2013年6月21日金曜日

重金属の血中濃度が異常値を示した米国への移民

 中国からニューヨーク市に来た移民の血液中に含まれる鉛、カドミウム、水銀の量はその他アジア地区からの移民に比べて高い。例えば鉛は44%高い。研究論文は、この状況は憂慮すべきものだが、いくつかの措置を講ずることにより、その先行きは恐ろしいものではないとしている。

 折しも、中国では5月に広東省でカドミウム汚染米が市場に流入していることが判明し、大きな問題として中国全土に波紋を投げかけた直後であり<注1>、多くの中国メディアがこの短い記事に注目した。そこで、彼らが当該研究論文の原文に遡って内容を確認した結果、以下のような詳細が判明したのだった。

<注1>2013年5月31日付の本リポート「広東省の人々を不安に陥れたカドミウム汚染米」参照。

【1】当該研究論文は、ニューヨーク市にあるコロンビア大学の公共衛生学院の研究者が、2004年の『ニューヨーク市の健康診査と栄養調査報告』(以下「調査報告」)のデータを分析・研究した内容をまとめたものである。

【2】調査報告はニューヨーク市へ来た移民の中から年齢が20歳以上の1999人を抽出して調査したものであった(以下「全移民」)。その中には、中国から来た移民(以下「中国移民」)が87人、その他のアジア地区から来た移民(以下「アジア移民」)が173人含まれていた。なお、中国移民には香港、台湾、マカオ生まれの人は含まれていないし、中国移民の大多数は福建省出身者によって占められていた。

【3】研究者が注目したのは、中国から来た移民の血液に含まれる重金属(鉛、カドミウム、水銀)の濃度が高いことであった。具体的に言うと:(1)鉛の血中濃度:中国移民は全移民より81%高く、アジア移民より44%高い。(2)カドミウムの血中濃度:中国移民は全移民より69%高く、アジア移民より60%高い。(3)水銀の血中濃度:中国移民は全移民の正常値より10%高い。

【4】研究者は、中国移民の場合、重金属の血中濃度が高い理由を次のように考えている。(1)水銀の血中濃度が高いのは、彼らの食生活が野菜や海産物に重点を置いていることに関連している。このため、彼らは心臓疾患のリスクは低いが、水銀の血中濃度は高い。(2)鉛やカドミウムは、体内に蓄積されるには非常に長い時間を要するので、彼らが米国へ来る前の中国国内における生活と関係があると考えられる。なお、鉛は中国の伝統的な薬に含まれているので、その影響も否定できない。

 上記の研究論文は2004年の調査報告のデータに基づくものであり、すでに10年が経過している。10年後の今日、中国における重金属汚染の状況はさらにその深刻度を増していることは言わずもがなの話である。その実態を中国のメディアが報じた関連記事から検証してみると下記の通りである。

2013年6月13日木曜日

マネジメント手法をKnowledge Worker向きに替える

 ASTDでは、元米グーグルで育成プログラムを担当したジュリー・クロウ(Julie Clow)氏が、別のセッションでこんな話をした。

 彼女は、今のマネジメント手法は(人材マネジメントも含めて)工業ワーカー時代の名残が強いが、これをKnowledge Worker向きに切り替えるためには革命的なルールの変更が必要であると主張する。そのほとんどのポイントは既にどこかで聞いたことではあるが、組織における実践となると、なるほど彼女が言うように、多くの組織はまだ時代に追いついていない。

 例えば、朝9時から夕方5時までという勤務体制は明らかに工業化時代にできたものだろう(それを基準にした残業という考え方も含めて)。そういう今までのマネジメントを支配したルールに変えて新しいルールとして彼女は次のようなポイントを指摘した。

(1)Impact not Activities(結果やインパクト重視):
 結果に至るプロセスでは完全な自由を与える。
 
(2)True urgency, not false urgency(見せかけではなく本当の緊急案件に集中する)
 本当の緊急案件に対応する時はエネルギーが湧いてくるが、見せかけの緊急案件(例えば上司が不要に気にしているだけなど)だと、エネルギーは湧かない。

