上の有休が与えられている社員について、年5日は必ず取得させるように企業に義務付けます。中小企業を含めすべての企業が2019年4月からその対象です。働き方改革の一環で労働基準法が改正されました。過重労働を防止し、休むときはしっかり休んで仕事の生産性を高める狙いです。
有休は働く人の権利。いつ何日取得するかは「時季指定権」と呼ばれ、働く側が原則自由に決められます。ただ、職場への気兼ねなどがあり、なかなか有休を取りません。そこで会社側に消化義務を負わせることにしました。5日分については本人の希望を聞いた上で、取得させる日時を会社が指定し、休ませなければいけません。これにより年5日は必ず有休を取ることになるので取得率は今より底上げされるでしょう。
――日本の有休取得状況は海外と比べてどうなの?
厚生労働省調べでは日本の有休取得率は01年以降、5割を下回っています。国は20年までに取得率70%にすると目標を掲げていますが、実現は困難な状況です。世界30カ国・地域を対象にした旅行予約サイトの米エクスペディア調査(17年)では、ドイツやスペイン、フランスなど12カ国・地域が有休消化率100%に上るのに日本は50%で最下位でした。
第一生命保険が男女1400人を対象に実施した調査によると、有休取得にためらいを「感じる」または「やや感じる」と答えた人は6割超でした。「職場の人に迷惑がかかる」「後で忙しくなる」などがその理由。男性では「昇格・査定への影響が心配」を挙げる人も目立ちました。
――違反した企業に罰則はあるのですか。
有休消化が5日未満の働き手がいた場合、最高30万円の罰金を企業に科します。罰金が違反1社当たりなのか、1件当たりなのかは明示されていません。もし違反1件当たりで罰金を科す場合、例えば従業員500人の有休消化義務を怠った企業の罰金は30万円×500人分で最高1億5千万円にも上ります。
日本の有休取得率はずっと50%前後で低迷しています。これまで企業は働き手の時季指定権を逆手に取り「社員が取得しない」と言い逃れができました。でも今後は通用しません。現在策定中のガイドラインでは企業に有休取得管理簿づくりを求める見通しです。取得状況などの情報を本人とその上司で共有し、確実に取得させる狙いです。各職場で社員が有休を消化できるように業務量を調整する必要もあるでしょう。サービス業のように土日も仕事がある業態は勤務ローテーションの組み方に工夫が求められます。
――取得義務化で参考になる先進事例はあるの?
IT(情報技術)ベンチャーのロックオン(大阪市)は土日を含む9日間の連続休暇の取得を義務付けています。翌年の予定を職場単位で調整して決めます。社員は思い思いに休暇を過ごし、リフレッシュしているそうです。ユニークなのは休暇中の連絡を一切禁止していること。そのため実際に山にこもるわけでないですが社内では「山ごもり休暇」と呼んでいます。
9日間も連絡を絶つには仕事を同僚に引き継がなくてはいけません。担当業務がどんな状況にあるか、懸案は何かなど仕事の棚卸しを休暇前に全員がします。このプロセスが無駄な業務に気付いたり、仕事の属人化を防いだりする効果も上げています。
有休が取りにくい職場風土は問題ですが、働く側も効率的に働く意識が必要です。会社と働く側の双方が業務の中身や進め方を見直さないと有休の取得は進みません。
■ちょっとウンチク 海外は連続の休みが基本
有休取得率の向上のため、時間単位の有休取得制度を導入する企業が最近目立つ。学校の行事や通院など1日休むほどでもない私用があるとき、有休を1~2時間に分割して取れる。便利な仕組みだと思う半面、なぜ丸々1日休もうとしないかが不思議だ。
有休について国際労働機関(ILO)は第132号条約で、有休は連続して取得することと定めている。日本は同条約を批准していないが、ドイツやイタリアなど37カ国は批准。これらの国々ではバカンスが定着し、長期の休みを労働者は堪能している。勤勉が美徳とされる日本人は休み下手のようだ。
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