2018年11月6日火曜日

米国中間選挙…トランプ共和党が勝ったら「米中の未来」はこうなる

中間選挙後の対中政策
アメリカ時間の11月6日、中間選挙が行われ、ドナルド・トランプ大統領の約2年間の政権運営が問われることになる。それとともに、今後アメリカがアジアをどうしていくつもりなのか、特に中国との「新冷戦」を本格的に進めていくつもりなのかが、われわれアジアに生きる人々にとっては最も気になるところである。

そうしたことはもちろん、中間選挙でのトランプ共和党の勝敗次第で変わってくるだろう。

2年前の大番狂わせの大統領選と同様のトランプ勝利、すなわち上院も下院も共和党が制した場合、トランプ大統領の再選が見えてくる。そうなると、トランプ大統領は強権を手にすることになり、政策に余裕ができてくる。

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この場合、今月下旬にブエノスアイレスで開かれるG20(主要国・地域)首脳会議の際に行われる米中首脳会談で、中国側が大幅な譲歩案を提示し、いわばトランプ大統領に頭を下げる形で、貿易戦争を終結させようとするのではないか。トランプ政権が8年政権になると思えば、中国は強気に出られないからだ。

逆に、上院も下院もトランプ共和党が過半数を占められず敗北した場合、トランプ大統領はレイムダック化し、2年後の再選はおぼつかなくなる。そうなれば、中国の方がアメリカに強気に出やすい立場になる。中国としては、トランプ政権に対しては毅然と構えておき、次の政権に備えるということだ。

一番難しいのが、トランプ大統領が1勝1敗となる、すなわち上院は共和党が過半数を占め、下院は民主党が過半数を占めるケースである。その場合、トランプ大統領としては、2年後の再選を目指す芽はあるが、もう一波乱起こして成果を得ないといけない。そのため、中国に対しては、いま以上に強硬になっていく可能性が高い。

だが中国としても、2年後にトランプ大統領が再選するかどうか不明なわけだから、民主党にも片足を突っ込むことになり、トランプ政権に大きく妥協する必要はないと考える。そのため、今月末の米中首脳会談では、そこそこの譲歩案を示し、アメリカの中国攻撃が小休止するくらいの処置を取るのではないか。

いずれにしても、中間選挙後のトランプ政権の対中政策を見る時、当面の注目点は、ジェームズ・マティス国防長官の去就だと私は考えている。

トランプ政権内の意見対立
過去2年近くの波乱と混乱に満ちたトランプ政権にあって、「政権の良心」と言えたのが、マティス国防長官だった。トランプ政権が発足した翌月の昨年2月に来日し、安倍晋三首相や稲田朋美防衛相(当時)と会談したが、常に正論を吐くこの独身主義者の振る舞いは、日本に安心感を与えたものだ。

周知のように昨年は、アメリカと北朝鮮が一触即発となった一年だったが、米朝戦争やアメリカ軍による北朝鮮空爆という「有事」を回避できたのは、マティス長官の「存在感」が大きかった。マティス長官は一貫して、アメリカによる北朝鮮への武力行使は時期尚早であるとして、逸る大統領や周辺の強硬派に「待った」をかけ続けた。有事になれば、在韓米軍や在韓アメリカ人に多大な犠牲が出る可能性が高まるからだ。

「圧力はよいが戦争はよくない」――マティス国防長官の対北朝鮮政策は、最終的にはトランプ大統領の意見と一致した。

何事も利害得失で判断するトランプ大統領は、北朝鮮と戦争すれば必勝は間違いないが、アメリカ人の犠牲が多く出れば、中間選挙に敗れ、再選も不可能になることを悟ったのだ。

そもそも米朝は国交さえないので、北朝鮮にいくら制裁をかけても、アメリカ経済とは関係ない。要はトランプ流に言えば、北朝鮮との争いは「利益を生むビジネス」ではなかったのだ。

そういうわけでトランプ政権は、今年に入って「仮想敵国」を、北朝鮮から中国に移し替えた。

この方針転換は、マティス国防長官、ジョン・ケリー大統領首席補佐官、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長らの軍閥、マイク・ペンス副大統領、ジョン・ボルトン大統領安保担当補佐官らの外交強硬派、ロバート・ライトハイザーUSTR(米通商代表部)やウィルバー・ロス商務長官らの通商強硬派、そしてキルステン・ニールセン国土安全保障長官やクリストファー・レイFBI長官ら国内安保強硬派たちに、一致して受け入れられた。