(3)Strengths, not job slots(職務記述書ではなくて本人の強み)
 各人の強みに焦点を当てよう、各人の職務の定義ではなく。 ジュリー自身の例で言うと、彼女のチームは彼女も含めて3人で、職務的に言うと皆Instruction Designer(育成プログラムのデザイナー)だが、1人ずつの強みが異なるので、役割は分かれている。

 ジュリーは、戦略的なビッグピクチャーを描くのが得意。ナンシー(仮名)は、聞き上手でファシリテーションやリクルーティングが得意。フィオリーナ(仮名)は、新しい人脈を開拓したり、チームを形成したりするのが得意。つまり3人の職務は同じだが、タレント(才能)が異なるのでそれを生かすのが大切だ。

(4)Right thing, not everything (すべてではなくて、まさに正しいことに集中)
 情報洪水の中では焦点を正しく定めることが大切である。
 
(5)Grassroots, not top down(上からの押し付けでなくて草の根からの自発性)
 ああせい、こうせいというボスよりも、草の根の人々全体から集合知を汲み上げることが大切だ。

 要するに、グーグルでの体験的な事例に基づきながら、「人が自発的に自分のやりやすい方法で新しいことを学習しながらそれを応用して、遊び的な創造性を発揮すること」を最優先したマネジメントの方法を提唱している。

電話対応

・電話がかかってきたとき、まず自社名と電話を受けた人間の名前を告げる。
・相手が名前を名乗り、担当者の名前を告げたら、「○○ですね、電話をつなぎますので、少々お待ちくださいませ」と保留にする。
・担当者につなぐ場合は、「…社の…さんからお電話です」と明確に伝える。
・担当者が不在の場合は、「○○は今、席を外しております。折り返しましょうか」と尋ね、相手の連絡先を聞く。
・連絡先をメモするときは、相手の会社名と担当者の名前を確認する。電話番号を聞くときは必ず復唱する。

どんな部下に対しても仕事を教え、育てる

 「どんな部下に対しても仕事を教え、育てる」という上司として当たり前のことができなくなるのは、多くの場合、感情に引きずられているからです。人間ですから、感情があるのは当然ですが、それは脇に置いておきましょう。

 感情の代わりに、あなたの目の前に「育成設計書」を置きましょう。育成設計書があれば、あなたの指導も、それに従う部下の行動も、極めて科学的かつ理性的なものになります。本当に部下が育つ指導が可能になります。

 育成設計書とは、その名の通り、部下を育成するための設計書です。設計図なしに家が建てられないのと同じように、設計書なくして正しく部下を育てることはできません。

 私が企業でアドバイスをするときは、次のような育成設計書を用いています。
目標、期日、貢献を書き出し、署名する

【サイズ】
 一目で全体を見渡せた方がいいので、A4くらいのプリント一枚にします。

【成果・目標】
 まず最初に「部下に期待する成果・目標」を記入します。その部下に「こうなってほしい」「こう成長してもらいたい」と思えることを書き込むのです。

 漠然としたものではなく具体的なものに落とし込んでください。業種によって様々ですが、例えば以下のようになります。

 「自社製品について正しい知識を身につける」
 「新企画の提案ができるようになる」
 「一人で顧客訪問ができるようになる」
 「月に平均3件の契約を取れるようになる」

 「あれもこれも」と入れ込むと焦点がぼけるので、その段階での小さな成果・目標を選んだ方がいいでしょう。

【期日】
 目指す「達成期日」を書き込みます。期日は絶対に必要です。

【貢献】
 次に「この成果・目標が達成されることで、部下は会社やお客様にどのような貢献ができるか」を具体的に書きます。

 この項目も非常に重要です。部下は会社や顧客に評価されることを望んでいます。しかし、自分の仕事がまだ小さいものであるため、「何のためにそれをするのか」がなかなか自覚できません。「本当に役に立っているんだろうか」と不安を抱えています。

 上司の言う通りに動き、上司のコマにされているように感じることもあります。それでは、部下のモチベーションは保てません。だから「貢献できる」ことが明確に部下に伝わるように書き込んであげましょう。

