2017年12月13日水曜日

オープンIoTからIoSへ、モノからコトへ

 EE Times Japan、MONOist、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの産業向け5メディアは2017年12月4日、都内でセミナー「MONOist IoT Forum in 東京」を開催した。東京での開催は2016年に続いて2回目となる*)。

オープンAPIであらゆるものを連携

 特別講演に登壇した東洋大学INIAD(情報連携学部)の学部長を務める坂村健氏は、「オープンIoTからIoSへ」をテーマに、IoT(モノのインターネット)の先にあるIoS(サービスのインターネット)に向けた取り組みなどについて講演した。

 冒頭に坂村氏が紹介したのは、中国における「シェアリングエコノミー」への取り組みである。これは、インターネットを介して、企業や個人などが持つ資産やノウハウについて貸し借りをするシステムである。新たなシェアリングサービスが、続々と登場する中で、自転車のシェアリングをする「Mobike」などの事例を紹介した。このサービスの特長として、クラウドを最大限に活用していることや、シェアリングに適した独自の車体設計を行っている点を強調した。

 シェアリングエコノミーが急速に拡大する背景には、中国で急速に普及するモバイル決済システムがあると指摘する。「アリペイ(Alipay)」や「ウィーチャット(WeChat)ペイメント」に代表される、QRコードを使ったモバイル決済システムが、中国で日常化しているという。銀行口座などの裏付けがなくても、身分証番号だけでアカウントを持つことができる。利用者に対するインセンティブなども、クラウド側のプログラムを変更することで対応でき、サービスの改善などを迅速に行える。

 このためには、「API(Application Program Interface)を解放し、自動連携することが重要だ」と坂村氏は指摘する。その一例として配車サービス「Uber」を紹介した。スマートフォンにワンタッチするだけで迎えの車を手配できるシステムである。「APIの先にいるのはモノや人や組織であり、これらがインターネットでつながることが重要だ。さまざまなオープンAPIの連携がIoSとなる」と坂村氏は述べた。

 これ以外にもオープンAPI連携の事例として、ドイツにおける産業政策「インダストリー4.0」、官民が保有するデータをオープンにして活用するための「官民データ活用推進基本法」の施行、などを紹介した。また、公共交通オープンデータ協議会(ODPT)、オープン&ビッグデータ活用地方創生推進機構(VLED)などについても、その活動概況を紹介した。最後に、「文芸理融合」を掲げるINIADの教育方針や、学部創設の狙いなどを語った。

「モノ作りだけではないコト作り」へ

 特別講演として登壇した、ジャパンディスプレイ(JDI)でマーケティング&イノベーション戦略統括部 執行役員CMOを務める伊藤嘉明氏は、「第2の創業を迎えたジャパンディスプレイのIoTへのアプローチ」と題して、新たなビジネスモデルによる成長戦略について講演を行った。

 伊藤氏は2017年10月にJDIのCMOに就任した。かつては家電機器メーカーの立て直しに携わったこともある。伊藤氏は冒頭、日本の企業に警鐘を鳴らした。伊藤氏は別の企業に在籍していた当時、2年前のドイツのエレクトロニクスショー「IFA」において、IoTを搭載した冷蔵庫のコンセプトモデルを発表した。

 2017年のIFAでは、IoTを搭載した同様の冷蔵庫が、中国や韓国企業から具体的な商品として発表された。ところがこの場で日本企業からは1社も発表されなかった、と指摘する。「日本企業は、IoTに必要な技術を開発することでは先行している。それを具体的な製品に落とし込んでいくプロセスに大きな課題がある」と伊藤氏は話す。

 高い技術力を持ち、有力な顧客を抱えるJDIにも同様なことがいえるという。そこで伊藤氏は、既存のビジネス領域にとどまることなく、新たなビジネス領域の拡大にも取り組む。その背景には、IoTの浸透によるディスプレイの用途拡大がある。同時にディスプレイ単体から入出力デバイスへと進化させるためのビジネス戦略がある。

 例えば、スマートフォンや車載、デジカメ、医療機器向けなどはこれまで手掛けてきた領域である。これらの用途に加えて、棚札や指紋認証対応のスマートカード、ウェアラブル機器、サイネージ装置などの領域にもビジネスを拡大したいという。指紋センサー、高精細でフレキシブルなディスプレイ、極めて透明度が高いディスプレイ、などがその中核技術、製品となる。必要に応じて、高い技術力を持つ世界の企業とアライアンスを結びつつ、ディスプレイを利用した新たなビジネスモデルを構築したい考えである。

 もう1つ伊藤氏が強調したのが、「モノ作りだけではないコト作り」である。これまでのようにモノを作って販売する「トランザクションビジネス」ではなく、利用期間に応じて料金を支払う(あるいは受け取る)「サブスクリプションビジネス」形態への移行である。一例として、冷蔵庫のドア開閉などを遠隔地からチェックすることで、居住者の活動状態などが分かる「見守りサービス」などの事例を挙げた。

 この他、自動運転車とディスプレイの役割についても述べた。ヒューマンマシンインタフェースとして、大画面で超ワイド化、形状や曲面の自由度が高いディスプレイ、死角をなくす透明ディスプレイ、センサー技術との組み合わせなど、さまざまな技術の進化に対応できる入出力デバイスを提供する考えである。