軍閥は中国軍の拡大路線に憂慮し、外交強硬派は中国の覇権取りを警戒し、通商強硬派は中国経済の急速な発展を畏れ、国内安保派は中国の技術覇権を阻止しようとしていたからだ。さらに言えば、かつてヒラリー・クリントン候補を支持した民主党エスタブリッシュメントのグループも、中国の覇権取りを押さえ込みたいという点で、中国には強硬だ。

こうした「風」を受けて、トランプ大統領は今年3月22日、中国との貿易戦争の「宣戦布告」を行った。それに対して、中国も強く受けて立った。

それから半年以上を経て中間選挙を迎えた現在、これらトランプ政権内の一群の対中強硬派たちは、一枚岩とは言えなくなってきている。簡述すれば、さらに中国を叩いて貶めるべきだと考える過激なグループと、これ以上、中国との対立が激化すると、アメリカも思わぬしっぺ返しを喰らう恐れがあると警告する穏健なグループとに分かれ、意見対立が起こっているのだ。

その後者の代表格が、マティス国防長官というわけである。

米中両軍が激突するとしたら
9月5日付『ワシントン・ポスト』は、「ホワイトハウスはジム・マティスの潜在的な交替を検討中」という記事を報じた。ジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が出版するトランプ大統領の暴露本の中で、マティス国防長官がトランプ大統領のことを、「理解力は小学5年生か6年生並み」と評したとする責任を取らされるという内容だ。

9月15日には『ニューヨークタイムズ』も、同様の辞任観測記事を流した。

これに対し、マティス長官は9月18日、国防総省で、「それらの報道を真剣に受け止める気はない。就任以来、いくたびもそういう噂が立ち、消えては次の噂が報じられた」と述べ、辞任報道を打ち消した。

だが、10月14日に放送されたCBSの報道番組『60分』で、インタビューを受けたトランプ大統領自身が、マティス国防長官の辞任説を問われて、こう答えたのだ。

「彼が辞任する可能性はある。もしも真実が知りたいというなら言うが、彼は民主党員のようだと私は思っている」

この発言は、中間選挙まで1ヵ月を切って、大統領自らが、国防長官を公の場で侮辱したに等しかった。この時、トランプ大統領は、「2日前にマティス長官とランチを共にした」とも語っている。

これは推測だが、マティス長官は、9月30日の南シナ海での米中艦艇の一触即発事件を受けて、「これ以上、中国に強硬に出ては危険だ」と、大統領に「直談判」に及んだのではなかったか。もしくはトランプ大統領に呼びつけられ、「あの時、なぜわが方が引いたのだ?」と問われて、そのような発言をして大統領と口論になったのかもしれない。

先月のこのコラムで詳述したように、10月1日、アメリカ軍は、「前日の9月30日に、南シナ海で駆逐艦『ディケーター』が『航行の自由作戦』を実施中、中国人民解放軍のミサイル駆逐艦(『蘭州』)が、海域から離れるよう警告し、41mの距離まで異常接近してきた」と発表した。これに対し10月2日、中国国防部も強く反論した。

「アメリカ軍の蛮行は航行の自由の名のもとに、法を飛び越えて沿岸国の主権と安全を脅かし、地域の平和と安定を損なうものであり、中国は決然と反対する。中国の軍隊は、防衛の職責を堅実に履行し、今後とも一切の必要な措置を取り、国家の主権と安全を決然と死守し、地域の平和と安定を決然と維持・保護していく」

近未来に米中両軍が激突するとしたら、それは南シナ海、台湾海域、尖閣諸島海域の3ヵ所のうちいずれかしか考えにくい。そのうち南シナ海が、最も危険な水域となってきたことを世界に知らしめた「事件」だった。


「米中共存」か、「米中新冷戦」か
もしも中間選挙の後にマティス国防長官が辞任した場合、おそらく「マティス派」のケリー大統領首席補佐官、ダンフォード統合参謀本部議長の二人も連座して辞めることになるだろう。そうなると、トランプ政権の対中強硬策に歯止めが利かなくなる。

トランプ政権がいま以上に強硬策に出るようになると、習近平政権も同様に、いま以上に強硬策に出ざるを得なくなる。なぜなら、前の江沢民政権(鄧小平時代も含む)は「韜光養晦」(目立たぬよう実力を蓄える)を標榜し、胡錦濤政権は「求同存異」(同じものを求めながらも異なるものが存在する)をスローガンに掲げていた。

