2017年4月12日水曜日

「液晶テレビ」のシャープは本当に復活できるのか

役員同士の「不仲」で工場設備が別々だった
シャープの戴正呉社長は3月13日、大阪府堺市のシャープ本社で初の記者会見を開いた。シャープを買収した台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業のナンバー2だった戴氏が社長に就任したのは昨年8月。7カ月間、戴氏は沈黙を守ってきたが、その間にシャープの業績は回復基調に乗り、株価は4倍に跳ね上がった。ホンハイはシャープをどう改革したのか。記者会見での戴社長の発言を元に検証する。

──ホンハイが経営に携わるようになって7カ月。シャープの業績は確実に上向いている。シャープのどこが悪かったのか。
それは喩えて言えば「社長と副社長の問題」だ。社長は液晶パネル工場を建てる。副社長は太陽光パネル工場を建てる。両者の生産工程はよく似ており、本来は(配電設備や水処理設備などの)ユーティリティーを共有できるのだが、シャープではそれぞれが独自のユーティリティーを持っているのだ。

なぜこんな馬鹿げたことが起きているのかというと、社長と副社長の仲が悪いからである。私はシャープの社長になって、最初の1カ月、この会社をじっと観察した。するとこんなことがあちこちで起きていた。

こんなこともあった。太陽光パネルの材料を高値で買い付け大きな損が出た。150億円の投資だったが担当専務が独断で決済しており、社長や他の役員は知らなかった。去年の2月24日、ホンハイがシャープに出資する直前に約3500億円の偶発債務が見つかった(※1)。高橋(興三)前社長も一生懸命やっていたから、あれがなければこれほど大きな赤字にはならなかっただろう。いずれもガバナンス(内部統制)の問題だ。

今は300万円以上の取引をすべて社長の私が決済している。この半年で決済した件数は2000件に及ぶ。「社長がいちいち、そんな細かいことまでチェックするのか」と言われるかもしれないが、ホンハイではそれが当たり前だ。

私はテリー(郭台銘ホンハイ会長)の隣で26年間、働いてきた。半導体工場の工場長も5年やったし、テレビを売った台数はシャープより多い。カメラモジュールを扱ったこともあるから、NTTドコモやKDDIのこともよく知っている。

ガバナンス体制を強化したので、あんなことは二度と起きない。

〈解説〉日本ではよく「いちいち細かいことに口を挟む社長は小物だ」と言われる。しかし本当に優れた経営者は自分の会社のことを隅から隅まで知り尽くしているものだ。

日本航空(JAL)を再建した京セラ創業者の稲盛和夫氏は、JAL会長の在任中、毎月の業績報告会に提出される資料を赤ペン片手に舐めるようにして読んだ。エクセルで作られた資料には細かい数字が書き込まれていたが、稲盛氏はそこから「異常」な数字を見つけ出し、役員たちに厳しい質問を飛ばした。

最初の会議でJALは豪華な仕出し弁当を用意した。稲盛氏は「この弁当はいくらだ」と聞くと誰一人答えられず、稲盛氏は「自分が食べている弁当の値段もわからん人間に経営ができるか」と一喝した。

「家電メーカー」と名乗っていてはダメ
──シャープの業績悪化は、マネジメントの問題だったということか。
そう思う。例えば3500億円の偶発債務のうち、半分は中国で発生している。シャープは海外に約200社の子会社を持っているが、そこの社長は大半が日本人で、しかも社内評価がAグレードではない人がたくさんいた。Aグレード以上の人材はみんな国内にいた。

これからは部長以上の人材にしか海外子会社の社長はやらせない。現地の優秀な人材も登用していきたい。日本人の英語能力で現地のお客様とコミュニケーションするのは難しい場合が多い。国籍、性別に関係なく多様な人材が活躍できる会社にする。

幸いなことにシャープには優秀な技術者が数多く残っている。人材が流出していると言われるが、管理職が出ていくのなら心配ない。

シャープ従業員の平均年齢は50歳。ソニーは47歳だと聞いている。私の印象でも、新聞やテレビの報道に登場するシャープの幹部は白髪の人が多かった。若返りを進め平均年齢を45歳くらいに是正したい。

〈解説〉2012年にシャープがホンハイと提携交渉を進めていた時、シャープの町田勝彦会長(当時)は「テリー(郭会長)の周りにいるTシャツにGパンの汚い格好をした若者たちが、話してみるとやたらに優秀でスタンフォードやMIT(マサチューセッツ工科大学)出身だったりするので驚いた」と語っていた。

年齢、国籍に関係なく実力主義で人材を登用するのがホンハイ流であり、戴氏はそのホンハイで長年、人事の責任者を務めてきた。シャープでも人事改革に乗り出しており、「賞与は平均で年間4カ月だが、業績に貢献した社員には最大8カ月を出す」と「信賞必罰」の方針を打ち出している。

「液晶テレビ」のシャープは本当に復活できるのか
──この7カ月でシャープのどこを変え、これからはシャープをどんな会社にしていくのか。
まず手をつけたのは「不平等契約」の解消だ。シャープは長年、業績低迷が続いていたので、一部の取引先とはシャープにとって著しく不利な条件の契約をしていた。しかし今やシャープは売上高15兆円のホンハイ・グループの一員なのだから、不平等な契約は見直してもらわなくてはならない。1社ずつ私が行って、契約の改定をお願いしている。

先ほどの「社長と副社長の問題」は調達にも影響していた。液晶工場と太陽光工場が同じ部材を別々に仕入れているケースもあった。部門間のコミュニケーションが悪く横展開ができていない。これからはホンハイの購買力をフル活用して部材を調達し、原価を引き下げていく。

目指すのは「グローバルなIoT(モノのインターネット)企業」だ。これまでシャープは「日本の家電メーカー」だった。家電は家に帰ってスイッチを入れないと動かない。IoTはインターネットでクラウドにつながっているから、オフィスにいてもスマホで操作できる。「この製品はもうすぐ故障するからパーツを替えましょう」という新しいサービスもできる。ハードウエアとソフトウエアとクラウドが一体になったIoTのシステムを世界各国で提供するのが新しいシャープの姿だ。

先週、総務省の「第41回家電メーカー懇親会」という会議で、私はパナソニックの津賀(一宏社長)さんに「この会議の名前は正しいのでしょうか」と聞いた。自分たちを電機メーカーと呼んでいるようではダメだ。ITの活用度合いにおいて、すでに日本は先進国とは呼べないが、2020年には日本がIoTで最も遅れた国になっているかもしれない。
〈解説〉売上高15兆円の巨大EMS(電子機器の受託製造サービス)であるホンハイは、アップル、デル、ソニー、任天堂など世界中のエレクトロニクス企業と取引しており、各社の戦略をいち早く知りうる「黒子」のポジションにいる。そのホンハイがシャープ買収によって、自らのブランドで製品やサービスを提供する「役者」になろうとしている。

ホンハイ・シャープはアップルと組んでIoT時代の主役に躍り出るのか、それともアップルの対抗軸を目指すのか。郭会長は「東芝の半導体メモリー事業も買収したい」と語っている(※2)。ホンハイがIoT時代をにらんだ業界再編の台風の目になるのは間違いなさそうだ。

注1:2016年2月12日に提出された「第3四半期報告書」に債務の一覧が書かれていた。

http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/securities/pdf/122_3q.pdf

注2:3月1日、中国・広州で開いた液晶パネル工場の起工式の後、記者団に対し、「とても真剣に検討している。東芝の経営を支援し、資金を投入できる」と答えた。

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