 「MONOist IoT Forum in 東京」では基調講演や特別講演の他、モノ作り業界に特化したIoTの最新トレンドについて、具体的な事例などを紹介するセッションも実施した。その様子をダイジェストで紹介する。

IoT活用で何を期待するのか

 日立システムズは、「日立システムズIoTビジネスへの取り組み」をテーマに、導入支援からデータ収集、セキュリティ対策まで、同社が提案するIoTソリューションの活用事例を紹介した。

 日立システムズの産業・流通フィールドサービス事業グループ産業・流通インフラサービス事業部で副事業部長を務める前田貴嗣氏は、ドイツのインダストリー4.0を始め、米国や日本におけるIoT関連への取り組みに触れ、工場などにおける導入成果を紹介した。

 こうした中で同社は、顧客のIoT導入に対してさまざまな支援サービスを用意している。例えば、「フェーズ1」として、IoT活用シナリオの提案や、IoT導入支援パックの提供などを行う。この中にはトライアルの実施や、事前の想定値とトライアル結果に基づくギャップ検証なども含まれるという。さらに、「フェーズ2」として、工場内のアナログデータをデジタル化する業務代行サービスなどを用意している。「顧客はまず、IoTを活用して何をしたいのかを明確にすることが重要だ」と述べた。

緊密となるIoTとエッジコンピューティング

 ウインドリバーは、「エッジ/フォグコンピューティングで広がる新たな世界と実現に必要な技術」をテーマに、エッジコンピューティングの実現に必要な基盤技術と、フォグコンピューティングの実現による新たな世界について、デモ機などを用意して具体的に紹介した。

 ウインドリバーの営業本部IoT事業開発部で部長を務める石川健氏は、「エッジコンピューティング市場は2018年もさらなる成長が見込まれている。フォグコンピューティングはPAから普及する」と話す。

 日本における2017年のIoT市場について石川氏は、「AI・機械学習とIoTがとても緊密な関係になっている。また、エッジコンピューティングによるリアルタイム解析の市場が形成されつつある」と分析する。

 エッジコンピューティングやフォグコンピューティングの必要性や、導入するメリットなどについても触れた。例えば、エッジコンピューティングを活用するメリットとして、「工場内の生産設備をリアルタイムに制御できパフォーマンスが向上」「クラウドへ送信するデータ量を減らし通信コストの節減につながる」「オープンプラットフォームを導入することで外部製のソフトウェアが活用できる」などのメリットを挙げた。一方で、ソフトウェアのデバッグ、システム検証の工数が増大するといった課題も指摘した。

リスクベースのアプローチへシフトするセキュリティ対策

 ラピッドセブン・ジャパンは、「IoTの脆弱(ぜいじゃく)性と対策−Rapid7の取り組み」をテーマに、脆弱性の現状や同社が提供するサービスを紹介した。

 ラピッドセブン・ジャパンの執行役社長を務める牛込秀樹氏は、「セキュリティ対策は、これまでの防御ベースから、迅速な検知と対応を行うリスクベースのアプローチへとシフトする。そのためには脆弱性を認識すること(可視化)が重要」と話す。

 IoTセキュリティの特長として、「脅威や攻撃、被害の範囲が広い」「長期利用するIoT機器が多い」「用途によってはセキュリティ対策に限界がある」「IoT機器の接続先を事前に想定することが難しい」ことなどを挙げた。

 こうした中で同社は、IoTセキュリティサービスとして、自動車と運輸、家電、医療、監視カメラなどの領域に向けて、「IoTペネトレーションテスト」や「プロトコルテスト」などを提供している。講演では、監視カメラや携帯型医療機器、デジタル玩具、Bluetooth搭載機器、車載機器、照明器具などの具体的な製品を挙げ、サービス事例を紹介した。

潮目が変わる、イメージセンサー市場

 IHS Markitは、「5Gで花開くセンサー&イメージング市場〜ポスト・スマホカメラ時代の戦略〜」をテーマに、産業用途や自動運転/ドローン用途など、イメージセンサーの新たな市場についての予測などを紹介した。

 IHS Markit日本支社テクノロジー・メディア・テレコム部門の李根秀氏は、「スマートフォン向けで需要が拡大したイメージセンサー市場だが、5年以内に潮目が変わる。現在、踊り場を迎えている」と話す。その理由として、「通信環境が5Gに移行することで映像に対する要求が変わる」ことや、「車載システムや産業機器、医療機器など、新たな用途で需要が拡大する」ことなどを挙げた。

 車載カメラ市場は、2016年に5000万台を超えた。2020年に1億台規模となり、2022年には1億5000万台に達する見通しだという。車1台当たり10台のカメラが搭載されるとの予測もある。カメラ投入率は携帯電話機、スマートフォンのそれと同じスピードで推移しているという。自動運転に対応するための前方監視用カメラもこれから需要が増えると予測している。

 この他、農業や資源探査に用いるプロ用ドローン向けや、食品検査や部品検査などに用いるマシンビジョン向け、任意の波長を検出できるマルチスペクトルカメラ向けなど、新たな用途のイメージセンサーに注目。これらの市場予測などを紹介した。

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