ところが、いまの習近平政権のスローガンは、「中華民族の偉大なる復興」「強国、強軍の夢」である。普段は勇ましく拳を振り上げている習近平政権がアメリカに弱気に出たなら、8954万中国共産党の内部で求心力を失い、同時に13億9000万国民の失望を買うだろう。

そして最も不信感を露わにするのは、200万人民解放軍ではないか。

習近平が軍を統括する党中央軍事委員会主席に就任して丸6年が経つが、その間、習近平主席は、徹底して軍内の利権やビジネスなどを排除し、大胆な機構改編を断行した。そうした大ナタを振るい、「軍人には戦争中と戦争準備中の二つの状態しかない!」と発破をかけることによって、自己に軍権を集中させてきた。そんな習主席が、アメリカに対して弱腰だということになれば、軍内部での求心力は急速に薄れていくに違いないからだ。

つまり、中間選挙を経たトランプ政権が、対中強硬策のレベルを引き上げた場合、習近平政権もまた、対米強硬策のレベルを引き上げざるを得ないということだ。

具体的には例えば、2012年に尖閣諸島を国有化した日本に対して行い、2016年にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備を決めた韓国に対して行ったような、中国国内におけるアメリカ企業の締め出しである。GM、ボーイング、アップル(iPhone)、スターバックス、マクドナルド、ディズニー……。中国国内で儲けているアメリカ企業は多数あるが、それらを締め出していく。

そうなると、これは確かに「米中新冷戦」である。最後に、中国がアメリカ国債を売り払うところまで行ったなら、もはや世界は、軍事的にも経済的にも大混乱であり、まさに「悪夢のシナリオ」である。

それでは中間選挙後に、「米中共存」となるのか、それともやはり、「米中新冷戦」となるのか。

私は、それは結局のところ、トランプ政権次第だと思う。なぜなら習近平政権には選択の余地が少ないが、トランプ政権は比較的フリーハンドだからだ。

習近平政権は国内の民主化を進める気はなく、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義」を強化するだろう。そして対外的には、「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)や「新型の大国関係」(米中による太平洋二分割)を推し進めようとする。

「一帯一路」の公式ホームページでは、すでに関係国を121ヵ国まで増やしている。日本とアメリカは含まれていないが、韓国は入っているし、アメリカ大陸の国々にまで広げている。

さらに、アジアの周辺諸国や発展途上国に、「中国模式」(チャイニーズ・スタンダード)を拡散させようとするだろう。中国のように、政治は社会主義の一党独裁、経済は市場経済という方式であっても、十分に経済発展していけるということを示して、「仲間」を増やそうという戦略だ。まるで20世紀のソ連のようだが、ソ連と違って「経済の成功例」を引っさげているだけに、説得力がある。

つまり、習近平政権は今後とも、アメリカがトランプ政権だろうが、他の政権に代わろうが、「中国模式」を進めていくのである。だからそれを受容するか、拒絶して対抗するかは、ひとえにアメリカ側の選択ということになる。


日本へのラブコール
もちろん習近平政権としても、ただやみくもに「中国模式」を貫いていくわけではない。最近の特徴としては、周辺諸国への「微笑外交」を強めていることだ。特に、アメリカの東アジア地域における最大の同盟国であり、世界第3の経済大国である日本を取り込もうという姿勢が顕著である。

安倍首相の訪中については先週のこのコラムで述べたが、中国の有力経済紙『第一財経日報』(11月4日付)は、「魏建国:中日"第三方市场協力"は"一带一路"に限らない」という長文の記事を載せた。

元商務部副部長の魏建国・中国国際経済交流センター副理事長は、今回の安倍首相の訪中時の「裏方の仕掛け人」と言われるキーパーソンだ。魏副理事長の主張の要旨は、次の通りである。

「今回の中日第三方市場協力の意義は重大だ。それは日本が、『一帯一路』というカギとなる問題で、アメリカと袂を分かっただけでなく、将来の中国と他国との協力の一つの規範となるものだ。

中日はこれから、文化・環境・都市計画・養老・健康・医薬などの分野で、さらに『第三方市場』での協力を行うことになるだろう。今回の安倍首相の訪中は、中日の今後40年の貿易関係が、競争から協調になり、互いの長所を補い合い、互いの利益と共勝に変わることを意味する。加えて、中日が手を携えて自由貿易を推進し、一国主義や保護貿易主義に反対していくことを示した。今後は、日本がAIIB(アジアインフラ投資銀行)に加入することもあり得るだろう。