 つまり、この育成設計書は、あなただけが見るのではなく、部下と一緒に使うものだということです。上司と部下が一緒に考え、一緒に成長していくためのものだと考えてください。

【署名】
 「部下の氏名」「上司の氏名」「責任者の氏名」をそれぞれ書き、捺印する欄を設けます。責任者とは、上司であるあなたのさらに上司ということになるでしょう。つまり、あなたは「私は部下をこう育成します」と会社に宣言することになります。

【支援】
 さらに「この成果・目標の達成のために上司が"事前に"サポートしてあげること」「この成果・目標の達成のために上司がサポートしてあげること」という欄を設け、それぞれ3項目くらいずつ書き込みます。

 事前にサポートするのと、それ自体をサポートするのでは違います。上司であるあなたには、様々な側面からのサポートが求められているということです。

【褒美】
 「この成果・目標が達成されたときのご褒美」という欄も用意しましょう。ご褒美といっても、必ずしも金銭を伴わなくても構いません。「トップの成績を上げている先輩との面談の機会をつくる」「セミナーに参加するための休暇を与える」といったものが考えられます。金銭を伴う場合は「達成のお祝いに一杯おごる」くらいでいいでしょう。

 育成設計書には以上のような項目があればいいのですが、成果・目標をより小さく分解していけたら理想的です。成長計画をさらに3つくらいに分解し、それぞれについて成果・目標と期日を設定するのです。

 例えば、「自社製品について正しい知識を身につける」という成果・目標を立てたとします。それを分解すると「A商品」「B商品」「C商品」と商品ごとの成果・目標が考えられるかもしれません。

 「新企画の提案ができるようになる」という成果・目標なら、「5つのライバル商品を分析する」「週に2つはアイデアを出す」「2週間に1本は必ず企画書を作って提出する」といった段階を踏んだものに分解できるかもしれません。このように数値を入れるとより明確になります。

 分解した一つひとつの成果・目標を同時にこなすことはすぐには無理です。たびたびチェックし、「◎」「○」「△」「×」などで評価しましょう。「◎」が付けば、その成果・目標をこなせたことになります。

 ただし、「◎」「○」「△」「×」といった評価は、部下に点数をつけるためにするのではありません。「×」(できない状態)から「△」(ややできる)、「○」(ほぼできる)、「◎」(完全にできる)まで順に導いてあげるためのものです。

 分解した成果・目標がすべて「◎」になれば、「自社製品について正しい知識を身につける」「新企画の提案ができるようになる」といった当初の成果・目標はクリアされるはずです。

 クリアできたら、約束したご褒美を与え、次なる育成設計書をつくりましょう。この時には、よりレベルの高い育成設計書となるでしょう。

 こうしたことを繰り返しているうちに、部下は必ず大きく成長していきます。クリアされていった何枚もの育成設計書が、部下の財産になることは間違いありません。

2013年6月12日水曜日

組織的イノベーションのすすめ

 イノベーションできる企業は、トップが誰よりもイノベーティブです。いろいろな企業のトップとお話ししますが、やはりトップが変わろうと思わない限り、企業は変われません。変える能力以上に、変える情熱が必要なのです。ダイエットと同じです。本人が本気になって取り組まないで、健康的に痩せることはできません。

 当然ですが、ミドルやボトムから企業がイノベーションできる事例は、多くあります。そういう企業は、社員にイノベーションの機会を与え、それを活かすことのできる制度があります。ある意味、理想的な企業です。

 ただ、個人に依存したイノベーションは、戦略的ではありません。戦術的です。戦術的だから、局所的、一時的なイノベーションに終わります。組織的、継続的なイノベーションは、個人ではなく、企業が起こすべきです。そこにトップの意思が必要です。

 だから、トップが誰よりもイノベーティブでなければならないのです。変わろうとする思いが、誰よりも強くなければなりません。逆に言えば、トップが本気で変わろうとするならば、企業は必ずやイノベーションを起こすことができるでしょう。

