2017年5月23日火曜日

転職に失敗する人と成功する人の決定的な差 ビジネス全般にも共通する6つのNG

 あの東芝が経営危機に陥っています。大手上場企業に勤めたからといって一生安泰が続く時代は終わりました。勤務先の会社が大きく揺らいでも、他社から求められる人材であることが、現代のビジネスパーソンにとって重要な条件です。ただ、あなたが今勤めている会社で高く評価されていても、他社からも同等に評価されるとは限りません。企業の文化、風土、成長段階によって、求められる人材の要素は変わってくるのです。

 私はエグゼクティブサーチの世界で、ヘッドハンターとして19年間、2万人を超える一流人材と接触してきました。今回は、その知見を基に執筆した拙著『会社の壁を超えて評価される条件』で解説した、「激動の時代を勝ち抜く一流の働き方」についてお話しします。

「暗黙知」を共有できる人材か?
 大手企業から地方の中小企業まで、数多くの経営者の方々とお会いしてきました。そこから明確に見えてきたのは、長い時間をかけて社内で人材を育成していくというこれまでの人事スタイルに、大きな変化が起こっていることです。優秀な人材は社内で育てていくだけでは追いつかない。業務拡大など企業が抱え続けてきた課題解決には、むしろ外部から優秀かつ適格な人材を登用することのほうが有益だという判断が一般化しているのです。

 その主因の1つは、クライアント企業が求める人材の範囲が広がっているためです。2008年のリーマンショック以前は、経営陣の一翼を担うマネジメント層の人材を求める企業が主でしたが、昨年あたりから部長職や係長クラスといった幅広い範囲で人材を求める依頼が急増してきました。職域が実務層に広がっているということは、業務拡大を狙った増員、もしくは従来の事業に見切りをつけて新規事業へのシフトなどが背景にあるのでしょう。転職市場は今、大きな変革期を迎えています。

 しかし、そうはいっても、人材の「強引な引き抜き」のような欧米型の人材抜擢は日本企業では通用しません。かつての終身雇用制は崩れたとはいえ、日本の企業文化にはやはり、個人技的な人材を求めない、集団内での「暗黙知」を共有できる人材であるかどうかが、外部からの登用であっても大事な条件となってきます。私はそうした暗黙知の部分を仕事の「OS(オペレーティングシステム)」と定義づけました。その人材の仕事の進め方、志向性が、人材を求める企業側のOSと互換性があるのかどうか。他社があなたを評価してくれるかどうかは、そこにかかってくるのです。

 日頃、人材サーチの現場で思うのは、候補者のいい面ばかりではありません。「この部分がなければ、とてもいいのに」、もしくは「この人はこれで損をしてしまっている」と残念に思えることが決して少なくありません。他社からも評価される人材を目指すのなら、そうしたマイナス評価になりうる要素をあらかじめ知っておくことは必須です。

 以下は、私が著書の中でも触れた、面談の場、もしくはビジネスの場全般において避けるべき「べからず」6項目です。

アグレッシブさはかえって危険視される
 � 早口な説明、高い声音は、落ち着きのない印象を持たれ、信用を失ってしまいがち

� アグレッシブさを強調することは一見、エネルギッシュで魅力的に映るが、逆に危うさも周囲に与えてしまう

� 初対面から過剰に笑顔を見せるのは、良からぬ本心を隠しているのではないか、と疑われる可能性もある

� 初対面のときほど、目は口ほどにものを言う

� ヘッドハンティングの打ち合わせに際して、冒頭から収入の話から切り出すと、「おカネで動く人はおカネで転ぶ」と思われてしまう

� スーツや靴、鞄、時計などを高級ブランドでキメている人は、ブランド頼みで自分に自信がないのではないか、と勘繰られる

 私はつねに、人材の「心・技・体」を見抜くよう努力をしています。まるで武道のようですが、ビジネスにもこれは当てはまります。「心」は人格や思考行動特性、いわば前述のOSと同義です。「技」は文字どおり技能やスキル。「体」は第一印象や行為、態度そのものを指します。前掲の「べからず」6項目は、この「体」に該当する部分といえるでしょう。

 ただ、これらは確かに悪い印象を持たれてしまう要素ではありますが、肝心な「心」の部分までは見抜けません。そこで私が用意しているのは次の質問です。

 あなたの「動機」「安心(満足)」はどこにありますか?

 その人の行為の背景にどんな思いがあったのか。この人は何によって満足を得るのか——。そこから真の人物像は見えてくるものです。この問いは、何も私たちの専売特許ではありません。たとえば、ご自身の周囲の上司や部下に当てはめてみれば、彼らがどのようなタイプの人間なのかが見えてきます。どういったスタンスでの仕事を好むのかなどを把握することは、人間関係をスムーズにする意味でも有効に作用することと思います。

 では、一流の人たちのスタンスやルールはどのようなものでしょうか?