習近平主席が『新シルクロード経済ベルト』と『21世紀海上シルクロード』の建設協力を提起して以降、日本最古参の軍需工業企業であるIHIの社長が、真っ先に私のところへ来て、日本も参加できないだろうかと聞いてきた。その後、私が推進した一連の活動の中で、日本の企業経営者たちが積極的に発言したのは、『走出去』(中国企業の対外進出)に対する強烈な協力願望だった。

現在、伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産などは、中国企業といかに『一帯一路』の関係国家地域でインフラ建設や農業、加工製造業、新エネルギーなど多分野で協力できるかという研究を強化している。

それは、中国とその他の国が、第三国の市場を共同開拓することの先例ともなる。例えば、中国とフランスが、イギリスのヒンクリー原発を共同開発するプロジェクトや、中国とアメリカがギニアでアルミニウムとバナジウムの資源開発を行うといったプロジェクトなどだ。

これらの協力は個々のプロジェクトに過ぎないが、今後行っていく『第三方』は、『一帯一路』の関係国ばかりでなく、さらに広範な市場と地域を含んでいる。10月26日に、中日双方がサインして以降、すでにフランス、ドイツなどの国の関係者が私のところへやって来て、詳細な研究を行っている。彼らは日本が先鞭をつけたと見ているのだ。

これらのプロジェクトは、『企業主体、市場操作、政府引率、互信互利』の原則を尊重しなければいけない。そしてすべての具体的状況を公開し、一部の国際学者たちの『一帯一路』のプロジェクトの透明度、資金源、投資の回収などへの関心に応えたものになっている。

今回の中日の第三方市場での協力の覚書は、今後の事業のためのプラットフォームであり、中国国際貿易促進委員会とJETROが企業を牽引して行ったプロジェクトである。その他、中日は共にエネルギーの需要が大きい国であり、石油や石化産品の輸入時に、人民元決済ができるようにする。中日が将来、国際的な銀行団を組み、第三方市場を共同開発した場合、さらに信用と利便性が増すだろう。

中日は手を携えて、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)を年内に妥結させるだけでなく、中日韓自由貿易協定(3ヵ国で世界貿易の4割を占める)も推進していく。もしも日本が、TPP11という枠組みを超えてもよいというなら、中国はおそらく完全にそれに乗っていけるだろう。世界第2と第3の経済大国が手を携えれば、この地域の協定の範囲と質が広がり、さらにレベルアップした自由貿易協定となるだろう」

これまでは考えられもしなかった日本へのラブコールである。ちなみにこの記事には、下記の補足説明もついていた。

・今年1月~8月の日中貿易額は2141億ドルに達し、前年同期比11.2%アップで、過去7年の下降線を変えるものである。
・1月~8月の日本企業の中国での新規進出は529社に上り、前年比40%以上アップ。投資額も28.2億ドルで、前年同期比38.3%アップした。
・中国国際輸入博覧会(上海で11月5日~10日に開催)で、579社の日本企業が参加し、世界最多。日本企業のブースの総面積は1万8888㎡に達する。

この説明の最後にあるように、中国はアメリカの中間選挙にぶつけて、中国国際輸入博覧会を開催した。初日の5日午前中には、北京から駆けつけた習近平主席が、基調演説を行った。

「中国は主導的に輸入を拡大していく。単なる計画ではなく、世界に向かって、未来に向かって共同で発展していくことを遠謀深慮し、促進するのだ。中国は将来にわたって、国内消費を順調に伸ばしていくものと見られ、またそれに向けて有効な政策措置を積極的に取っていく。国民の収入が増加し、消費能力が高まり、中間層や富裕層の消費を伸ばしていく。国内市場の潜在力を引き続き開放し、輸入の余地を拡大していく。

中国は将来的にさらに関税を下げ、通関の利便化のレベルを上げ、輸入にかかるコストを削減し、国際ECなどの新業態、新モデルの発展を加速させていく。中国には13億人以上の大市場があり、中国は真剣に各国に市場を開放していく。中国国際輸入博覧会は毎年開催するばかりか、そのレベルと効果を年々引き上げていく」

まさに、中間選挙に必死になっている太平洋の向こうのトランプ大統領を意識したメッセージだった。米中貿易戦争が中国側に不利なのは事実だが、中国もただでは転ばないというわけだ。

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