 経営者は、必ず組織的なイノベーションを目指してください。なぜなら、個人的なイノベーションは、その人の状態に依存するため、一時的となります。また、その人の興味の範囲からしかイノベーションされません。そして、イノベーションが長期的に続くことは稀です。だから、トップの責任の下、イノベーションに取り組むべきなのです。

 「組織」と「個人」では、イノベーションの成功要因が違います。組織的イノベーションの成功の要因は人材ではなく、仕組みです。人材も大切ですが、成功するか否かは仕組みで決まります。有能な人材がいたとしても、仕組みができていないと失敗します。個人的イノベーションと、全く逆なのです。
 もう1つ逆のものがあります。それは、イノベーションの火付け役です。組織的なイノベーションを求めるのなら、組織が火付け役にならないといけません。風土の中から自然に沸き起こるのを待っていても、何も始まりません。風土の中から起こるのは個人的なイノベーションだからです。組織が火をつけ、風土が大きくしていくものなのです。

 勘違いした企業にならないようにしてください。仕組みや組織が不十分なまま、イノベーションを起こそうとしても、壁にぶち当たるだけです。確実にイノベーションを起こすためには、組織的イノベーションが必要なのです。

2013年6月11日火曜日

「グローバル人材の育成=英語力の強化」なのか?

 経済産業省が行った「大学におけるグローバル人材育成のための指標調査」の結果から紹介する。この調査では、企業におけるグローバル人材の定義を次のように規定している。

(1) 現在の業務において他の国籍の人と意思疎通を行う必要がある
(2)意思疎通を英語で(あるいは母国語以外の言語で)行う必要がある
(3)ホワイトカラー職(※)の常用雇用者である
※ ここで「ホワイトカラー職」とは、管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者、事務従事者、販売従事者をさす。

 この定義に基づき、企業を対象にヒアリングとアンケート調査を行った(実施期間2012年2月、5000社に送付し、回答のあった841社が対象)。さらに、アンケート結果に基づき、独自の手法で企業全体の総常用雇用者数に占める、2017年度のグローバル人材率の平均値なるものを出している。

 その結果、2012年時点で、4.3%だったグローバル人材率は、2017年には8.7%と2倍近くに上昇。企業規模別には、「299人以下」の企業が5.6%から7.2%、「300人〜1999人」の企業が6.9%から8.7%、「2000人以上」が11.0%から17.8%と、企業規模が大きいほどグローバル人材率が高く、5年後には全体的に高まる傾向にあった。

 ちなみに、「どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている英語力を、入社前に身に付けて欲しい」という企業に限ってみると、2000人以上の大企業で2012年時には26.1%だったものが、2017年には42.9%と半数近くにまで上昇するとの結果が示されている。

 つまり、「大企業に入るには、英語力を高めておくことは避けては通れない」とも受け取れる内容だ。

 だが、その一方で、グローバル時代における新卒社員に求められる能力はというと、上位3位を、「主体性」「規律性」「好奇心・チャレンジ精神」が占めた。

 「2000人以上」の企業に限ってみても、「主体性」が91.3%でトップ。次いで、「好奇心・チャレンジ精神」(90.1%)、「規律性」(81.3%)となり、「TOEIC730点以上相当」を必要としたのは、わずか27.3%。アンケートに提示した17の能力のうち最下位だったのである。

 ただ、1つだけ日本で働く以上に、繰り返すが、「日本で働く以上に」、必要なものがあるとするならば、「たった1人でも、完全なるアウェーでも、どうにかしてその場で、限られた資源の中でベストと思える答えを探り出す力」。自律性(autonomy)だ。

 自律性は、「自分の行動や考え方を自己決定できているという感覚」で、自分を信じることで、目の前にあってできることを1つひとつ進め、自分の強みを進化させる動機付け要因となる。自分を信じる力は、何ごとにも優るエネルギーを引き出す。

 誰も助けてくれない。たった1人。その状況でも、「これでよし」と自分の行動を決められる「自律性」なくして、世界では太刀打ちできない。

 以前、ある雑誌で別の連載をやっていた時に、企業のトップや新しいことを成し遂げた方たちをインタビューさせていただいたのだが、そのほとんどの方たちが、高い自律性を持っていた。