 私たちは複数回にわたって人材サーチの候補者とのあいだで面談を持ちます。百聞は一見に如(し)かず。人材の器量や魅力を知るには直接会うことが1番です。そこで見聞した一流人材のスタンス、ルール等をまとめてみると、次のようなポイントが挙げられます。

「こだわり」よりも「アバウトさ」
 � 一度決めたスケジュールは、たとえ悪天候であろうと遵守する

� アポイントメントは入ってきた順に対応。相手による優先順位はつけない

� 異業種からのオファーであっても、好奇心旺盛に飛び込める

� 仕事と生活を分けて考えない。「ワーク・ライフ・バランス」に縛られない

� 良い意味でも「アバウトさ」と「鈍感力」を持っている

� 正反対の価値観を持ち合わせることができる

� 「こだわり」を捨てることができる

 絶対に守るルールがあることは、その人物の仕事の進め方、仕事との向き合い方を象徴することでもあり、自社、他社を問わず、信用や信頼を獲得できる要素です。また逆に、自身を縛りつけない自由な発想を持ち、かつ異なる方法論であっても自分のなかに取り込んで考えられる。そんな思考法を私は「ヤジロベエの思考」と名付けています。

 一流人材、他社から求められる人材は、左右の手に提げた重りに揺られながら考えて、最適解を求めることを、これからの働き方の観点として取り入れていくことが有用です。近年、主張されることが多い「ワーク・ライフ・バランス」の考え方も、必ずしも仕事と日常生活の線引きに縛られることなく、柔軟に対応している方が多いというのが印象です。立場が上になられる方ほど、こういった傾向が強く、それゆえに自由な発想ができるのだと思われます。

 JR西日本の技術開発室に在籍し、当時最速といわれた「500系新幹線」の開発担当者の方のお話です。高速走行ゆえの風切り音の大きさを解消するため思い浮かんだのは、音もなく羽ばたくフクロウの翼の仕組みだったと言います。最も騒音を生んでいたパンタグラフの改良で問題を解決したのですが、そのヒントを生んだのは、開発担当者の方が「日本野鳥の会」の会員で、趣味のバードウォッチングのときにアイデアがひらめいたのだとか。オフの時間を仕事と完全に切り離さないことがイノベーションを生んだ好例ともいえるでしょう。

 会社の壁を超えて評価される人材がいかなるものなのか——。ここまでのお話で、大まかには把握していただけたと思います。では、最後に、人材を評価する企業側の評価軸の変化について、私なりの分析をお伝えします。企業も人間同様に年を重ね、人生のごとき山あり谷ありのドラマの中を生きています。そんな企業のライフサイクルをざっくりと分けるとすれば、次のようになります。

 � 創業拡大期:会社を立ち上げた当初は右肩上がり。事業拡大や成長へとつながる

� 安定期:業績が落ち着き、急激な拡大は収まるが、堅調な上昇を続ける

� 衰退・変革(再生)期:業績が下がり、イノベーションが求められる。何も手を打たなければ最悪は倒産。抜本的な改革に成功すれば最上志向期を迎える可能性もある

 転職を希望する企業がどの段階にあるのかによって、求められる人材の基準は変わってきます。あなたの能力はどの段階にいる企業で発揮されるのかを把握することは非常に大切です。それが合致しなければ、優秀だという評価は得られたとしても、適格な人材として仕事を進めることは難しくなります。

拡大期に必要な「What構築」人材
 そこで、段階ごとに求められる能力を具体的に挙げてみましょう。�の段階にある企業は、拡大期ゆえに多様なビジネスプラン、新たな価値観が求められます。成長の途中過程なので人員的に満たされていないこともあり、1人何役もこなせる能力が求められます。私はこの段階で求められる「何(What)をすべきか」を独自の思考から求めていく力を「What構築能力」と呼んでいます。

 続いて�の段階。現状を維持し続けるには、組織を潤滑に動かすために必要な人間関係の構築力が重視されます。堅調に組み立てられた流れを「いかに(How)そつなくこなしていくか」の能力、私はこれを「How能力」と称しています。この時期の企業には個性の強い「出る杭(くい)」(創造力が強い)タイプは疎んじられる傾向にあるといえるでしょう。

 最後に�の段階。安定期での成功法則を抑えつつも、新たな価値の事業を生み出していかなければなりません。�で求められたHow能力に加えて、�で重視されるWhat構築能力を持つ人材が評価されます。�との差異は、コスト削減をしながらイノベーションを求められるということです。

 自身の能力がどこで発揮されるもので、どういった状況にある会社において求められるものか。それを客観的に把握しておくことこそ、勤務している会社が「いざ」という事態を迎えたときの備えとなるのです。

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